エードルフ、軟禁される

 宰相は転移を阻止するためか俺からブローチを取り上げ、客間の一室に押し込んだ。

 まぁ、王宮時代よく抜け出していたからな。当然の対応だろう。

 体よく外には護衛役の衛兵が監視の目を光らせており、侍女はぴったりとくっついて俺から離れない。

 これでは手紙を送る転移陣の一つだって書けやしない。

 俺は早々に連絡を取る事を諦めた。


 俺は兄上に会い、宰相立ち会いの元でハルナの件をすべてを認めた。

 言われるだろう契約解除の件も、俺が一瞬でもハルナを手放したくなくて拒み、宰相の怒りに触れた。

 兄上は私を庇おうとなされたが、宰相は聞く様子もなく、さっさと俺の処分を決めてしまった。

 血脈のせいかな。先王もこんな気持ちで聖女を囲ったのかもしれないと同情するのと、同じ血が流れていて、いつか自分もハルナをそうしてしまうかもしれないと少し怖くなった。

 俺はトラウザーズの隠しに手を入れて、ハルナのリボンを取り出した。


(ハルナは今、どうしてるかな……)


 同じ屋根の下にいないだけで、どうしてこうも不安なんだろう。

 向こうにはルドヴィル達もいるし、宰相だって暇人じゃないから、流石に今夜ハルナをどうこうする事はないとわかってるのに……。


 窓からは青の4の月。俺との契約解除は明日の5の月でできるが、誰かと縁付けるためにはハルナ用の婚姻の石が必要だ。

 石との契約は月が満ちる1の月にしか作れない。少なくともあと7日の猶予がある。


 俺はルドヴィルが言っていた作戦とやらを思い出す。


『エードルフ様。あなたが王宮に出向けば、父は理由をつけてブローチを取り上げ、次に手にできるときは、エードルフ様が公式の場に出るときです。公式行事には石が必ず必要になりますからね。その時だけ魔力も魔術も使えるはずです。その後はエードルフ様の思う通りになさって下さい。私も微力ながら助力しますよ』


 今のところはほぼルドヴィルの読み通り、なんだよな。

 さすが親子。よく分かっていると思うが、親父殿もルドヴィルの考えくらいお見通しだろう。

 多分作戦のすべてを言わなかったのは、親父殿に作戦のすべてを読まれないようにとの考えもあっての事だろうが、公式の謁見で魔術を使って、一体何を好きにしろと言うのか?


(……考えても分からん。もう寝よ!!)


 侍女にもう休むと伝え、着替えてベッドに潜り込んだ。

 大体考える事はルドヴィルの担当で、俺は言われた通り剣を振り回す肉体労働専門。

 明日は公式謁見で宰相と兄上、その他貴族連中を相手にしなければならないのだから、さっさと寝て英気と魔力を蓄えておかねば。

 強引に目をつぶって眠ろうとしたが、目が冴えて眠れない。

 何度やってもこういう公式行事は慣れなくて緊張する。

 大体俺が王族に生まれたのが間違いなんだよな。

 来世は平民に生まれたいよ。


 眠れずにゴロリゴロリと寝返りを打ってると、

「お休みの所失礼します、殿下。陛下がこれから訪問したいとの先触れがございました。いかがいたしましょう?」

 と侍女がドアの外から尋ねる。


 兄上?

 こんな遅い時間とは珍しいな。


「いいよ。通して。着替えたら行く」

「かしこまりました」


 俺はむっくりと起き上がり、用意されていた部屋着を身に着けて応接間の扉を開けた。

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