彼氏にフラれたアラフォー女子が不測の事態によりうっかり素っ裸で異世界転移しましたがイケメン騎士様が寝床とマントをくれてついでに年齢が巻き戻ったので何とか幸せをつかめそうです

ななしあおい

第1章 素っ裸でこんばんわ

エードルフ、空腹を覚える

「ルドヴィル、大丈夫か!?」


 暗闇の中、俺は大剣でオークの毛むくじゃらな首をすぱりと切り捨てて、返す刃で別の一体の右肩から左わき腹までをばっさりと切断して血糊をざっと払い、右隣の相棒に声をかける。


「まぁ、なんとか。団長。このオークの群れ、何体いると思います?」


 ルドヴィルは疲れているのか、冗談も言わずオークを切り結び、細身の剣を別のオークへ飛び上がって突き立てる。

 2体の死骸は黒い霧に変わって跡形もなく消えた。


「さあな。だけど腹いっぱい飯も食わずに、安眠できるかよっ!」


 飯の事を考えると、途端に腹の虫がぐぅと不平を鳴らす。

 たとえ魔力を身体維持に回せても、空腹感までは満たされない。

 5日も飲まず食わず眠らずでは、そろそろ精神的限界が近い。

 塩漬け肉に腸詰……。焼きトマトに焼きじゃがいも。。。

 そういやトマト畑、5日も様子を見ていない。

 早く帰ってトマトの脇芽、摘まないと大きくならないじゃないか!


「この臭いにおいの中で、飯の事を考えられる団長も大概ですね。頼もしい限りですよ!!」


 ルドヴィルは玉ねぎが腐ったようなオークの臭い返り血で顔をしかめつつ、俺に返す。


 ここはブラウルム王国、魔の森。


 俺はエードルフ・シュヴァルツヴァルト。

 シュヴァルツ騎士団団長だ。

 普段はヒマなもんだが、ここ数年はとてつもなく忙しい。

 忙しい原因は、我が国の聖女様が不在だからだ。


 聖女とは、この国に平和と豊かさもたらす存在。

 聖女がいないとこの地の魔力はあふれ、あふれた分は魔物に変わり、人を襲う。


 こことは別の世界から現れて、彼女達がここに留まる間はこの国の平穏は保たれ、我々はこの地の強大な魔力の恩恵を受ける。


 そのためにこの国から出さぬよう、彼女達は望まぬ婚姻を強いられ、子を成し、思う親心さえ利用してこの地に縛り付ける。

 全くもって碌でもない。

 誰かの犠牲によってしか守れない国土など、魔物でも隣国でも渡せば良いのにと思う。

 決して口に出せる立場ではないが。


 その聖女様は、お亡くなりになった。

 過去の記録では3年もせずに、次の聖女が現れていたのだが、一向に現れないまま月日は流れて、6年と少しが経過している。

 本来なら亡くなっても次の聖女が出現するまでの期間、先代聖女の守りが働くのだが、今回は時間が経ちすぎていて、守りにも綻びが出ている。

 今や国のいたるところで魔物が出現し、人々の生活や生命が脅かされている状況だ。

 王宮では、とうとう新たな聖女を召喚する準備を始めたと兄上から聞いている。


 オーク達は仲間を呼ぶ甲高い独特の唸り声を上げて、こちらを睨みつける。


「おいおい。この上、オークキングまで呼ぶつもりか?」


 勘弁してくれ、とルドヴィルは少々疲れた表情で言う。

 土地からの魔力を使えるので身体的に問題はないと言っても、5日も眠らず、気も休まらないのでは精神面がちときつい。

 俺やルドヴィルはともかく、年若いアーヴィンやシルヴァンもそろそろ限界だろう。

 それにこんなところでオーク達の餌になるのはゴメンだ。

 俺にはやりたい事がまだまだ沢山ある。

 腹いっぱい飯も食わずにこんな所で死ねるか!

 大剣にごっそりと魔力を流して魔術で炎を纏わせる。


「ルドヴィル、アーヴィンやシルヴァンと一緒に一旦下がれ! まとめて燃やしてやる!!」


 ルドヴィルが離れたのを確認すると、俺は大剣を地面に突き立て、オークの群れを取り囲むよう魔力を流すと、その筋に沿ってオークの身の丈程の炎の壁が現れる。

 オーク達は獣の性で火を嫌う。

 炎を避けるように後ずさってひと固まりとなる。

 逃げ場がなくなったところで、アーディンが足元を土魔法で大きく崩してオークをまとめて大穴に落として、俺が燃やし尽くすのだが、オーク達はうめき声もあげずに黒い霧となって跡形もなく消えていた。


「え? 俺、まだ術は発動してないぞ……」


 魔物は命の祝福から外れ、魔力のみによって生かされている存在。

 だから死ぬ時には、魔力が地に還り、黒い霧となって何も残らない。

 俺は地面に刺した大剣を引っこ抜き、空っぽになった地面を見る。

 数えるのさえおっくうなほどのオークを一瞬にして消し去る魔術などこの世にはないが、人物なら思い当たる人がいる。


「なぁ、ルドヴィル。これって……」

「どこかの地に聖女が現れた、のかも知れませんね」


 そうか。とうとう現れたのか。

 少し切ない気分で、大剣を鞘に納める。


(かわいそうにな……)


 また聖女一人だけに犠牲を払わせて、俺達の何十年かの平和な時間が始まる。

 せめて聖女が縁付く夫とうまくいって、ここにいる間は少しでも幸せに過ごしてほしいと願わずにはいられなかった。

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