いくつかの小品

理柚

素敵な片想い

寒い夜だから、というのを言い訳に

ちょっとだけ恥ずかしい話をしてもいいかな?


きいんと冷える道を歩いてきて

突然 あたたかい部屋に入ったときのような恋に

今でも落ちてしまうことがある、っていう話だ


相手は「ひと」とは限らない

ふと耳にふれた音楽だったり

しなやかな言葉だったり

それらによって隠れた器官が揺さぶられ

鳴り始めてしまうとそれはもうたいへん

靴の踵のリズムと白い息に乗せて  

うつくしい響きを何度もなぞってはそのたびに 

こころが震えて落っこちてしまって

本当にまあ 困ったものだよ


マッチの燃え殻

ストーヴの匂いにほどける

ケトルの白い蒸気に手をかざして

纏っている重いコートを脱ぐように


冷えきったものが溶けてゆく

そんな片想いを何度もしている

そして きっとこれからもするんだろう

叶うことなど望まない とびきり自分勝手なやつを


寒い夜だから、思わずほろりと言ってしまえば

もしかしたらそれは(ちょっと恥ずかしいけれど)

けっこう素敵なことなのかもしれない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る