実家の6匹の猫と祖母について

@nekomera

第1話 春

 我が家には6匹の猫がいる。その猫たちと祖母の兼ね合いがなんとも可愛らしく、面白みのあるものである。そのため、執筆を通して皆に伝えたいと思う。今回の主人公はロシアンブルーのような毛並みを持ち、祖母にしか可愛らしい一面を見せない雑種のはるである。この猫は、本当にわがままなツンデレ猫である。私が帰省した時に名前を呼ぶと、喉をゴロゴロと鳴らし、尻尾を天に向けぴょんぴょん跳ねた様子でくるのであるが、頭を撫でようとするものであれば、彼女の目は途端に狩人そのものとなり、私の手をかぶりとする。しかし、猫好きの私からすれば一度の塩対応にはめげずにじっとその場にて、彼女の機嫌が治り頭を撫でさせてくれるのを待つのだ。すると、何事もなかったのように喉をゴロゴロと鳴らし、尻尾をピンっと天にあげ、近づいてくるのではあるが、頭を撫でようとするものであれば再びかぶり。このやりとりが二度三度続き私は諦めて家に入る。


 こんなツンデレなものではあるが、祖母にはなぜか嬉しそうに頭を撫でさせる。何か手に違いがあるのかと思ったりもしたが、それはおそらく祖母の持つなんとも言えないふんわりしたポカポカした雰囲気なのであろう。過多にものを望まない雰囲気。20代の荒波を生きる私とは全く違う雰囲気に、あのツンデレ娘も心を許しているのであろう。


 この猫が我が家に来たのは私が小学校5年生の時ぐらいであろうか。この時に我が家に来た猫たちは3匹である。残りの2匹についてはのちに紹介するとしよう。私は、大学進学時に故郷を離れ、家を出た。その時はるは、10歳くらいであったが、私は、はるに本当に嫌われていて、全くよってこなかった。10年間の時を積んだとて1匹の猫と心を通わすことができないとは…人間とは本当に不器用な生き物である。しかし、祖母には心を許していて、10年間いつも祖母の周りをウロウロしていた記憶がある。いつも祖母とともに畑仕事に勤しみ、少し実家付近のパトロールをし寝るといった毎日であろう。おそらく、はるは我が家に来てから現在までの10年弱いつも祖母と毎日を過ごしたのだ。これは流石に敵わないなと思う。なにせ、猫が好物とする魚を祖母以外の手からは食べないといった始末だ。母にも懐かず、なぜか祖母の近くで毎日にゃあにゃあと子供のように甘える。時には、近所に散歩に行った祖母を見守るかのように家の塀からじっと祖母の後ろ姿を見守ってさえいた。のちに、新参猫のくり、それとあと2匹の猫が我が家に来た時はこれ度もないほどに新参猫を拒絶した。現在はくりとは同じ部屋で寝るようになったが、残り2匹とは目も合わせない。


 ある日そんなはるを眺めていたら、いつも通り祖母が畑で何かしらの作業をしていると、にゃあにゃあ鳴きながら祖母の元に擦り寄り、祖母はそれを完全に無視して作業を続ける。そして、はるは甘えることを諦めて、少し遠くから何かしらの作業をしている祖母を見守る。祖母が少しでも動きようものなら、すかさず後ろを追いかけ、またにゃあにゃあと鳴く。そして作業の休憩をする祖母とともに空をボーっと眺めて時を過ごす。


 おそらく、なんの意味のない時間なのではあるが、はると祖母には10年間以上続いた日常なのである。なんの意味もない時間が二人が生きている証拠であり、我々もそれは同じだ。一人でタバコをふかす時間、流行りのTV 番組を見る時間、愛する人と過ごす時間。みんな同じ時間を異なる価値観で生きている。その時間を自身のために孤高奮闘するもの、有り余った時間として雲の流れるのを見ながら消化するもの時間の使い方は人それぞれで、決まりはない。


 話は逸れたが、この光景は、なんと心温まるものであろうか。猫と祖母が何も言わずに心を通じあって時間を共にする光景甘えようとする。そして、甘えようとする猫を完全に無視する祖母。おそらく、猫は構ってもらいたい生き物であり、構ってくる物体を嫌うのだろう。そのため、はるから見た私は、何かニヤついて心地悪い音程の声をだし、頭を触ろうとしてくる変な生物と認識され、結果として攻撃対象になってしまったのかもしれない。だが、猫にひっかかれてついた手の傷は猫付きの私にとっては猫と生きた証拠であり、勲章なのだ。あの、小さな手から繰り出される、針のような爪は思った以上に手の薄い皮膚を切り裂き、思った常に出血する。私には決してスキを見せないはるであるが、少しは信頼関係はできているであろう。


 最近は両者ともにすっかり年を重ね、昔のような勢いは消えたが、今日もまたのんびりと畑で雲を眺めているであろう。

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