最終話 朔夜フォーエバー!前編





「朔夜くん、おはよ~!!」


 朝、玄関を開けるとそこには・・・

 瑞穂がいました・・・


 ついに、俺の家にまで迎えに来てしまったのね・・・?


 もう逃げられないのね・・・?


 まあ、家がばれた時点でこうなることは予想出来ましたけど・・・


 そう考える俺は、玄関の前で茫然自失になっていると・・・


 ムギュッ!


「す~は~・・・朔夜くんの匂いだぁ・・・やっぱり良い匂い」


 と、正面から抱き着かれてすーはーされましたよ・・・


 って、だああああああ!!

 いちいち抱き着くんじゃねえ!!


 しかも、良い匂いなのは瑞穂の方だろがあああ!


 って、それよりもやめてやめてぇ!!

 色んな所が柔らかいんだよ!!


 特に禁断の果実が、凶悪過ぎんだよ!!


 誘惑されそうになんだろが!!


 悪魔の囁きか!?

 そうか?そうなのか!?


 品行方正な俺に、堕落しろとでもいうつもりか!?


 ・・・あ、すでに堕落してました。

 品行方正とはかけ離れてました、ごめんなさい・・・


 って、そんなことはどうでもいいんじゃい!!


「ふふっ・・・そうだね、それはどうでもいいとして」


 そう言いながら瑞穂は俺から離れる。


 皆して、俺の考えはどうでもいいとか・・・


 確かに自分でも言いましたけど・・・

 人から言われると悲しい・・・


 俺、泣いちゃうよ?


「それよりも、早く学校に行こっ!」


 そして困惑した顔をした俺を見ながら、瑞穂は楽しそうに俺の手を取る。


 って、だから!

 手を握るなって!


 しかもまた、恋人繋ぎじゃねえかよ!


 更にはもう一方の手で、俺の腕を引っ張るもんだから・・・


 俺の肘に・・・

 ポヨン・・・ポヨン・・・


 もう、やめてえええええ!!


 気持ちいいよぉ!

 凶悪な柔らかさですよぉ!!


 ってそうじゃねえ!


 これ以上は、俺の精神が持たねえっての!!


 だから、もうやめてください・・・


 そう考える俺の口からは、魂がゆっくりと顔を覗かせていく。


「ふふっ、絶対に私に興味を持たせてみせるからね!覚悟してよね♪」


 魂が出かかって放心状態の俺に、瑞穂は楽しそうにそう告げるのであった。



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



「お~い、朔た~ん!!」

「ごふぅ!」


 教室に入った俺を出迎えてくれたのは、美鈴のタックルでした・・・


 く、くそっ!

 思いっきり腹に入ったじゃねえか!!

 変な息が漏れたじゃねえか!!


 とはいえ、以前のように背中から倒れる事はなく、今は尻餅をついただけで済んだが・・・


 まあ、今回の美鈴は俺の胴に抱き着きはしたが、俺が倒れかけるとすぐに離れたからというのもあるが・・・


 そんな美鈴が、尻餅をついている状態の俺と目線を合わせるようにしゃがんだ。


 しゃがんでしまったのだ・・・

 しかも両ひざを立てた状態で・・・


 その両ひざに両肘を乗せ、両手には頬を乗せている。

 ということは、スカートを手で押さえようともしていないのである・・・


 従って俺からは・・・

 丸見えである・・・


 美鈴のある一部に咲き誇っている綺麗なお花が、俺の視界に入っているのである・・・


 ・・・・・

 ああ、心が洗われるようだ・・・


 ・・・って!ばかやろう!!

 だから、それで心が洗われたらやばいっつってんだろが!!


 変態すぎるじゃねえかよ、俺!!


 しかも、前に購入した黄色タンポポじゃねえか!


「うぷぷっ、朔た~ん?どこ見てんの~?」

「見てねえし!?どこも見てねえし!?」


 美鈴に指摘された俺は顔を反らす。


「いや、朔たん?顔を反らしても目がガン見してるんだけど?」


 はっ!?

 なんだと!?


 この紳士である俺が、見るわけがないだろ!?

 現に、俺のこの目にはタンポポしか・・・


 ・・・いや、俺しっかり見てんじゃん!!


 くっ・・・

 いくら顔を動かしても、目が離せないだと!?


 くそう!!

 魅了チャームだな!?魅了の魔法を使ってやがんだな!?


 紳士な俺の目を反らさせないなんて、美鈴は一体どんな強力な魅了の魔法を使ってやがんだ!!


「いやぁ、朔たんが勝手に見てるだけで、私が魔法なんて使えるわけないっしょ?」


 ・・・・・


 おい!誰だ!?

 今、俺を変態紳士っていったやつ!!出てこい!!


 ・・・くそう!美鈴めぇ!!

 正論を並べやがって!


 つーか、いい加減に足を閉じやがれ!!


「っていうか、朔たん?いい加減、私のパンツから目を離してくんない?」


 ・・・言っちゃったよ!

 俺ずっと花だと濁して言ってたのに、はっきり言っちゃったよ!


 そんなにはっきり言われると、変態みたいじゃん!俺!!


 そんな事を考えながらもタンポポから目が離せない俺・・・


「つーか、いい加減に膝を下せ!お前は痴女か!?」

「え~?そんな事ないよ?見せるのは朔たんだけにだよ♪」


 美鈴はそう言って、ニヤニヤしながら徐々に顔を近づけてくる。


「ほらほらぁ、朔たんがパンツ大好きパンツマンだという事はわかったからさぁ。さあ、こっち向いてよ」


 いや、ちげえし!

 なんだよ、その不名誉な呼び方は!!


 と、俺が嘆いている間に、俺の視界が埋まるほど美鈴の顔が近くにあった。


 ・・・てか、近い近い!!

 離れろや!!


「だってさぁ、変態朔たんは離れたらまた私のパンツしか見なくなるっしょ?」


 いや、そんな事ねえし!


 つーか、さりげなく俺を変態呼ばわりすんじゃねえ!!

 俺は紳士だと言ってるだろうが!!


 そもそも、お前が膝を下ろせば済む話だろが!!


「うぷぷっ。焦る朔たん、か~わいい~♪」


 ばっかやろう!!

 どいつもこいつも、男に向かって可愛いとか言うんじゃねえ!


 喜んじゃうじゃねえか!

 かっこいいと言われるより、なんかくるじゃねえか!!


「あははっ!朔たんの事なんて、何でもわかってるからねぇ♪」


 そう言って美鈴は俺に抱き着き、頬ずりしてくる。


 いやああああああ!!

 やめて、やめてええええ!!


 気持ちいいよぉ!

 あったかいよぉ!!


 俺が喜びに打ち震えて・・・じゃなくて、嘆いていると・・・


「ふふっ、そんな面白い朔たんが大好きだよ」


 と、ぼそっと美鈴が呟いていた・・・



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 美術の授業が始まった時の事。


「よいしょっとぉ」


 なんの前触れもなく、みなもが俺の膝に座りましたよ・・・


 って・・・


 もももももももものうちぃいいいいい!!


 いや、ちげえ!


 それはすももだろが!

 桃と桃と桃が桃なのは当たり前だろが!!

 しかも一個増えてやがるし!!


 てか、桃しか言ってねえ!!


 って、そんなどうでもいい突っ込みしてんじゃねえよ、俺!!


 そんなことよりも、やめて!やめてぇ!!


 俺に桃を意識させんじゃねえ!!

 そのせいで、わけわからん事ほざいてしまったじゃねえかよ!!


 そんな俺の嘆きもむなしく、みなもは更に体を後ろに倒してきましたよ・・・


 完全に俺に体をあずけてしまいました・・・


 もう、色んな所が柔らかくて暖かくて気持ちいいです・・・


 って、だああああああ!!

 堪能してんじゃねえ、俺!!


「やっぱり、朔ちゃんの膝は落ち着くよねぇ・・・」


 いや、笑顔でそう言われても知らんし!

 俺が落ちつかんし!!

 そして周りの視線が痛いし!!


「って、朔ちゃんの膝を堪能したいのもやまやまだけどぉ、とりあえず今は課題にとりかかろぉ?」


 いやいや、この状態では俺も絵を描けないんですけど!?


「何言ってるのぉ?こうすれば描けるよねぇ」


 俺の心の嘆きに対しナチュラルに応えるみなもは少し体を起こすと、俺に鉛筆を持たせ一回り小さいみなもの手で俺の手を包み込む。


 ちっちゃくて、やわこくて、温かいです・・・


 って、そうじゃねえ!


 なんで!?

 みなもは何で俺の手を取ってんの!?


 ドキドキして手がプルプルするんですけどぉ!!

 余計に描けないんですけどぉ!!


「ふふっ、朔ちゃんとの初めての共同作業だねぇ」


 ちょ!

 なんか言い回しがやらしいからやめて!!


 違う意味に聞こえてくるじゃん!!


 ほらっ!

 周りの人からのジト目が痛い!!


「頼む!頼むから、一回離れてくれ!!」

「えぇ?もう、しょうがないなぁ」


 みなもは笑顔でそういいながらも、全然離れようとしない。


 むしろ、横向きになったと思うと俺に抱き着いてきやがった!!


 なんでだよ!!

 なんで離れるどころか、もっと密着してんだよ!


 俺は周りの視線・・・完全なる死線にさらされて、もう泣くしかないのである・・・


「ふふっ、いいんだよ朔ちゃん!朔ちゃんはいつまでもそのままでいてね♪」


 俺を見ながらそう言ったみなもは、満面の笑みを浮かべていたのである。



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 昼休み。

 今日は唯と鳴海ちゃんの3人という、珍しいメンバーでお昼を取る事になった。


 なので、たまには趣向を凝らし中庭のテーブルで弁当を広げている。


「もう、本当に先輩のお馬鹿さ加減には、呆れて物が言えません」

「ふふっ、ごめんね。でも朔夜ちゃんらしいですよね」


 唯は、未だに俺が鳴海ちゃんと一ノ瀬先輩に嘘告した事を責めているのだ。


「ああ、すみません。鳴海先輩や一ノ瀬先輩が悪いわけじゃないですよ?全ての原因は、無自覚たらしの朔夜先輩にあって、悪いのは朔夜先輩だけです」

「うんうん、気持ちはわかるよ。気が付いたら、みんな朔夜ちゃんにたらしこまれて、虜にされていますもんね」


 ちょっとやめい!!


 おかしいだろ!!

 俺が無自覚たらしだとか、俺が虜にしているだとか!!


 俺はそんな事をしているつもりはねえ!!

 俺は自分のしたいようにしているだけだ!!


 ・・・あっ、だから無自覚なのか?


 いやいや、確かに無自覚かもしれんが、女性をたらしこむような事は一切してねえ!!

 惚れられるような行動をとったつもりはないぞ!?


「まあまあ、とりあえずお昼を取りましょう?」

「そうですね。先輩に言った所で治る・・わけないし、それが先輩の良い所でもあるわけですからねぇ。気にせずお昼を召し上がりましょうか」


 ・・・治るじゃなくて直るじゃね?

 俺が病気みたいに言わないでくれますか・・・?


 悲しみに心の中でシクシク泣いてしまう。


 まあ、それはともかく、俺もさっさと昼飯を食おう。

 と、唐揚げを箸で掴んだ瞬間。


 つるっと滑って、唐揚げが弧を描いて宙を舞う。


 その唐揚げの着地点は・・・


 鳴海ちゃんのふくよかな果実へと・・・


 しかし、当たって落ちるかと思った唐揚げは、予想外の展開へ・・・


「あっ・・・ん・・・」


 思いのほか弾力のある鳴海ちゃんの風船に弾き返され、最初の軌道よりも大きな弧を描いて俺の元に・・・


 いや、正確には俺の口へとダイレクトに・・・


 カポッ!


 ・・・・・


 うむ、大変おいしゅうございます!

 何にも勝るスパイスのおかげで、より美味でございます!


 ・・・・・って、ちげえ!!

 そうじゃねえ!!


 よく弾むじゃねえか!弾力が素晴らしいじゃねえか!

 それよりも・・・思っていた以上に巨乳じゃねえか!!


 隠れ巨乳か!?あぁん!?


 って、それもちげえ!!


 俺はどこまで変態に成り下がってんだよ!!


 そもそも、鳴海ちゃんの風船に当たった唐揚げ食って喜んでんじゃねえよ!!

 それはもう、やばすぎだろが!!


「ちょっとせんぱ~い!?なに幸せそうな顔してるんですかぁ!?」


 ち、違うし!!

 幸せそうな顔なんてしてねえし!!


 なぜなら、俺はそこまで変態じゃねえからだ!!


「巨乳ですか!?先輩は巨乳が好きなんですかぁ!?だから私のアピールにはなびかなかったんですかぁ!?」


 ち、ちげえ!!


 てか、やめろ!

 俺が女性を巨乳かどうかだけで判断しているような言い方をするのは!!


 しかも唯は鳴海ちゃんの胸と比べながら、自分のちっぱいを大きくしようとして揉んでんじゃねえ!!


 ドキドキすんだろが!!

 興奮すんだろが!!


 いいか!?よく聞け!!

 俺はちっぱいだろうが巨乳だろうが、女性の果実が好きなんじゃあああああ!!


 ・・・・・


 ・・・はっ!

 お、俺は一体何を口走ってんだ!?


 バカじゃねえのか、俺!?


 もう色々ありすぎて、俺の精神は本格的におかしくなってきた・・・


「・・・私の・・・に当たった唐揚げを朔夜ちゃんが・・・嬉しい・・・間接的おっ・・・」


 やめてやめてぇ!!

 鳴海ちゃん何言う気だよ!!


 これ以上俺の精神をおかしくしないでくれえええええ!!


「ふふっ、照れてる朔夜ちゃん可愛いです」

「あははっ、本当ですよねぇ♪・・・からかいがいがあって、面白くて、時には優しくて・・・そんな先輩が、大好きですよ♪」


 精神に異常をきたし身悶えている俺の耳に・・・

 そんな言葉が右から左へと通り抜けていったのであった。



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