第2話 朔夜、あまりの出来事に錯乱する!




 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 ・・・はっ!


 いかんいかん!


 あまりの出来事に、一瞬脳が死んでしまった。


 よし朔夜さくや、一回落ち着け。


 うん、俺は朔夜。

 俺は星空朔夜だ。


 クラスメイトであるイケメンモテ男の達也などではない。

 もちろん入れ替わったりなどしていない。


 そうだ、間違いなく俺は平々凡々野郎の星空朔夜だ。


 そんな星空朔夜の告白、しかも嘘告を受け入れる奴などいるわけがない!


 ・・・そ、そうか、幻聴だ!


 幻聴にチガイナイ・・・


 きっと、ごめんなさいと言っているはずだ!


 もう一度よく思い出してみよう・・・


(俺)「好きです!付き合ってください!」


 そう言って俺は、頭を下げて手を伸ばしたはず。


 そして俺が名前を挙げた3人、綾瀬・花崎・佐久間が俺に近づいて来る。


 その後だ・・・


「・・・お願いしますごめんなさい


 一文字も合ってねえええええ!!


 ごめんなさいじゃなくて、お願いします!?


 何これ、どういう事!?

 俺死ぬの!?


 俺は驚いて顔を上げて3人の顔を見ると、3人共いがみ合う訳でもなく、ただただ顔を赤くしながら照れくさそうに俺の手を取っている。


 いやいや、おかしいでしょ!!


 この状況で言う言葉は、どう考えても“ごめんなさい”が正解だ。


 百歩譲って・・・

 いや、1万歩譲ったとしてもだ!


 俺の告白を受け入れてくれたとしても、3人共からOKが出るとかありえない。


 ・・・ああ、そっか!!

 わかったぞ!!


 彼女達も、この茶番に付き合ってくれたんだな?


 この後、「なんちゃってぇ(てへぺろっ)」とか「やっぱり、ごめんなさい」が出るはずだ。


 そう思いながら3人の顔をじっと見回すと、照れたように更に顔を赤く染める。


 ・・・あれぇ??


「ちょ、ちょっと・・・ひ、一つ確認なんだけど、も、もちろん・・・じ、冗談なんだよね??」


 埒が明かないと思い、俺は意を決して彼女達にそう問い掛ける。


「ううん、冗談でこんな事言えないよ?」

「うん、冗談じゃなくて本気だよぉ」

「私がそういう冗談を言えると思う?」


 綾瀬も花崎も佐久間も、目がまじだった・・・


 ・・・いや、マジでぇ!?


 冗談じゃなかったよぉ!!


 どうしよう、どうしたらいい!?


“ごめんなさい”をされるためにやったのに、こんな時はどうしたらいいんだぁ!?


 誰か教えてくれぇ!!


 元々3人の誰かと付き合いたいと思っていたわけじゃないし、付き合えるとなんて夢にも思っていない。


 ・・・それにだ!

 3人からOKされたからって、本当に3人同時に付き合うなんて事が許されるわけがねえ!


 って事は、3人の中から誰か1人を選ばないといけないよな!?

 そうなると、選ばれなかった子を悲しませる事に・・・


 ・・・くっ!

 マジかよ!


 究極の選択じゃねえかよ!!


 くそぉ!

 誰を選んだらいいのかわからねえええええ!!


 そう考える俺の冷や汗はとどまる事を知らない。


 俺は何とかならないか、回らない頭をフル回転させる。


 ・・・いや、まだチャンスはあるはずだ。


 そうだ!

 俺が最低男になれば、“ごめんなさい”が出るはず!


 うん、そうだ!

 そうすればいいんだ!


 もちろんその後、俺の心へのダメージは半端ないが、現状を打開するにはそれしかない。


 よし、じゃあ言うぞ!


 と、その前に1つだけ質問を。


「あ、あのさぁ・・・これ、罰ゲームだという事と、その内容は知ってるんだよね??」


「うん、知ってるよ」

「もちろんだよぉ」

「ええ、ちゃんと知っているわ」


「そ、そっか・・・」


 いや、わかっていたなら・・・なぜ!?


 ま、まあいい・・・


 だったら、俺は罰ゲームの延長として最低男になってみせよう!


 花は桜木、男は朔夜。


 華麗に散って見せようじゃあないかぁ!(・・・ぴえん)


「え、えっと、あ、ありがとう・・・で、でも俺さぁ、3人の中から1人だけなんて選べないから、3人共付き合ってくれる??」


 言った!

 言ってやったよ、お母さああああああん!!


『はああああああああ!!??』


 クラス中から、ふざけんなよ!という雰囲気と、男子からは殺気を乗せた視線・・・いや、これは死線だな・・・をひしひしと感じている。


 そんな中・・・


『えっ?』


 目の前の3人は、不思議そうにキョトンとした顔をしている。


 くくっ、俺のあまりに最低な発言に戸惑っているんだな?


 さあ、この最低男に“ごめんなさい”というのだ!(・・・涙)


 ・・・ぐすぐすっ、何で俺がこんな目に。


 俺が心の汗(涙)を流していると・・・


『最初からそのつもりだけど??』


 ・・・あれぇ??


 3人の声がハモりました。


 綺麗・可愛い声がハモると、更に綺麗な声になるなぁ・・・


 って、現実逃避に走っている場合じゃねえ!!


 はあ!?

 意味わからん、意味わからんぞぉ!


 最初からそのつもり!?

 えっ?何!?どういう事!?


 もう、俺の頭は完全パニック。


 オレニホンゴワカラナイ・・・


「ご、ごめん・・・ちょっと、言ってる事がよくわからないんだけど・・・」

「えっ?だって、ねえ・・・」

「うん、そうだよぉ」

「ええ、その通りね」


 ええ!?

 何、このやり取り!?


 説明も何もないのに、3人だけで通じ合ってる!?


 これって、俺がバカなの!?

 本当に俺は日本語がわからないのか!?


 い、いや、そんな事はないはず!

 クラスの連中の中にも、頭の上にクエスチョンマークを出している奴もいる。


「ご、ごめん。お願いだから俺にもわかるように説明して・・・」

「もう、仕方ないなぁ・・・まあ、朔夜くんだもんね」

「そうだねぇ、朔ちゃんだしねぇ」

「そうね、朔夜君だもの」


 えっ!?ちょっとまって!

 やっぱり俺がおかしいの!?

 俺だから理解出来ないの!?


 違うよね!?

 誰か違うと言ってくれえええええ!!


 俺が再び心の汗(涙)を流していると、綾瀬が言葉を続けた。


「あんなに大きな声で罰ゲームの内容を話していたんだから、負けた人が誰かに嘘告するという事はわかっていたけど、正直興味はなかったんだよね。朔夜くんが負けるまでは」


 ・・・興味がなかったのに、なぜ俺が負けた事で・・・


 そして、花崎も答える。


「うん、あれだけ勝っていた朔ちゃんが負けるとは思っていなかったから、私も全く興味がなかったんだよねぇ。朔ちゃんが負けるまでは」


 いや、だから何で俺が負けた事で興味が出るんだよ!


 っていうか2人の言葉が、俺と一緒にゲームをしていた他の3人へと流れ弾が被弾して、目に見えて落ち込んでるからやめてあげて!


 更に佐久間が話を続ける。


「そうね、私も罰ゲームの内容を聞いても全く興味は無かったのよね。朔夜君が負けるまでは」


 ああ・・・だから、やめてあげてといったっしょ!(言ってはいない)


 最後の追い打ちに、あいつらの心のダメージは計り知れない。

 机の上にめり込むんじゃないかと思うほど、落ち込みようが半端ない。


 もう完全に体力ゲームは0になってしまったようだ。


 ・・・い、いや、あいつらの事はどうでもいい。


 俺は俺で、体力・精神力ゲージがガリガリと削られている。


「朔夜くんが負けた事で、君ならフラれるために私を選ぶかもしれないと思って、正直これはチャンスだと考えたんだよね」

「わたしもわたしもぉ!朔ちゃんなら、もしかしたら“ごめんなさい”を求めて私にワンチャンあるかもって思ったよねぇ」

「朔夜君は気軽にフラれやすそうな人の中から選ぶでしょうから、私も選ばれる可能性はあると思ったわ。だから私もチャンスだと思ったの」


 ・・・え?

 なんだろう、この見透かされているような感じ・・・


 いや、それにしたって・・・

 俺からの告白なんて嘘だろうと本気だろうと、答えは“ごめんなさい”一択に決まってんじゃん!!


 何がチャンスなんだよ!!


「私は朔夜くんだったら、ごめんなさいの選択肢はないからね」


 ええ!?

 なんでぇ!?

 むしろ俺には、ごめんなさいの選択肢しかないじゃん!!


「私も朔ちゃんなら、アリかアリで言えばアリだからねぇ」


 アリしかねえええええ!!

 その選択肢なら、確かにアリしか選べねえよ!!


 無しはどこへ行ったんだよ!?

 普通は有り無しだろが!?


 だったらむしろ、無し無しだろおおおおお!!


「私も朔夜君にはNOと言えない日本人なの」


 なんじゃそりゃああああ!!

 NOと言えない日本人の使い方が間違ってるだろおおお!!


 しかも普段、俺と話す時には普通にNO言ってるじゃん!


「そんな事ないよ、朔夜くん」

「うん、朔ちゃんは自分を卑下しすぎだよぉ」

「私は朔夜君にNOと言った記憶はないわ」


 えっ?

 ド・ユ・コ・ト・・・?


 なぜ、さっきから俺の頭の中で考えた事に、返事をしてるの?


 この子達、俺の頭の中を読めるのか!?


『うん、読めるよ!』


 うっぎゃあああああああ!!


 マジで!?

 マジなの!?


 俺、結構恥ずかしい事とか考えてんだけど!?


「なんて、嘘だよ~。朔夜くんは顔に出すぎ」

「うん、朔ちゃんの顔を見てれば、大体何を考えてるのかわかるよねぇ」

「そうね、朔夜君はわかりやすすぎね」


 な、なんだ、そっか・・・

 よかった・・・


 俺は分かり易いだけだったのか・・・


 ・・・いや、全然よくなくね!?


 ・・・それって、ある意味問題じゃね!?


 ・・・・・


 い、いや、今はそんな事はこの際どうだっていい・・・

 いや、よくはないけどさ・・・


 そ、それよりも、さ、最悪でもさ、俺の告白受けるとしても、普通なら3人の中から選ばないとダメくない!?


「いや~、確かに朔夜くんが3人も名前を呼ぶとは思ってなかったけど」

「でも、その中から1人しか朔ちゃんに選ばれなくて、2人が悲しい思いをするくらいなら」

「私達は3人同時でもいいという結論に達したのよ」


 やっぱり、俺の頭の中と会話が成立してるううううう!!


 し、しかも、3人で1つの会話になってるううううう!!


 い、いや、だから、そんな事はどうでもいいんだって。


 それよりも・・・


 これだけはちゃんと確認しないといけない・・・


「・・・結論に達したって・・・そ、それって、俺の罰ゲームが決定して俺が3人の名前を挙げてからの事だよね?・・・3人が話しているようには見えなかったはずだけど・・・い、いつ話し合ったんだ・・・?」


 俺の言葉に、キョトンと不思議そうな顔を俺に向けた後、3人が顔を合わせる。


 そして・・・


『もちろん、アイコンタクトだけど?』


 えええええ!?

 さも当然の様に言われたんですけど!


 それが出来るのは当たり前なの?


 出来ない俺の方がおかしいの!?


 い、いや、そんな事はないはず!

 誰か、ないと言ってくれえええええ!!


 つーか、俺の(顔から)思考を読んだり、目で会話したり・・・

 彼女達は超能力者なんじゃないのか!?


 いや、そんな事すらどうでもい・・・


 それよりも、3人共が俺の嘘告にOKしてしまった・・・


 しかも、その中から1人を選ぶんじゃなくて、3人共でOKだと言・・・


 ・・・・・

 ・・・


 いやいや、今まで誰とも付き合った事も無い俺が、1人どころか3人同時に付き合うとか・・・


 すでに、俺のキャパシティを超えてるんですけどおおお!!


 てか、俺の罰ゲームどうなってんの!?


 好きです→ごめんなさい

 だけで済む話じゃなかったのかよおおお!!


 どんな過酷な罰ゲームだよ、これ!!


 ・・・いや、罰ゲーム・・・


 そ、そうか!

 これは罰ゲーム!

 罰ゲームなんだ!!


 だったら、考えられる最後の手段が残されている!


 それは・・・


 俺から嘘告して、俺から“ごめんなさい”と言えばいいのだ!


 そうすれば、“ごめんなさい”で終わる流れが出来るのだ!

〈もう、パニクり過ぎて、罰ゲーム=好きです→ごめんなさいの構図しか考えられなくなっている朔夜である〉


 よし、そうだ!それがいい!!


 じゃあ、早速・・・


「あ~、えっと、あの、その・・・ご「朔夜くん!」「朔ちゃん!」「朔夜君!」」


 俺の話の途中で、3人から強い口調で名前を呼ばれて、最後まで言う事が出来なかった。


 ていうか、「ご」しか言えてねえ!

 話遮るの早くね!?


「朔夜くんはぁ、今何を言おうとしたのかなぁ・・・?」

「朔ちゃ~ん、まさかぁ、まさかとは思うけどぉ」

「もちろん、朔夜君の方から“ごめんなさい”とか笑えない冗談なんて言わないわよね?」


 やっぱり考えを読まれてるううううう!!


 やっぱり超能力者なのか!?


 そんな事よりも、3人共笑顔で普段と変わらない声のはずなのに、なぜか背後にダークなオーラと声にどすが効いている感が半端ない!


 こ、これは、ごめんなさいと言ってしまえば、間違いなくられる!


 俺に明日の朝日は拝めなくなってしまう!(朝日を拝んだことはないけど・・・)


 もう、俺の心も体もガクブルが止まらない・・・


 すでに俺に残された道は1つしかないのである・・・


 従って・・・


「こ、これから、よろしくお願いします・・・」


 と言うしかなかった・・・


 3人は俺の言葉を聞いて、嬉しそうに口を開いた。


「うん、こちらこそよろしくお願いします!」

「朔ちゃん、これから宜しくねぇ♪」

「こちらこそよろしくお願いね、朔夜君」


 そう言った彼女達は、これでもかというほどの満面の笑みを俺に向けていた。


 いや、確かにこんな笑顔を向けられたら、惚れない男はいないわ・・・

 そう考えると、俺は幸運だったのかもしれないな。


 罰ゲームだったはずが、最高のプレゼントだったかのように・・・


 ・・・っていうか、結局なんの為の罰ゲームだったんだよ!!


 ま、まあいい・・・


 腑に落ちない感が物凄くあるが、とりあえず円満解決(?)したので良しとしよう。


 ・・・本当に良かったのか?


 い、いや、まったくよくないが・・・

 ま、まあ、とりえず今はそれもどうでもいい。


 俺は今、現状を把握出来るほど頭は回らない・・・

 少し考える時間が必要である・・・


 クラスの男子からの殺気が物凄いが、それは多分きっと気のせいだろう・・・

 気のせいだと思いたい・・・


 そんな事を思いながら、もうすぐ昼休みが終るため一度席に戻ろうかと思った瞬間・・・


「ちょっと待ったああああああ!!」


 ・・・あれぇ??


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