2−4

 

 

 

 



 一方。

 一弥と別れて結月に会うため、七稜郭礼園に向かった悠香は、学校の前に立っていた。

 

「へぇ〜」

 

 自分達の通う高校とは明らかに違う大きな門を見上げて、感嘆の声を上げた。

 

 (流石、お嬢様学校。お金の掛け方が違うよねぇ)

 

 校門はそこを訪れる際に最初に目にする校舎の顔だ。

 造りを見ただけで他との違いが分かる。

 まるで縮小化された古代の凱旋門のように悠香は見えた。

 或いは、

 

 (牢獄みたい…)

 

 あくまで感覚的なモノに過ぎないが、悠香には一度中へ入った者を外界に出さない為の檻に感じた。

 気を取り直すと、歩みを再開し、門の横にある守衛所の様な所へ近寄り、受付の前に立って中へと声を掛ける。

 

「すいませーん」

 

「なんでしょうか?」 

 

「2年に在籍する土御門追儺結月さんと面会したいのですが?」 

 

「アポはお取りになられてますか?」

 

「いいえ。少々急ぎの用件が発生しまして。急遽、こちらに赴いた次第で」

 

 守衛の制服を着た年配の男性に聞かれ、悠香は頭を振って困った顔で答えた。

 

「あ〜…なるほど。用件というのはどのような?」

 

「身内の私事でして。詳しい説明はちょっと…」

 

「そうですか…少々お待ち下さい。本来ならアポがないと入れないのですが、事務に確認取ってみましょう」

 

 男性は悠香にそういうと奥で連絡を取り出す。

 

 (意外にいけそう?)

 

 印象に反して融通が効きそうな様子に悠香は内心ちょっと安堵する。

 人間の子息子女が本当に通っているお嬢様学校という訳ではないからか。

 急遽な訪問にも対応してくれ、門前払いを受けることはなさそうである。

 少し待っていると守衛の男性が戻り、悠香へ話しかける。

 

「見たところ、別区の学生さんみたいだけど学生証は持ってるかい?一応、身分確認したいんだが」

 

「あ、はい。ちょっと待ってください」

 

 悠香は鞄の中にある学生証を探して、守衛の男性へと提示した。

 

「ほぉ…東京第三自治区大学付属高等部ねぇ。ウチの区画とは反対側にある学校じゃないか。遠かったろ?」

 

「あはは…まぁ、それなりに」

 

 普段使わないリニアモノレールを使う程度には確かに遠かった。一弥や悠香の通う高校は第三自治区の東側にあり、七稜郭礼園があるのは西側だ。

 男性の指摘通り、遠い道のりではあった。

 

「あそこの学生さんなら問題ないだろう。学内通行証を渡すから、ちょっと申請書類にサインを貰えんか?」

 

「分かりました」

 

 守衛の男性は受付口からタブレット型の端末を差し出した。

 備え付けられたタッチペンを用いて電子書類に必要な項目を記述して男性へと返却した。

 画面に表示された電子書類の記載を確認すると、端末を脇に置いて男性は学校の校章が刻まれた携帯端末を悠香に手渡す。 

 

「学生達は今日の講義は終えて、寮に帰宅してる。2回生が生活する白百合寮への行き方は渡した端末に学内のマップ表示されるから確認して。土御門さんの部屋は305号室だ。その端末が学内通行証の代わりだから壊したり、失くしたりしないように。良いかな?」

 

「分かりました」

 

「時間も時間だから、面会時間は移動も含めて2時間しか取れないからね?面会が終わったら、この守衛所に端末を返してね?時間を過ぎてもこない場合は、捜索又は通報しないといけなくなる。もう私は交代の時間だが、次の担当にはしっかり申し送っておくから」

 

「ご迷惑をお掛けしないよう時間を厳守します。お手数をお掛けしました」

 

 守衛の男性から端末を受け取り、説明と注意事項を聞くとペコリと頭を下げて礼を言い、校内へと足を踏み入れた。

 校門の規模から見ても敷地も広いとは想像していたが、中に入ると改めてその大きさを理解する。

 端末の地図がないと確かに迷子になり兼ねないほど、校内の敷地内は広かった。

 悠香は男性から渡された端末を操作し、校内マップを表示すると、それを確認しながら道を歩いていく。

 校舎や様々な建物の並ぶ道を通り、暫く移動すると目的地に辿り着いた。

 建物の前には『白百合寮』と液晶ディスプレイの立て札に表示されていたおかげで、直ぐにわかった。

 悠香は寮の正面玄関から中へ入り、エレベーターに乗ろう…としたがなかった。

 尤も建物の中で馴染みのある優れた移動装置がないことに悠香は意外さを覚えつつ、階段を使って上に登る。

 三階まで来ると廊下を移動し、結月の部屋の前に立つ。

 目前のドアをコンコン!とノックすると向こう側から「はーい、お待ち下さい」と声が返ってきた。

 ガチャリとドアが開け放たれると、ルームウェアに着替えてた結月ではない女性が現れた。

 おそらく同部屋のルームメイトと思われる。

 女性は初対面の悠香に対して首を傾げた。

 

「……どちらさまですか?」

 

「えーと…こちらに土御門追儺結月さんはご在宅では?」

 

「は、はい…確かに今、部屋の奥にいますがーー」

 

 ちらりと女性が部屋の中へ振り返ると、そこには驚愕の表情を浮かべるルームウェア姿の結月が立っていた。

 女性の合間から悠香は中を少し覗き込むと、彼女と目と目があった。

 そして…

 

 

「まっー?!結月?!」

 

 

 女性が慌てた声音でルームメイトを静止した。

 結月は悠香と目があって、その姿を認識した瞬間。

 身を翻して部屋のベランダのある方向へと脱兎の如く走り出したのだ。

 何事か?!と思いつつ、女性と悠香は結月の後を追うが、その皆虚しく彼女はベランダの柵を乗り越え、3階から飛び降りていった。

 悲鳴交じりに結月の名を呼びながら女性は柵まで駆け寄り、彼女が落ちた先を見る。悠香も柵に寄り、同様の場所へ目を向けた。

 常人なら三階から何の装備も身に着けず準備もしなければ、かなりの衝撃を受け、死に至る。

 例え何らかの要因で衝撃を和らげても骨折、全身打撲にはなるだろう。

 二人の脳裏に最悪のビジョンが浮かんでいた。

 だが…

 

「へっ…?」

 

 結月はベランダ下の植木を足場に落下速度を失くし、何事もなく地面に降り立つと、ダッシュでその場から離脱していく。

 ルームメイトのそんな光景に女性は心配よりも驚愕が勝ってしまったようでポカンと呆然としてしまう。

 悠香は結月の突然の逃亡に苦笑を漏らし、どうしたものかと困った笑顔を浮かべながら、隣で固まる女性に声を掛ける。

 

「えーと…貴女は結月ちゃんのルームメイト…ですよね?」

 

「…はっ!…あ、その、あの…はい」

 

 意識が戻ると、しどろもどろになりながら女性は悠香に頷き返した。

 

「私は早島悠香と言います。土御門追儺結月のオーナーの知人です。貴女は?」

 

「わ、私は佐伯サエキ玉祖ギョクソ愛花アイカと申します?」

 

 まだ動揺が抜けきれていないのか。

 悠香の自己紹介に対して言葉の末尾を疑問系にしながら、女性も名乗り返した。

 悠香は結月の最近について女性から色々情報を収集しようと、彼女を落ち着かせながら微笑んで話を続けた。

 




あとがき


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