夜半の猫

花房

【1】


 また、駄目だった。


 雨に打たれる捨て猫は、じっと黙って濡れそぼり、誰かに拾ってもらえるのを待っている。下手に自分一人で動こうとしてはならない。力の無い仔猫に、世の中を生き抜く術など、無いのだから。

 どれ、試しに可哀想な声をあげてみようか。そうだな、出来るだけ甘えた声がいい。甘ったるく、弱々しく、自分で生き抜く力の無さそうな、か細く、愛らしい声を。

 弱った身体を縮こまらせて、肩を抱き、雨と心の冷えに震える。全てに悲観しているようで、けれど温もりを求め続けてしまう悲しい性を宿した、そういった目つきで道行く人に視線を向ける。

 拾ってくれるのは、誰でもいい訳ではない。なるべく優しくしてくれる人、俺が従順にすれば、ちゃんと大事にしてくれる人。出来れば、そういう人がいい。

 まぁ、そうは言いつつ、誰も見つからなかったら、選り好みしている場合ではない。誰彼構わずついていって、その場凌ぎのご飯さえ貰えたら、後は逃げるのみだ。そうしてまた翌日、自分を拾ってくれる優しい飼い主を待つのだ。

 雨粒が地面を叩く音を聞きながら、溜め息を吐く。これだけ待っても駄目ということは、今日は拾ってくれる人は居なさそうだ。

 仕方がない、ならば今晩のご飯だ。誰でもいいからすり寄って、可愛く、愛想を振り撒こう。

 狙い目は、日々に疲れていて、独り身の孤独を持て余し、そしてそういう『気』のある人。


 あ、ほら、丁度こっちに歩いて来る。何処にでも一人は居るものだ。

 話し掛けてみて、具合が良さそうなら、ご飯をねだってみよう。

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