第45話「彼女が水着に着替えたら」

 さて、夏だプールだ美少女だと来れば、次に来るのは当然水着ということになる。

 普段は見せない玉のお肌をうら若き乙女たちがおしげもなく晒すその行為は、清く尊い。

 日本男児のはしくれとして、素晴らしさを伝えないわけにはいかないだろう。


 まずトップバッターは杏ちゃんだ。

 言わずもがなの渚ちゃんの妹であり、その美貌と将来性は折り紙付き。

 つややかな黒髪は背中まで伸び、白い肌は太陽の光をきらきらと反射する。

 オレンジとピンクのフリルのワンピースからは健康的な四肢が伸び、ひまわりのような満開の笑顔が可愛いオブ可愛い。

 もちろん小6ガールなので色っぽさのようなものは欠片も無いが、俺が同世代だったらきっとドキがムネムネしていたことだろう。

 

 お次は我が妹のちひろ。

 運動神経抜群ガールらしくこんがり健康的に焼けた肌を、黒のチューブトップのビキニ(あらまあ大胆!)で包んでいる。トレードマークの茶髪のツインテールを結わえているのは黒いシュシュで、これは水着と色を合わせたのだろうか。

 本人に言うと調子ぶっこくだろうから絶対言わないが、けっこうオシャレさんであり、身内びいきを抜きにしても相当可愛い。

 吊り上がった目となかなかに大きな胸、きゅっと締まったヒップやネコを思わせる奔放な性格など、特定層の男子を狙い撃ちにしたような属性盛りだくさんのこいつは、実はけっこうモテたりするんじゃなかろうか。

 ううむ、俺はシスコンでは絶対に無いが、そう考えると微妙な気分になるな。

  

 3番手はルー。

 我がクラスメイトにしてソウルメイト(意味はわからんがそうらしい)にして、コミュ障中二病ガール。

 基本的に運動しないし学校以外に出歩くことも少ない彼女の肌は、まさに新雪の如き白さを保っている。染めた銀髪縦巻きロールやカラコン(片方だけ赤)と相まって、北欧系の美少女のように見える。

 そんなルーが選んだ水着は、意外やピンクホワイトのワンピースタイプ。随所にフリルが施され、胸元には赤いリボンがついている。どことなくお姫様チックな感じで、普段とのギャップがエグい。

 てっきり中二病ど真ん中な感じの、それこそドクロとか逆十字とかがプリントされた水着で来ると思っていたので、これは嬉しい誤算と言える。

 うんうん、いいね。ベリベリキュートです。


 さて、最後は大本命。我らが天使の渚ちゃん。

 真面目すぎるほどに真面目な彼女のことだから、下手をするとスクール水着でも着て来るんじゃないかと思ってドキドキしていたのだけど(それはそれで需要有りだがな!)、まさかまさかのビキニ! ビキニですよ奥さん! ちなみにビキニには「小さくて破壊的」という意味があるのだが(wiki調べ)、渚ちゃんの胸は極めて平坦でありつつ蠱惑的なサムシングを湛えているので、そういう意味でもピッタシだな!

 っと、胸の話はこの辺にしておこう、本人の目の前でうっかり口にしてしまったら処される恐れがあるからねっ。

 んでそのビキニだが、白地に紺色のアジサイ柄の、涼やかな上下揃いだ。大きめのフリルが付いてるので胸やお尻そのもののシルエットは巧妙に隠されているものの、露出する面積の大きさは例えばワンピースタイプのそれとは比較にならない。

 すっきりした首筋や鎖骨のライン。おへそに腰のくびれ、背中からお尻へと繋がる曲線美、古武術の稽古のおかげで引き締まった太ももなど、普段生活している中では絶対にうかがうことの出来ないそれらの存在に、俺はひたすら興奮した。

 しかも、しかもだ。

 水着姿を衆目にさらしていることが恥ずかしいのだろう、渚ちゃんは頬を赤らめ、両手で自分自身を抱きしめるようにしている。

 あのスーパークールな渚ちゃんが、「くっ……殺せっ」とばかりに悔し気に唇を噛み……あれ? めっちゃ俺をにらんでない? なんでなんで?


「……先輩、さっきから目つきがいやらしいんですが」


 はっ、しまったっ!? 

 興奮のあまり、ついつい我を忘れて見入ってしまった!?


「本当に、それだけで有罪になりそうなほどに破廉恥はれんちな目つきなのですが……」 


 見ただけで有罪とかどんな魔境だよと思ったが、あまり刺激してバスタオルを羽織られたりしてもかなわない。

 ここは紳士的振る舞いでもって、失われた信用を回復するべきだろう。


「おっとごめん。あまりに新鮮かつエッチな姿だったものだから……じゃなくっ。ゴホンエホンオッホーンッ。はい、もう大丈夫。邪念は消したよ」


 両手を広げて紳士然とした笑みを浮かべる俺を、渚ちゃんはしばし疑り深い目で見ていたが、やがてハアとため息をついた。


「しかたありませんね。プールでみなさんと遊ぶのを承諾したのはわたしですから。有言実行、言ったことは守るべきですから。こういった赤裸々せきららな姿をさらし合うのもまた、恋人というものだと思いますし。ですが……」


 渚ちゃんはギロリ、氷の魔眼を光らせた。


「あくまでわたしたちは中学生なので、その境は超えないようにお願いします」

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