「ルーとの疑惑とラブレター」

第23話「ルー登場!」

 ちひろの妨害を乗り越え、吉田安井の監視をかい潜り、俺と渚ちゃんのおつき合いは上手くいっていた。

 相変わらず距離感1メートルを保ってはいるけれど、スマホで頻繁にやり取りし、数自体は少ないもののデートも行い、確実に心の距離を縮められている感触がある。


「いいよー、いい感じだー。この調子でいけば年内には50センチ以内まで接近、あわよくばゼロ距離なんてこともあり得るかも……っ?」


 今日も今日とて、窓際の席で妄想をたくましくしていると……。


「てことで、転校生を紹介するぞ。山田ー。入って来て自己紹介しろー」


 メガネの数学教師の小田先生(通称小田セン)に誘われて、見慣れない女の子が教室に入って来た。


「転校生? こんな時期に? へえー………………え?」


 そのコの見た目に、俺は一瞬固まった。


 どんなコだろうとか、可愛いコだといいよなとか、様々に噂して盛り上がっていた他のクラスメイトも、一様に硬直した。


 色白で、下手に触れれば壊れてしまいそうなほどに細身の女の子だ。

 顔立ちは外国のお人形さんみたいに整っていて、まつ毛が長く、はっきり言って超絶美少女。


 だけど問題がふたつある。 

 おそらくは日本人だろうに、髪の毛が銀色の縦巻きロール。さらには右目だけに赤色のカラーコンタクトを入れているという見るからに問題物件。


 黒板の前に立った女の子は突如裏ピースをすると、カラコンを強調するようなポーズをとった。


「くく、くくくくくっ……聞いて驚け、我が名はルー・ファング・ザリシオン(わたしのなまえは山田花やまだはなです)」


 ……わあ。


「……何、知らない? ふん、我がいさおしを知らんとは。ま、かかる辺境では仕方のないことであろうな。では心して聞くがよい(初めまして、ですね。これからよろしくお願いします。自己紹介させていただきます)」


 ……わああ。


「我は地獄の釜の底の底、死の炎の中より生を受け、闇の七軍を率い七つの国を攻め滅ぼした。人呼んで深遠の魔女(えっと……友達はあまりいません。趣味は物語を創ることです)」


 ……わああああ。


「転生の連鎖により六の世界を渡った我が辿たどり着きし終焉しゅうえんの地がここというわけよ(親の都合で転校が多くて、あまり人と馴染なじめませんでした。今回で七回目になりますが、どうかよろしくお願いします)」


 もんのすごいドヤ顔で行われた中二病全開の挨拶に、クラス中がざわめき立った。


「おいおい、やべえの来ちゃったよ」

「痛い痛い痛い痛い……っ!」

「黒板にはどう見ても『山田花』と書いてあるんだか正気か?」

「なんかのイベント会場からそのまま来たとかじゃないよね?」


 比較的温和でいじめなどもない我がクラスだが、ルーなんとかさんのこれにはさすがにドン引き。


「そういうことで、山田の席はヒロの隣な。仲良くするんだぞー?」

「うええええええっ!?」


 名指しされた俺は、さすがに驚愕。 


「ちょ、小田セン! なんで俺が!?」

「小田セン言うな殺すぞ。つうかさ、こういう変なの相手にするのおまえが一番得意だろ? このクラスで吉田と安井とまともに喋れるのおまえぐらいだし、あの高城たかしろとさえ最近は仲良く出来てるそうじゃないか」


 小田センの言葉に、みんなは口々に同意した。


「ああ、たしかにヒロはそうゆーの得意だよな」

「いい意味で懐が広いというか、類は友を呼ぶというか」

「高城ってあの氷姫だろ? マジかよあいつのメンタルどんだけ強いんだよ……」

「ルーなんとかさんの相手はヒロで決定、異議なーしっ」

「いやいやちょっと待てよー! 俺らが変人枠になってるのはなんでえー!?(吉田)」

「おかしいべ! それは絶対おかしいべって!(安井)」


 ちょっと……! ちょっとみなさん!?


 変人扱いされた俺、吉田、安井が口々に抗議の声を上げる中、ルーなんとかさんはすたすたと俺の隣にやって来た。


「貴殿が我が相棒か? うむ、他を寄せ付けぬその気高き目、さぞや高貴な騎士であろう! さあ、その真名まなを我が前に示すがよい!(あなたがわたしに色々と教えてくれるのですね? お名前を伺ってもよろしいですか?)」


「んー、んんー……」


 不思議だ。


 言ってることは一から十までおかしいのだが、不思議とすべてが理解出来る。

 もしかして俺には中二病的素質があるのか? 吉田安井だけでなく、この面倒そうな人の担当もしなければならんのか? ええ……やだなあ……。


 うむむと内心で葛藤していると、ふと気づいた。

 胸に手を当て顎を持ち上げ、たぶん格好をつけているのだろうルーなんとかさんの口元が震えている。

 ポーズを維持するのがキツイとかではなく、これはもしかして……震えてる?


「真名をその……示していただけると……」


 俺が答えないでいると、ルーなんとかさんの口調が弱り始めた。


「ダメ……ですか……?」


 中二病言語はどこへやら、普通の言葉で訊ねて来る。

 顔を真っ赤にして、小動物がそうするみたいに全身を震わせて。


 なるほどなと、俺は思った。

 この奇抜な格好と言動で、きっとこのコはどこへいっても上手くやっていけなかったに違いない。

 3年の6月という微妙な時期に転校して来たのも、親の転校というよりもしかしたらそれが原因だったりするのかも。


 渚ちゃんみたいな鬼強メンタルの人間ならともかく、凡人がひとりぼっちは寂しいもんな。

 よしわかった。つき合ってやろう。

 そうだな、最近吉田安井に対する言い訳で使った中二病MMORPG『ミドガルズオルム』風にいくと……。


「くくくくく……くはーっはっはっはっは!」


 俺は椅子を蹴立てて立ち上がると、掌を顔に当てて思い切り哄笑こうしょうした。 


「我が真名を知りたいと申すか! いい度胸だ! 中学生新堂ヒロとは仮の姿、我の真なる姿は地獄の13軍を率いる暗黒騎士グイン・フォン・ナーゲルスマンであるぞ!(俺の名前は新堂ヒロです、これからよろしくね!)」


「「「「「「乗っていったー!?」」」」」」


 よもやの俺の対応に、クラス中が騒然となった。


「………………っ?」


 ルーなんとかさん、もとい深遠の魔女ルーもこれにはびっくり。

 最初は目を丸くして驚いていたが、やがて俺の意図を理解すると、ほわあっと花咲くように明るい顔になった。


「グイン……地獄の13軍を率いる暗黒騎士とまさかこんなところで巡り合えるとはな……これも運命の書の導きか! くく、くくくくくっ……!(こんなところでまさか同好の士に会えるなんて思ってなかった! 嬉しいです!)」


「我も同じ気持ちだ、まさか深遠の魔女殿と席を隣にする日が来るとはな! くは、くはーっはっはっは!(隣の席同士、仲良くやっていこう!)」


「くく、くくくくくっ……!」


「くはーっはっはっはっは!」

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