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 兵たちによる騎馬突撃で群れを散らして、その散った魔物を俺が仕留める。

 その連携を何度か繰り返して、1体ずつ減らしていったんだが……。


「……あぁっ!? 逃げられた!」


 魔物たちはこちらの連携を学習して来たのか、騎馬突撃の後はすぐに集まって下がって行く。

 さらに、それだけじゃない。


「セラ副長! ここまでです。我々も一旦下がりましょう!」


「はいよ!」


 兵の言葉に返事をすると、俺は魔物たちから視線を切らずに後退を始めた。


 同じく魔物たちも下がって行っているが、戦闘を開始した当初は北門前の開けた場所のすぐ側まで迫っていたのに、今はむしろ森の方が近いくらいだ。


 俺たちは、出来れば魔物を街から引き離したいって思いがあって、後退する魔物を追ってついつい前に出ていたが、これって釣り出されているよな?


「どうしましょう……我々が仕掛けてみましょうか?」


「……いや、森の中にまだいるし、何をしてくるかわからないからね。オレが行ってもいいけれど……予定通り援軍を待ってよう」


 彼等も、俺と同じく魔物の動きを怪しんでいるようだが……これだけ魔物が頭を使ってくるとなると、反応を探るためとはいえ、迂闊に近づくと何をしてくるかわからない。


 しかも森の近くともなれば、この辺りよりも足元の状況は悪いだろう。

 いくら馬に乗っているからって、魔物討伐がメインの任務である2番隊と違って1番隊の彼等では荷が重いだろうし、ここはこのまま様子見だ。


 彼等は俺の言葉に短い返事をすると、サッと広がっていく。

 万が一にも魔物に突破されないように、カバーする範囲を広げているんだろう。


 対魔物の動きも中々しっかりしているし、もう少しこちら側にも頭数が揃っていたら突っ込んでもよさそうなんだが……。

 そう思い後ろをチラっと振り返ると、門から離れた場所ではあるが、避難してきた者たちを街壁のすぐ手前まで下がらせ終えている。


「お? 向こうはもう大丈夫そうだね」


 一先ず、連中が下がるだけの時間稼ぎは成功したか。

 これなら、連中を守っていた、半分に分けていた隊の残りを呼んで……。


「いや」


 俺は首を横に振った。


 予定通り行こう。

 予定通り。


 ◇


 さて、互いに待ちの体勢に入ったまま動きが止まること数分。


 このまま続くのかと思ったが、しびれを切らしたのか何なのかはわからないが、魔物側に動きが出てきた。


 第一陣のゴブリンたちの残りは6体だったが、さらに10体ほど。

 そして、それとは別にオオカミの魔獣までだ。

 こちらは少々少なく、7体ほど。


 合計したら20体を超えているし、混成パーティーとしたら中々の規模だ。


「……数を増やしてきましたね。アレで全てでしょうか」


 兵の一人がその様子を見て訊ねてきた。


 数だけを見たら、普段のゴブリンが一度に纏まって動く数を超えているし、これで打ち止めと考えるのは別におかしくはない。

 だが、俺は逆に更なる戦力が残っていることを確信した。


「いや、間違いなくもっと強いのが奥に控えてるね。オーガとかそこら辺じゃないかな? 皆は森に近づかないように気を付けてね」


「は? ……はっ。わかりました」


 訊ねてきた彼も他の話を聞いていた兵たちも、俺が断言していることに驚いている。


 まぁ、それも無理もない。

 ただでさえ、通常の群れを考えると大規模な群れだし、それに、つい昨日この辺をアレクが討伐隊を率いて見て回ったばかりなんだ。


 でもなー……これだけ大量の複数の種族の魔物を統制するのは、ゴブリンやオオカミじゃ魔王種でもない限り不可能だ。

 となると、この辺でそれが出来そうな魔物と言えば、オーガくらいだろう。


 もっとも、普段ならこんな浅いところに姿を見せることはない魔物だし、何でいるんだって疑問も湧いてくる。


 再度後ろを振り向いて、避難してきた連中を眺めてみる。


 怪しい素振りも力も感じないし、どう考えても普通の商人と、その護衛だよな。


「……気にはなるけど、まずはコイツ等を凌がないとね。皆大丈夫かな?」


「あの程度ならまだ問題ありません。先程と同じ要領で削って行きたいですが、いかがでしょうか」


「おぉ……やる気あるね。問題無いよ。足が速いオオカミがいるから、気を付けていこう!」


 俺の言葉に頷くと、彼等は一気に馬を走らせた。


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 一列になったまま徐々に押し上げていく兵たち。

 そして、魔物との距離がある程度のところまで近づいたとたん、魔物たちは一斉にこちらに向かって走り出した。


 ……特に鳴き声のようなものは無かったし、後ろに潜んでる魔物から指示が出たって感じはないか。


「セラ副長!」


「だいじょーぶ! オレは勝手に動くから君たちはそのまま普通に戦って!」


「はっ! お気をつけて。行くぞ!!」


 兵たちも魔物の動きを怪しんでいたようだが、俺の言葉にすぐに切り替えて動き始めた。


「……今度は囲むのか」


 先程までの彼等の戦い方は、魔物の群れに突っ込んでバラけさせるように動いていたが、今は包囲するように動いている。

 目的は、魔物の群れを街に近づけさせないようにかな?


 こちらは10騎もいないし、流石に少な過ぎるからしっかり取り囲むのは難しい。

 だが、馬を走り回らせることでカバーしている。


 魔物たちは兵が持っている剣は大して恐れていないようだけれど、馬は違うらしい。

 衝突しそうになると慌てて回避しているが、ドンドン囲いの中に追いやられている。


「ふむ……」


 その様子を見つつ、ついでに森の方をチラリ。


「まだ動く気配は無いね。それなら……!」


【風の衣】を張り直して、俺はその囲いの中へと飛び込んだ。


「ふっ!」


 囲いの中に入った俺は、まず高速でオオカミ目指して突撃をした。

 この程度の小型の魔物なら、【風の衣】を纏った体当たりで吹き飛ばすことが出来る。


「よし!」


 狙い通り、俺の進路上にいた何体かのオオカミを吹き飛ばすことに成功した。

 そして!


「よいしょー!」


 俺は反転して、体勢を崩したオオカミに一気に接近すると、発動した【影の剣】で首を切り裂いていった。


 ◇


「はっ! ……むぅ。減らせてはいるけれど……不味いね」


 つい今しがた、魔物に止めを刺すために振るった【影の剣】を引っ込めながら、そう呟いた。


 仕留めるペースこそ遅いものの、着実に魔物の数を減らせてはいる。

 ただ、俺は無傷なんだが、少しずつではあるが兵や馬も損傷が増えていっている。


 特に馬はな……。


 この程度の傷で動けなくなるってことはないし、体力もまだまだ余裕はあるだろうが、森に控えている魔物次第じゃ厳しくなるかもしれない。


 一旦皆を下げるべきか……と、後退を考えていたその時。


「あそこだ! お前ら、行くぞ!!」


 東側からデカい男の声がしたかと思うと、囲いの隙間を縫うように矢と魔法が飛んできた。

 まだ姿は見えないが、この統制が執れていない雑な援護の仕方は恐らく冒険者だろう。


「来たっ!? 一旦オレは下がるよ!」


【風の衣】は発動しているし、あの程度の矢や魔法なら傷つくことなんてないが、彼等が俺が中にいることに気付いて、仕掛けるのを躊躇したら台無しだもんな。

 ここは一旦離脱だ!


 周りにいた魔物を、尻尾でひと薙ぎしてから俺は上空に離脱した。

 上昇するついでに、今の状況を把握しようと周囲を見渡す。


 俺たちが戦っていた場所の東側から現れた一団は、ちょうど囲いを作っている兵たちと合流している。

 数は10人ほどで……2パーティーってところかな?

 応援要請を聞いて、取り急ぎ駆け付けられるパーティーが彼等だったってところか。


「それじゃー、俺はそっちに……ん? どうかした……おや?」


 冒険者たちに合流するために、彼等のもとへ移動しようとしたが、俺の代わりに周囲を見張らせていたアカメたちが何かに気付いたようだ。

 後ろに引くような動きを見せた。


 何事かなと振り向くと、今度は西側からもこちらに向かってやって来る者たちが目に入った。


 数はこれまた同じく10人ほどだが、冒険者たちと違って全員騎乗しているし、恐らく騎士団だな?

 どうやら、同じタイミングで騎士団本部に要請していた援軍がやって来たらしい。


 距離はあるが、先頭の一騎は何やら豪華な装備をしているし、彼は隊長格か。


「ふむ……それならアッチに合流するか」


 騎士団の方に合流して戦況を伝えておけば、後の指揮は彼等に任せられるだろう。


 そう決めると、俺は西に向かって加速しながら突っ込んで行った。


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