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「セリア様、護衛の人たちがどうしたらいいかって。どうしよう?」


 セリアーナのもとに戻った俺は、先程のリーダーとの会話を彼女に伝えた。

 まぁ……オーギュストの指示で彼女たちがこっちにやって来たってことは、護衛につくこと自体は確定しているし、どこに配置するかだな。


「武装は?」


 セリアーナはドアの方を見ているが、この位置からだと廊下は見えないし、まずは彼女たちがどんな格好でやって来たかを知りたいようだ。


「2人とも剣と鎧を着てたよ。いつでも戦える格好だね」


「そう……。お前は今は奥に用事は無いわね?」


「奥? うん……とくには無いけど」


【隠れ家】には恩恵品も含めて色々な物を入れて来ているが、特に今そこにある物で必要になる物は無い。


「それなら……いいわ。部屋の中に入れなさい。警備の位置は2人に任せるわ」


「おぅ? りょーかい。……珍しいね」


 てっきり通路に待機してもらうのかと思ったけれど、部屋に入れるのか。

 百歩譲って武装していない相手ならともかく、武装して戦う技術を持っている相手を……。


 少々驚き、思わず声に出してしまった。


「そう? まあ……そもそも私が危険に晒されること自体滅多に無いことだし、今まではわざわざ私の守りを固める必要が無かっただけよ」


 確かに。

 滅多に外に出ない上に、基本的にエレナやアレクが側にいたもんな。


「それもそっか。それじゃぁ……」


「待ちなさい。コレはお前に返しておくわ。使いなさい」


 セリアーナは、リーダたちの元に再び向かおうとした俺を呼び止めると、【妖精の瞳】を解除して耳から外すと、俺に向かって差し出してきた。

 受け取った俺は、耳に着けるとすぐに発動する。


 頭上に目玉が現れて、ちゃんと発動したのを確認すると、今度こそ俺はドアの方へと向かった。


 ◇


「お待たせー。2人とも中に入ってね」


 ドアの前に行くと、律儀に廊下で待っていた2人に中に入るように声をかけた。


「はっ、それでは失礼しま……っ!?」


「どうしました? ……っ!? ……それは恩恵品ですか?」


 俺の言葉を聞いた2人は、すぐに返事をして中に入ろうとしたのだが……俺の頭の上にある目玉を見て、2人揃って息を呑んだ。


 そういえばこの2人は【妖精の瞳】発動中の俺を見るのは初めてだったかな?

 ほんのわずかな時間離れただけで、頭の上に目玉が浮かんでいたら、そりゃー驚くのも仕方が無いよな。


 ともあれ、ここで突っ立っていても仕方が無いし、さっさと中へ入って貰おう。


「そうそう、恩恵品。気にしなくていいよ。それよりも、セリア様が2人は中に入ってって。どーぞどーぞ」


 改めて、俺は2人に中に入るようにと促した。


 ◇


 この部屋は広い大部屋になっていて、入口手前から、応接用のスペースと生活用のスペース、そして一番奥にあるのが就寝用のスペースだ。

 そして、必要に応じてそれぞれのスペースの間に、パーテーションのような物も置けるようになっている。


 んで、今はそのパーテーションは取り除いていて、就寝スペースから部屋全体が一望出来るようになっている。


 部屋に入って来た護衛の2人は、リーダーは窓の側に立ち外を監視して、もう1人は入り口側の壁に背を付けて、部屋全体を見ていた。

 ベッドの上でゴロゴロしていると、何度か彼女と目が合ったりもしているが、動くことなく黙って突っ立っているあたり、流石はお偉いさんの護衛を専門にしているだけのことはある。


「2人とも結構強いよね。残りの2人もそうなのかな?」


 俺は彼女たちを横目に、側に座るセリアーナに小声で語り掛けた。


 王都を発った時から彼女たちとは一緒だったが、【妖精の瞳】はセリアーナに渡していたから、彼女たちの実力ってのがいまいちよくわからなかったんだよな。

 道中ちょっとだけ戦闘をしたりもしたが、そこまで本格的なものじゃなかったし、実力を発揮する機会も無かった。

 しかし、今はゆっくり彼女たちの力を見る事が出来る。


 リーダーはエレナに近い実力だし、もう1人も大差無い程だ。

 身体能力と魔力の配分も似たような感じだし、素質のある者が正しく鍛えたらこんな風になるのかもしれないな。


 ……いやはや、やるじゃないか。


 と、感心しながらセリアーナの返事を待った。


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「残りの2人も大差ない能力だったわ。エレナがいるでしょう? 4人とも彼女と同じ系統ね」


「ほぅほぅ」


 セリアーナも俺と同じ評価っぽいな。

 その言葉に頷いていると、さらに続けた。


「彼女たちは、王都からここに来るまで一度も敵意を向けて来る事は無かったし、一先ず信用してもいいはずよ。実力的にも問題無いのはお前も見たわね?」


「うん。他の2人もこっちの2人と同じくらいなら頼もしいんじゃないかな?」


 リアーナに帰るために一緒に船に乗っているウチの兵も、総合的な実力なら彼女たちに引けを取らないし、連携面を含めたら上かもしれないくらいだが、魔法がなぁ……。

 ある程度以上のレベルで魔法を使えるってのは、やっぱりポイント高いよな。


「結構。彼女たちはオーギュストの指揮下ではあるけれど、この部屋にいる間は必要ならお前も命令を出して構わないから、いいように使いなさい」


「お? ……おぅ」


 船内の指揮はオーギュストが執るけれど、この部屋はセリアーナのプライベート空間だし、彼の管理下からは外れている。

 一時的に俺たちも指揮権を得ることになるし、必要な事態が来るのかどうかはさておき、彼女たちを部屋に入れたのはそのためだったのかな?


 しかし指揮権か……。

 セリアーナは指揮する気は無さそうだけれど、リアーナの連中と違って、彼女たちと俺は一緒に行動することには慣れていないし、俺が貰っちゃってもなぁ。


「ふぬぬ……」と頭を抱えて悩んでいたが、セリアーナは笑いながら「そんなに考えこまなくてもいい」と答えた。


 まぁ……どうせ指揮するといっても最大で4人だし、港での時のように、その時その時でいい感じにやればいいかな?


 そもそも指揮を執る機会があるかどうかも分からないしな。

 とりあえず、そういうこともあるかもってくらいに考えておけばいいか。


 それじゃー、俺も少しは他所向きの恰好になろうかね。


「よいしょっと」


 両足を上にあげてから振り下ろしてその勢いで起き上がると、ベッドの上に座り直した。


 ◇


「セリアーナ様」


【風の衣】を発動しながら、【浮き玉】に乗ってセリアーナの周囲を漂っていると、部屋の手前からセリアーナを呼ぶ声がした。

 そちらに顔を向けると、リーダーではないもう1人の護衛が、就寝スペースの一歩手前に立っている。

 今の声は彼女なんだろうが……リーダーは変わらず窓の外を睨んでいた。


「セラ」


「ほいほい……っと」


 セリアーナの代わりに、俺が彼女に話を聞きに行くことにした。

 チラッと彼女の様子を見てみるが、武装こそしていても、剣に手をかけているわけじゃないし、目玉もヘビたちも特に異変を感じる事は出来ない。


 何事だろうな?


「どうしたの?」


「はっ。恐らくですが、外で戦闘が起きます。オーギュスト団長が港の時と同様にあの恩恵品を使ったとしたら、少々船が揺れるかもしれませんので、お気を付けください」


「……ぉぉぅ。わかったよ、ありがとう」


「それと、差し支えなければこちら側へ移動出来るでしょうか?」


 そう言うと、一つ手前の生活スペースを指した。

 護衛って身では側で守れる場所にいて欲しいのかもしれないな。

 別に緊急事態なら就寝スペースに踏み込んでも気にしないと思うんだが……そこら辺は、彼女たちなりの守るラインみたいなもんなのか。


 俺は「ちょっと待っててね」と、初めと同じようなやり取りをしてから、セリアーナのもとに向かった。


「セリア様、戦闘が起きるかもしれないから、念のため俺たちは向こう側に移って欲しいって。どうする……って聞くまでもなかったか」


 既にセリアーナは【小玉】に乗っているし、ここに留まる事にこだわりは無いようだ。


「まだ賊との距離はあるけれど、オーギュストと残りの2人が甲板に出ているし、矢や魔法で迎撃するようね。船に損害を与えるような真似はしないでしょうけれど……近くに転覆した船の船員らしき姿もあるし、大分手前に撃ち込むでしょうね」


 小声でそう伝えてくると、セリアーナは「行くわよ」と言って【小玉】を移動させた。

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