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「……うぉぉぉ」


 ソロソロとアカメたちが気にしている場所目指して進んで行ったのだが、その場所は冒険者ギルドのすぐ前だった。


 そして、そこに近付くにつれて見えてくる見えてくる。

 流石にアレクやジグハルトといった化け物連中とまではいかないが、魔境やダンジョンの中層以降を主戦場にする、リアーナでよく見る冒険者たちと遜色ないレベルの冒険者たちが、冒険者ギルド前でなにやら10数人程が固まっていた。


 そりゃー、難易度が高いダンジョンを擁する王都だし、腕の立つ者は数多くいるが、こんな時間にこれだけの人数がいるってのはただ事じゃ無いよな?


「……うん?」


 一体何事……と少し離れた角に止まりながら観察していたのだが、冒険者の一人が手にした槍を振っている。

 こっちを見ているし……アレは俺に気付いているよな。


 気付かれているのに無視してここに留まるのもまずいだろう。

 んで、俺に気付いているってことは、俺の素性も多少は知られているはずだ。


「行くか」


 そう呟くと、敵意が無いことを示すために、両手を上げながら彼等の下へと進みだした。


 ◇


「お前、リアーナの蛇姫だろう」


 彼等の下に到着すると、槍を振っていた冒険者は、挨拶も抜きに近付いてきながら、俺に向かってそう切り出した。


 間違っちゃいないし俺は頷いたんだが、『蛇姫』……もうそっちが広まってるのかな……?


「リアーナの」って単語が頭についているあたり、彼等も俺が貴族になった事は知らないみたいだけれど、やっぱ冒険者だけあって二つ名には敏感だな。


「広場の方で浮いていただろう? 最初は魔物か何かかと思って、少々威嚇したが……そのままこちらに向かって来たからな。敵じゃないとは分かったが……あんただったか。何してんだ? こんな時間に」


 槍の彼に続いて、他の冒険者たちもやって来ているんだが……。


「そう構えるなよ。ただ話を聞いているだけだ」


「お……ぉぅ」


 武装した腕の立つ冒険者に囲まれているんだ。

 俺だって、たとえ彼等に囲まれても離脱するだけならいける自信はあるが、それでもビビるのは仕方が無い。

 答えはしたが、大分どもった妙な感じになってしまった。


 しかし……中央広場からここまで結構距離があるはずだが、よく気付けたな。

 身体能力とかはそこそこ優秀ってレベルだが、技量とかはまた違うんだろう。


「俺はただの夜のお散歩だよ。それより、そっちこそどうしたの? こんな時間に」


 もうすぐ王都を発つからって情報は、念のため伏せておいた方がいいかもしれないし省いておくか。

 それよりも、彼等の事が。

 冒険者ギルドの前で堂々としているし、後ろ暗いことがあるわけじゃ無いんだろうが、王都の冒険者のダンジョンでの狩りは、早朝から昼過ぎまでが多いと思うんだ。


 こんな時間に何をしているんだろう?


「散歩か……優雅なもんだ。俺たちはこれから下を目指すんだ」


「下? 下層とか?」


「そうだ。朝からだと他の冒険者とぶつかって、狩りの邪魔をしてしまうからな……。『閃光』は今アンタん所にいるんだろう? アイツだってそうだったぞ」


「……へー」


 思わぬところでジグハルトの名前が出たが、彼等がここにいた理由はわかった。

 こんな時間にこれだけ集まっているのは少々不審に思ったが、理由を聞いてみたら納得は出来るものだった。


「この時期はベテランは新人の指導で浅い階層に留まっているからな。奥が空いていて、遠征をするならこの時期が一番だな。リアーナにもダンジョンが出来たんだよな? そっちは違うのか?」


 春から冒険者になったばかりの新人たちは、まずは浅瀬で経験を積む事からスタートする。


 そして、その狩りを指導したり、事故に備えるために、普段はもっと下の階層で狩りをしているベテランたちは、サポート役として、浅瀬を見て回ったり冒険者ギルドのホールに待機していたりするんだ。

 サポート役のベテランたちは無報酬だが、その彼等もほとんどがクランに加入しているし、有望な新人を勧誘する機会が出来るし、メリットもしっかりある。

 自クランの拡大を考えている者にとっては、大事なお仕事なんだろうな。


「あー……そういや、そんな時期か。ウチは結構自由だからね。あまり時期とかは関係無いよ」


 リアーナのダンジョン独自の決まり事なんて、せいぜい記念祭前に規制が入るくらいかな?


 もっとも、まだまだ歴史が浅いから、何も問題が起きていないだけかもしれないし、今後はどうなるかはわからないが……それでも冒険者にとっては縛りがきつくないってのは魅力的なようで、彼等は俺のリアーナの話を興味深そうに聞いていた。


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「お? 来たか」


 リアーナのダンジョンや冒険者事情を適当に彼等に話していたのだが、冒険者の一人が何かに気付いたのか、俺の後ろに目をやった。

 向こうは中央広場だけど、何か待ってたのかな?


「ん……んん? 馬車かな?」


 それにつられて俺も後ろを見ると、通りの奥から荷馬車が数台連なってやって来ている。

 アレを待っていたのかな?

 向き直り冒険者たちを見ると、待ちわびていたのか皆ニヤリと笑っていた。


「遠征用の荷だ。おい」


「はい!」


 そして、ガタゴトやって来た馬車が、俺たちがいる冒険者ギルドの入口手前で止まると、いつの間にやら冒険者ギルドの中から出て来ていた若い冒険者たちに、荷を運び込むよう指示を出した。

 馬車から積み荷を降ろして中に運び込んでいるが、アレをまた別のコンテナに移して、チームを組んで運んで行くんだよな……。


 リアーナのダンジョンは、内部に騎士団の拠点が所々あるけれど、王都のダンジョン……というよりも、他のダンジョンにはそんなもの無いからな。

 どこまで潜るのかはわからないが、あの運んでいる連中も荷物持ちとして一緒に潜る雰囲気だし、大所帯だ。

 大変だよな……。


 その作業を見守っていると、ベテラン側の一人が「なあ」と声をかけてきた。


「なに?」


「『閃光』や『赤鬼』は王都にいないのか?」


「アレクたち? うん、皆は領地にいるよ」


 それを聞くと、訊ねてきた彼だけじゃなくて、他の者たちも何か思うことがあるのか、顔を見合わせている。


「二人に何か用でもあった?」


「いや、王都に来ているのに二人の話を聞かないからな。今年に限ってだが、王都に拠点を持たないある程度以上の腕の冒険者の大半は、遠征を計画しているんだ。もしかしたらどこかで顔でも合わせるんじゃないかと思ったんだが……来ていないのか」


 ちょっとガッカリしているようだ。


 ジグハルトは、能力や人間性も含めて王都の冒険者に人気あるしな……。

 あのおっさんも、もう何年も王都に来ていないし、顔を見たいって冒険者も多いのかもしれないな。


 領地に戻ったら、ジグハルトにそれとなく伝えておくのも有りかもしれない。

 あのおっさんが、一時的にとはいえリアーナを離れるのは痛いかもしれないが、王都の冒険者のご機嫌伺いも、リアーナにとっては必要な事だし……。


 まぁ、そこらへんの判断はリーゼルたちに任せよう。

 それより、今の話でちょっと気になった事があった。


「ね、今年に限ってって言ってたけど、何かあったの?」


「あ? ああ……去年は戦争があったろ?」


 また戦争の話か!


 それだけ影響が大きかったってことなんだろうけれど、どこにでも顔を出してくるな。


「終戦以来、自国に戻る冒険者の数が増えていてな。まあ……無理も無いんだろうが、その分空いている狩場が増えているんだ。理由がはっきりしているだけに、来年以降はどうなるかわからないから、今のうちに手のかかる狩りに専念するって連中が多いんだ。俺たちもそうだがな」


「ほほぅ……」


 他国の人間が帰国しているのは知っていた。

 もちろん、冒険者もだ。


 んで、他国の冒険者ってのは、何かと方針が違ったりで揉めたりすることがあるらしい。

 相手も他所の王都で刃傷沙汰なんてそうそう起こさないだろうが、全く揉めたりしないってことはなく、王都の冒険者も、狩場はもちろん街でもそれとなく気を付けているってことは、昔少し聞いた事がある。


 なんだかんだで冒険者は荒っぽいわりに、意外と国に対して協力的だからな。


 今までも、一斉にベテランが街から姿を消すって事が無いように、配慮していたらしい。

 ところが、今年のこの事態に、一気にダンジョンで稼ぐチャンスだと、一斉に遠征に乗り出したんだとか。

 そこそこ顔なじみの冒険者同士だと、奥でも何か起きた時に連携を取れるしな。


 しかし……。


「他国の冒険者が減って、結構影響出てるんだね」


「良くも悪くもな……。積極的に関わったりはしなかったが、ゴッソリ減ると、やはり影響は大きいだろう。まだ街に残っている連中もいるそうだが……ダンジョンに顔を出す連中じゃないしな。なんでも護衛が主体らしく、弓や剣が得手らしいから、あまりダンジョンに向いていないってのもあるんだろうけどな」


 賊連中や、問屋街に潜伏している連中の事だな。

 話しぶりから、あくまで護衛でやって来ただけって認識らしいが、それでも存在自体は知られているのか。

 冒険者同士のネットワークってやつも、中々侮れないな。


 いい機会だと、荷物の運び入れが終わるまでの間、俺は彼等とアレコレ話をしながら、情報を得続けていた。

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