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ポーションを始めとした錬金術によって作られる薬品は、基本のレシピは決まっているがより効果の高い物は、制作者のオリジナルレシピだ。
そのレシピに使う素材はどうやって決めているのかと言うと、いくつか要因があるそうだが、その一つに素材との魔力の相性というものがある。
こう……素材の魔素を抜いたり、あるいは魔力を込めたり……なんかそういった謎技術が必要になるそうだが、それを効率よく行うために相性が関係してくるんだ。
ただ、何も全部を1人で行う必要は無い。
制作の仕上げこそ本人が必要だが、素材の魔素を抜く者や、仕上げを行う者と相性の良い魔力を持った者が、各工程を分担することで大幅に効率化を図る事が出来る。
錬金術師の工房はそういった者たちが集まっていて、代々引き継がれているんだとか。
流派というか一門というか……面白いね。
んで、俺が先日フィオーラから手伝いを誘われた内容は、その作業だ。
と言っても、別に俺の魔力がフィオーラと相性が良かったり、俺の魔力操作が優れているから……とか、そんな事が理由ではない。
ヘビたちの目を利用して、魔素抜きが出来るからだ。
魔素抜きは道具を使って行うのだが、俺はそれを効率よく使用する事が出来る……らしい。
「ふんふーん……」
っという訳で、鼻歌なんぞを歌いながら、机の上に置かれた箱から、薬草や鉱石そして魔物の骨等を取り出して並べていく。
じっと目に力を込めると、その素材の中に残っている魔素が見えてくる。
そこに磁石と温度計の様な物が組み合わさった道具を当てて魔力を込めると、その魔素が吸い取られていくんだが、この作業で見落としがあると完成品の性能に関わってくるらしい。
俺は見るだけでわかるが、通常だと時間をかけて念入りにその作業を行うそうだ。
特別な技術が必要ってわけでも無いし、要は根気さえあればできるものなのだが、錬金術師はどちらかというとエリート層だしこういう作業は嫌う傾向にあって、ここの様に責任者が人員を厳選している場所はともかく、街の工房などではこの作業を行う人員がいつも不足しているらしい。
かといって、高価な素材を使うわけだから、適当に街で募集をかけるわけにもいかない。
腕の立つベテランの冒険者や魔導士なら信用できるし、さらにそれだけじゃ無くこれまでの経験で培った勘から、素材の中の魔素を察知できるかもしれないが、そんな腕を持った連中が、錬金術師の工房で下働きに近いことは中々しないよな……。
だからこそ、領内でポーションを安定供給させるために、素材も含めて生産拠点の様な街を作っていたりするそうだ。
ここ数日の作業で話すようになったここの研究員から、そんなことを聞いた。
「…………お?」
アレコレ考え事をしながらも作業をミスる様なことはなく、サクサクと作業を進めていたため、箱の中はもう空になっていた。
机の上にはいつの間にか素材が山になっている。
箱に戻す際に念の為一つ一つチェックしているが、俺の作業は完璧だ。
全てを戻し終えたところで、奥で作業するフィオーラに向かって、完了した事を伝えた。
「フィオさーん、コレ終わったよ。他にもまだある?」
「……早いわね。今日の分はそれでもう終わりよ」
俺の言葉に、目を丸くして答えるフィオーラ。
「そっかぁ……。オレこれ結構好きかもしれないんだよね」
無心……というにはアレコレ考えながらだったが、それでもこんな風にボンヤリしながら出来る作業っていうのも悪くない。
思えば、ワンミスしたら死ぬっていう様な環境での仕事が多かったし、ここ数日間のこの作業でリフレッシュした気がする。
冒険者の仕事も楽しいし好きだが、こういうのも有りかもしれないな。
「この仕事で食っていく事も出来るかもしれないね……!」
「まあ、素質はあるかもしれないけれど……奥様に私が叱られるわね」
そう言ってフィオーラは笑っていた。
◇
さて、夜だ。
いつものメンバーでダラダラーっと過ごしていた。
エレナが屋敷に戻り、俺も狩りをしていないから提供出来るような話題も無く、このところはセリアーナとテレサとフィオーラの3人で話をしていて、俺は専ら相槌役だ。
「セラは邪魔になっていないかしら?」
「そんな事無いわ。お陰で私も自分の仕事に専念出来ているし、助かっているわね」
「それは何よりですね。進捗具合はどうでしょうか?」
「そろそろ素材も集まるし、職人に注文を出してもいい頃かもしれないわね。教会地区の作業はどうなっているの?」
等々……。
うむ。
今日は真面目な話をしている。
フィオーラが言う作業っていうのは、慰霊碑とその周囲の土地に使う魔法陣用の素材や道具の調整だ。
これはこれで彼女の立派な仕事なんだが、どちらかと言うとそれはおまけの様な物で、本来の彼女の仕事ではない。
今の彼女のメインの仕事はポーション製作の方だ。
直接製作するというよりは作業の指揮が役目だし、俺のあの作業がどれくらい役に立っているかはわからないが、まぁ……何かの役には立っていたようだ。
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さてさて、慰霊碑製作の方は順調だが、教会地区の方はどうなんだろうか?
俺があそこの作業に立ち会っていたのは、もう1週間以上前の事だし、
今やっているのは、あの場所をドカッと地下施設の場所まで掘っているところだが、あれだけの広さだもんな……。
どれくらい進んだんだろう?
一応セリアーナには報告は上がっているが、毎日毎日わざわざ詳細を報告してくるわけじゃ無いし、大体の事しかわからないんだよな。
あの作業は1番隊が仕切っていて何となく近付きづらいから、俺も持っている情報量はセリアーナと大差は無い。
って事で、騎士団とのやり取りを任されているテレサに、細かく話を聞くことになった。
あの一帯全部を掘っていくと、掘り出した土が凄いことになるから、孤児院の地下にあったあの部屋を完全に破壊する事を最優先にしている。
そのため、侵入口である井戸からではなくて孤児院跡地をまずは掘っていっているそうだ。
「この街の地盤は大分強固で少々時間はかかりましたが、つい先日地下の施設まで掘り進めて、あの部屋の天井部の破壊に取り掛かっています。事前の調査であの部屋が特に厚く頑丈に出来ている事がわかり、魔素が抜けかけていても少々手間取りそうですね。完全に破壊と撤去が完了するには、まだ少々時間がかかると思われます」
「そう……。まあ、事故が起きても困るし、急ぐような事でも無いし……問題無いわね」
「はい。ただ、あそこを破壊しさえすれば、魔素の抜ける速度もまた上がるでしょうし、作業の進行具合は変わるかもしれません」
「そうなの?」
テレサの話を聞いたセリアーナがフィオーラの方を見てそう言うと、フィオーラは頷き、地下施設の素材やこの街の魔素の相性がどうのと、アレコレと説明を始めだした。
そっちはそっちで話をしてもらうとして……この街の地盤は固いのか。
先日の調査で分かったのかな?
そうなると、確かに掘るのは大変かもしれないけれど、周辺の崩落とかにそこまで神経質にならなくていいのかもしれないな。
「あれ?」
ふと疑問が頭に浮かんだ。
一応建物を建てる際なんかは調査をしているだろうけれど、高層建築物とかは無いしそこら辺はあまり調べていなかったのかもしれない。
ただ、冒険者ギルドとかこの屋敷の地下通路と繋がっている通路網とかはどうしていたんだろうか?
アレは教会地区の地下の何倍もの規模だけれど……。
「どうかしたの?」
「ん? ……うん。あんまり関係ないことだけど、屋敷の地下から繋がっている通路とか作る時はどうしたのかな……って思って」
俺はその作業には全く関わっていなかったから事情とかは知らないけれど、それでもセリアーナたちには何か伝わっていなかったんだろうか?
「作業は主に1番隊が担当したけれど、あの地下通路や冒険者ギルドの地下は謂わば街の機密でしょう? 内々に留めていたんでしょう。オーギュストは知っていたかもしれないけれど、私は特に聞き出そうとしなかったし……」
「あぁ……確かに。一々土が固かったとかは報告しないか……」
「そう言う事ね。……他にもこういう事はあるのかしら?」
俺の疑問に答えつつも、首を小さく傾げるセリアーナ。
この国は思いっきり縦社会ではあるが、身分の壁もある。
今回の事はそこまで大事になる様な情報ではないが、天辺のセリアーナとリーゼルまで上がって来ないで、途中で止まっている情報はもっとあるかもしれない。
加えて、横の繋がりもそうだ。
「責任者が私だけのうちに、一通り集めてみるのもいいかもしれないわね」
リアーナだって領主のリーゼルとセリアーナの2人が派閥みたいなものを持っている。
本人たちの仲は良好だし、それもあって協力する時は協力するが、派閥はそれぞれが独立して互いに連携をとるのはあまり無い。
一応魔物とかに関しては、冒険者ギルドは騎士団の管轄だから、そこからの情報はリーゼルとセリアーナの2人がそれぞれ共有出来ているから、心配ないとは思うが……。
本人たちにとってはそうで無いと思っていても、他からしたらそうではないって事もあるかもしれない。
セリアーナが言うように、今なら彼女1人に権限が集中しているもんな。
集めた情報の精査は大変だろうけれど……。
「それは良い考えですね。こちらで情報を纏めておけば、旦那様が帰還された後に渡せますし」
テレサの方を見ると、彼女はむしろ涼しい顔でセリアーナに同調していた。
まぁ……今はリーゼルたちがいない事もあって、領地の仕事は抑え目にしている。
それに、冬の間は元々比較的仕事は少ないし、何とかなるのかな?
兵と違って文官はそのまま街に残っているもんな。
セリアーナも仕事に復帰したとはいえ、あまり忙しく無さそうだったし、丁度いい退屈しのぎになるのかもしれないね……。
テレサとフィオーラも一緒になって、どこか楽しそうに計画を練っているセリアーナを見て、そんな風に考えた。
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