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「あら? まだ起きていたの?」
「あ、おかえりー」
セリアーナのベッドでゴロゴロしていると、セリアーナが部屋に入ってきた。
化粧を落とし、服や髪が正装から就寝前のものに切り替わっている。
仕事はもう終わりなのかもしれない。
風呂も入って来たのかな?
彼女は部屋の中を見渡すと、フィオーラが既にいない事に気付いたようだ。
「フィオーラはもう戻ったの?」
「うん。ちょっと前までいたんだけどね」
フィオーラは【隠れ家】でレポートか論文かはわからないが、何かをずっと書いていた。
彼女の家はジグハルトと共用で、俺も以前数日世話になったことがある。
魔道具に溢れて、この世界では相当快適に出来ているが……それでも【隠れ家】の方が使い心地は上だ。
彼女が中で作業をするのは初めてだが、随分気に入っていた。
「そう……」
「……ぬ?」
セリアーナはまず俺をベッドの脇にどけると、真ん中にうつ伏せになった。
そして、そのまま腕を曲げて腰辺りを示している。
……【ミラの祝福】かな?
「よいしょ」
彼女の腰に跨ると、そのまま後頭部に手を当てて発動した。
とりあえず、これで上半身はカバーできるな。
「なに? お疲れ?」
「ええ……疲れたわね。ある程度形は出来て来たけれど……、それでもまだまだ人が足りないのよ。どうしても細かい所まで、私やリーゼルが判断する必要が出て来るわ。王家からも支援があるけれど……、全てに頼るわけにもいかないし……」
そして、ふぅ……とため息をついている。
うん……これはお疲れだね。
騎士団は、1番隊と2番隊と分ける事で、冒険者からの転身でもなんとかなっている。
求められる能力は腕っぷしだからな。
元々この街で冒険者をやっているんだし、腕は十分だ。
2番隊はそこをクリアして最低限の品格があれば、後はどうとでもなるって方針だ。
ただ、文官はなー……。
王都の貴族学院は別としても、各領地にも教育機関はある。
領都を中心に領内の各街に分校のようなものがあって、それで領政を取り仕切る人材をピックアップしていくんだ。
もちろんリアーナにもそれっぽいのがあるんだが……まだ領地が出来て2年程。
教育プログラムも教師も生徒も何もかも足りていない。
当分忙しいだろうね……テレサが重宝されるわけだ。
◇
「よいしょっよいしょっ……!」
【ミラの祝福】を発動したまま、首、肩と手を当てる場所を下げていく。
そのついでに、指圧マッサージをする事にした。
残念ながら前世の整体師の様に、指先でどこが凝っているかはわからないが、まぁ、マイナスにはならないだろう。
セリアーナは背は160台半ばくらいで、この世界の女性でも平均的な身長だが、スタイルはいい。
手足は長いし、具体的な3サイズは知らないが、バランスよく整っている。
そして、一見細身に見えるが、やはりしっかり鍛錬を積んでいるからだろうか、筋肉もしっかりと付いている。
「ふぬっ! ふぬっ!」
これはしっかり体重を乗せて押していかないと効きそうにないな。
「セラ」
ぐいっぐいっ! っと、背骨に沿って押していっていると、セリアーナが俺の名を呼んだ。
「ん? あ、いたかっ……」
力を入れすぎたかな?
「もっと力を入れていいわ」
「あ、うん……」
結構全力のつもりだったんだけどな……おかしいな。
【祈り】も使うか……?
いや、力加減が上手くわからないし、痛めるかもしれないか。
しゃーない、もうちょっと気合いを入れるぞ!
背中を終えると腰、太腿、ふくらはぎ、足裏……と進めていき、そして終了だ。
足ツボを押す棒みたいのがあったよな……。
あれ作って貰おうかな……?
「……終わったよ……あれ?」
セリアーナに終了を告げるも返事がない。
どうしたのかな? と顔を近づけると、小さな寝息の音が聞こえた。
いつの間にか静かになっていたとは思ったが、眠っていたのか……。
お疲れなんだね。
いい時間だし、俺もそろそろ寝るかな。
「……あ」
起こすのも可哀そうだし、このまま眠って貰おうと思ったのだが……セリアーナは掛布団の上に横になっている。
……これどうしようか。
抱き上げるのは無理だし……。
空調は付いているけど、そこまで冷えていないし、このままでも大丈夫かな?
そんな事を考えながら、部屋の照明を落とし、俺も布団に潜り込んだ。
◇
「……んっ……ん~……!」
起きたぞ!
今は……朝と昼どっちかな?
昨日までは記念祭の喧騒が部屋にも聞こえていたが、今日は静かなもんだ。
ぐっすり眠れた……!
隣にセリアーナの姿は既に無く、今日も奥様として仕事をしているんだろう。
「……あれ?」
何故かセリアーナが寝ていた場所に掛け布団がまとめられている。
そういえば俺が起きた時、布団を除けた覚えが無いな……。
昨日寝た時は確かに布団に入ったし、俺は寝相だけはいいはずなんだけど……セリアーナか?
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「おはよーございまーす」
とりあえず朝食でも食べようと、厨房へやって来た。
一応まだお客は来るから、この季節いつも着ている甚平ではなく、メイド服だ。
うむ。
最近ドレスを着せられる機会が多かったから、この楽な感じは悪く無いね。
「おう、セラか。メシでも食いに来たか?」
「そうそう。なんか軽めのものが良いな」
「すぐ作ってやるから、控え室でちょっと待ってろ」
奥から顔を出した料理長と軽い言葉のやり取りをすると、彼はすぐに用意に取りかかった。
厨房内では調理が行われているが、昨日までの忙しさは感じられない。
昼餐、晩餐と忙しかったが、今日からはもう平常通りなのかな?
厨房を後にして、すぐ側の控室に行くと、こちらには誰の姿も無かった。
「ふーむ……皆忙しいんかね?」
今が何時かわからないが、まだ昼前だろう。
普段だとこの屋敷はあまり客は来ないから、早朝から仕事を進めて、リーゼル達の公務が始まると一旦こちらに戻って来ることが多い。
そして、また午後から働き始めるのだが、ここ最近はお客も多くそのリズムが崩れていた。
厨房は平常運転だったが、こちらはまだそうじゃないみたいだな。
そんな事を考えていると、料理長が朝食を運んできた。
「あ、ありがとーございます」
「おう」
と、彼は一言だけ言うと再び厨房へと戻ろうとした。
が、それに待ったをかけて、他の皆はどうしているのかを聞くことにした。
「あ? あぁ……屋敷に宿泊されているお客様方は、ほとんどが今日お帰りになるからな。つーか、もう出発されたぞ。で、使用人達はそこの片付けだな」
「あぁ……。なるほど……。ありがとー」
「おう」
そう言うと、今度こそ部屋を出て行った。
そうか……そういえば外だけじゃなくて、この屋敷に宿泊している客もいたな。
セリアーナもいるだろうから、リーゼルんトコにでも行こうかと思っていたけど……午後にした方が良かったかな?
「……とりあえず食べるか」
朝食のメニューは、パンにベーコンエッグにスープ。そして果物。
シンプルで実によろしい。
それでは、いただきます。
◇
「おぉ、セラ殿か」
とりあえずリーゼルの執務室に顔を出そうとやって来たが、部屋の前の警備兵がすぐに俺に気付いた。
毎度のことながら足音のしない俺によく気付けるな……。
部屋の警備……とはいえ、領主様のだし、彼等も凄腕なのかな?
「おはよー。中にセリア様いる?」
「ああ、いらっしゃるぞ。……セラ殿がお越しだ」
中に声をかけると、すぐにドアが開いた。
セリアーナがいる事は確かだろうけれど……これって入って良いんだよな?
「おじゃましまーす……」
小さい声で挨拶しながら入室した。
中には、この屋敷で働くいつもの文官達に加えて、見た事の無い者達も何やら協議をしている。
他領の人達かな?
「む」
さらに、離れた席ではセリアーナがエレナやテレサに加えて、これまた見た事の無い女性達と一緒にいる。
そして、セリアーナは俺に向かって手招きをしているな……。
来いってことか。
「おはよー。セリア様」
「ええ、おはよう。珍しく早く起きたわね?」
「む? そういえば今は……10時ちょっとか……。早起きだ……」
部屋に置かれた時計を見ると、10時を少し回ったところだった。
食事も済ませて来たし、起きたのは9時半くらいかな?
「布団を剥いでも全く起きなかったから、てっきり昼まで起きてこないと思ったのだけれどね……」
膝の上を指しながら、フッとセリアーナは笑っている。
やはりセリアーナの仕業だったか……まぁ、わかってはいたさ……!
とりあえず彼女の膝の上に座り【ミラの祝福】を発動する。
そういや、昨晩マッサージを結構本気でやったけど、平気そうだし揉み返しとかは無さそうだな。
「あ、おはようございます……」
見知らぬ女性達に頭を下げる。
エレナやテレサにとってはおなじみの光景かもしれないが、誰かは知らないが彼女達にとっては、珍しいのかもしれない。
なにやら固まっている。
ってか、この人達誰なんだろう?
そもそも今何をしているんだろうか……?
なんもわからん。
「彼女達は領地の各街で文官として働いているのよ。男性の方が多いけれど、少数だけれど女性もいるわね。代官夫人との繋ぎ役は大抵彼女達が任されるわ。ウチで言えば、エレナとテレサがその枠ね」
「ほー……」
そういえば俺も他の街でそこの代官夫人と会う時には、女性が間に入る事が多かった。
まぁ、確かに女性なら女性に任せた方がいいか。
◇
午前の執務が終わり、皆で昼食となった。
場所は第1食堂。
一番デカい食堂だ。
円卓ではなく2つの長机があり、男女に分かれている。
上座は領主夫人で、俺はセリアーナのすぐ手前……向かいはエレナで、俺の隣がテレサだ。
他の女性達は、そこからさらに1列空けて座っている。
男性たちの席を見ると、あちらも同じ様にしている。
何というか……差を目に見える様に露骨に付けるんだな……。
ちなみに昼のメニューは、ラビオリのような物にスープ、サラダ、果物だ。
どこの国、どこの世界でも、練った小麦粉に何かを包んだ料理ってのはあるもんなんだな……。
ともあれ、俺は軽めにしてもらったが、中々美味であった。
そして、食事が終わりしばし談笑となったのだが、そこで話題となったのは、やはりダンジョンだ。
どうやら今この屋敷にいる客は全員領地の者で、ダンジョンの協議の為に残っていたらしい。
資源的な意味だけじゃ無くて、他領からもそれ目当てで訪れるだろうし、当然領都までの間にある各街にも滞在する。
色々決めておくべきことがあるんだろうね。
しかし、休憩時間にもそんな話をしているだなんて……仕事熱心な事だ。
昨晩のセリアーナの姿を思い出すが……これを毎日するのなら、そりゃ疲れるか。
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