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 記念祭が終わり、さらに数日。

 滞在していた他所の者たちも領都を離れて、ようやく日常に戻ったと言ったところだろう。

 チラっと聞いた話では、今までこの街で暮らしていた住民も、辺境の一地方都市から領都に変わった事で、大規模なお祭りになったことに大興奮だったとか。

 日常に戻ったとはいえ、未だ街の活気は収まっていない。


 ダンジョンに関しても、王都から聖貨が届き次第儀式に取り掛かり、秋頃には出来上がると発表した。

 大ニュースだ。 

 そのため、一の森などで腕を磨こうと冒険者の活動ペースも上がっているんだとか。

 もちろん狩場は魔境になるし、犠牲がゼロってことは無いそうだが、こればかりは仕方が無い。

 酷な話ではあるが、力が足りなかったんだろう。


 ダンジョンで死者が出てその死体を回収しそこなうと、それだけで維持費が増えていくし、魔人もポップするようになる。

 その前に実力の無い者が減ってくれるのは、むしろ歓迎すべき事態なんだとか。


 ダンジョンへの探索は、登録料を支払う必要があるが、それ以外にも独自の基準を設ける場合がある。

 ここリアーナでは、一の森を始めとして、魔境での依頼実績も考慮することになるそうだ。

 手っ取り早いふるい落としだろうね。


 そして、登録料に関してはまだ具体的な枚数は発表されていないが、この街の冒険者は以前貯め込んでいた聖貨を放出しているからな……。

 今のうちに貯め直さないと……と、必死になっている。

 幸い、ここ最近何故か領地の腕利き冒険者たちは、狩りに出ることが無い為、今がチャンスとばかりに、領都のみならず開拓拠点にまで出向いて狩りを続けているそうだ。

 お陰で、雨季前に領内の開拓もまた進みそうだと、聞いた。


 ……住民から聖貨を回収する為に、通常よりも高値で買い取り、そして再び聖貨を稼ぐ必要性を作り出して、ガンガン狩りをさせる。

 若干マッチポンプ的な何かを感じるが、まぁ……良しとしよう。


 アレクやジグハルトはダンジョンの調査に再び取りかかり、そして俺は……。


「…………ぐぬぬ」


「どうしたの? さっさとかかって来なさい」


 地下訓練場で木剣を手に、セリアーナと対峙している。

 外に狩りに行くのは暑いし、ダンジョンは人が多いしで、やる気が出ずに部屋にいたのだが、セリアーナに誘われてやって来た。

 彼女も記念祭絡みのパーティーや会談続きで体を動かしたかったんだろう。


 で、やってきたは良いのだが、ダンジョンの魔王種との戦闘で、幸い恩恵品や加護で防ぐ事は出来たが、俺は攻撃をまともに受けてしまっていた。

 だから、俺も防御技術を磨こう……となり、恩恵品や加護抜きで剣を打ち合うことになった。


 以前からたまにここでセリアーナも剣を振っていて、俺が相手をする事もあるが、その時は恩恵品や加護を使っている。

 生身で……となると……なんも出来ん。


 俺は両手持ちで中段に構えていて、セリアーナは片手持ちで半身になっている。

 もう何本もやっているが、構えはいつもこれだ。

 どこかに隙は無いものかと、じりじり回り込む様に動いているのだが……隙ってなんだ?

 だが、このままグルグル周りを回っていても埒が明かない……。


「うぬぬ……ほっ!」


 意を決し、突きを繰り出した。

 リーチは片手の方が長いが、それだと簡単に払われてしまうから、しっかりと両手持ちだ。

 これなら……!


 パシッ! と片手で簡単に斬り払われた。


「ぐぬっ!?」


 セリアーナの追撃に備えて、すぐさま柄と剣身に手を当てて盾の様に構える。


「ふぬっ!」


 セリアーナの頭への一撃を受け止めた。

 そして、切っ先を下に向けて、その一撃を受け流し……。


「たぁっ!」


 空いた胴目がけて、横薙ぎの一撃を……。


「あれ?」


 放とうとしたのだが、剣をセリアーナの剣に絡め取られて、そして落とされた。

 さっき俺が試して、不発に終わった巻き打ちだな。


「はい。終わりね」


 予期せぬカウンターに動きを止めてしまい、隙だらけになった俺の頭に、ポンと木剣が置かれた。

 またも負けだ。


「動き自体は悪くなかったわ。私の剣も防げていたし、どう決めるかを考えて組み立てていたもの」


「うん」


 まぁ、あくまで訓練だしセリアーナは加減をしていたんだろうけれど、それでもしっかり攻撃を受け止めて、不発に終わったがカウンターを決めようと考えて、実際動けてはいた。

 自分的には中々悪くないと思っている。


「ただね……」


「ただ?」


「お前、結局遅いし弱いのよ。背も低いし」


「どうしようもないじゃん……」


 ボコボコに言ってくれるな。

 ぐぬぬ……と唸っていると、少し離れた位置で、テレサとエレナが女性兵たちに今の試合の動きを解説していた。

 ついでに、あの場合どう動くのが正解だったかも。

 セリアーナも隣に来て、それを聞いている。


 どうやら初手を防がれた時点で、一旦距離を取って仕切り直した方が良かったらしい。

 そして、笛を吹いて救援を待つ……。

 で、俺の様に1人で相手をする時は、やっぱり時間を稼ぐ……それが正解だとか。


 まぁ、彼女達の場合は警備が仕事だしな……敵を倒す事よりも、警備対象の安全を確保する事が第一だし、それならそう動くのがベストだろう。


 俺の場合だったら……勝てない相手には逃げるのが一番かな?


486


 休憩ついでに俺たちも、女性兵の講義を聞いていると、セリアーナに、テレサとエレナの3人が訓練所の入口を向いた。

 前も似たような事があったが、誰か来たのかな?

 今日のここを利用するような人物と言えば……。


「おや? 訓練所を利用していると聞いていたけれど……もう終わってしまったのかな?」


 リーゼルが護衛の兵を連れて中に入ってきた。

 座って講義を聞いていた女性兵達は慌てて立ち上がり、ビシっと敬礼をした。

 まぁ、この領地のトップだもんな……。


 リーゼルは、そんな彼女達に楽にするようにと手で示すと、こちらにやって来た。

 恰好は、動きやすい訓練用のシャツにパンツだが……、彼もここを使うのかな?

 そう思っていると、セリアーナが彼に訊ねた。

 流石奥さん。


「いらっしゃい、リーゼル。今は休憩中ね。貴方も剣を振りに来たの?」


「ああ。今日はこの後は面会予定もないからね。ここ最近体を動かす事が出来なかったから、ここを利用しようと思ってね」


 リーゼルが普段体を動かすのは、中庭か外の騎士団用の訓練所だ。

 そういえばここを利用しているのを見た事が無い気がするな……便利なのに。


「そう……。セラ、お前相手をしてもらいなさい」


「ほぇっ!?」


 体を動かしたいって言ってるのに……後ろの護衛とかじゃ駄目なんだろうか?


「お前、真っ当な騎士の剣を使う相手はテレサしか知らないでしょう? いい勉強よ。リーゼルいいでしょう?」


 言わんとする事はわかるが……。


「ああ。セラ君、相手を頼むよ」


「あ、うん……」


 いかん……真っ正面から言われてしまうと、断る事が出来ない。

 ……まぁ、相手はリーゼルだ。

 しっかり加減してくれるだろう。


「セリア、セラ君はどんな訓練をしていたんだい?」


「対人での攻撃と防御の訓練よ」


 つまり対人戦だな……。

 だが、リーゼルはそれを聞くと、了解と笑っている。


 彼を追って、俺もテクテクと壁際から離れてリーゼルと距離を取って向かい合う。


「セラ君、何時でも良いよ。君のタイミングで来てくれ」


「……はーい」


 これが実戦なら、迷わず飛んで逃げるんだけどなぁ……。

 とは言え、そんな事を言ってもどうにもならんし、ここは真面目にやりますかー!


 ふんすっ! と気合を入れて、セリアーナの時と同じ様に構える。

 そして、正面からリーゼルを捉えるが……彼の構えは、右手に剣を持ち、左手はやや引いている。

 だが、体は正面を向いている。

 盾とかを持つ事を前提にしているのかな?

 テレサも似た様な構えを採る事が多かった気がする。

 オーギュストは加護があるから、それを生かす為なのか、騎士というよりは冒険者に近い戦い方だからな……。

 セリアーナも言っていたが、これがこの国の騎士の構えなのかもしれない。


「……ぬぬぬ」


 どうすりゃいいんだ?

 これ。


 リーゼル……身長は180くらいか……俺との身長差は40センチ以上だな。

 リーチ差は絶望。


 そして、一見細身だが施療の際に腰や背中に触れることがある。

 服越しでもわかるくらいには筋肉が付いているし……腕力差も相当なはずだ。

 片手で構えているからって、俺の一撃なんか簡単に防がれるだろう。


 ……ならやっぱり突きか。


「ぐぬぬ……」


 でもなー……隙なんてわかんないよ。

 俺が見つける事が出来ないのか、彼に隙が無いのか。

 多分両方だろうけれど……。


「セラ、さっさと動きなさい」


 セコンドから厳しい声が飛んでくる。

 仕方が無い。

 とりあえず、突っ込んでから考えよう!


「……はっ!」


 思いきり踏み出して、リーゼルの胸元目がけて突きを放つが、リーゼルは剣を持つ右手を僅かに動かして、俺の突きの軌道上へ。

 剣越しにすぐに伝わって来る硬い感触。

 防がれたか。

 なら、一旦距離をとって……っ!?


 突きを防がれたと思った瞬間に、もうリーゼルの左手が俺の目の前に来ていた。

 そして勢いよく突き出された手のひらに視界を塞がれたのだが……。


「うあっ!?」


 視界を塞がれた事に一瞬パニックになり、無意識のうちに【風の衣】を発動してしまったようだ。


「おっと!」


 リーゼルは小さく声をあげると、風の勢いに逆らわずに後ろに飛んでいく。

 そのままクルクルと2回ほど回転をすると見事に着地を決めた。


 ……お見事。


「……セラ駄目でしょう?」


 セコンド……もといセリアーナの声には呆れが混じっているが、リーゼルは楽し気に笑っている。


「あははっ。オーギュストから聞いてはいたが、コレだったんだね」


 実に楽しそうだ。

 しかし、やはりこのにーちゃんも中々とんでもないな。

 俺の突きを叩き落とすんじゃなくて、受け止めた事は、他の人でも可能だと思う。

 根本的に俺は遅いし非力だからな。

 だが、不意打ちのカウンターで風に吹き飛ばされたのに、自ら後ろに飛んでしっかり着地まで決めるとか……。

 いくら俺がこの加護を所持している事を知っているとはいえ、そう簡単には出来ないだろう。


 まぁ、怪我をしなかったのは良かったが……。

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