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「っ!?」
こちらに向かってくる魔物の群れに、フィオーラの魔法が直撃し、吹き飛ばされる魔物達。
それをすかさず3人で仕留めて行く。
ゴブリンにオーク、オオカミにイノシシ……今回はオーガは出なかったが、どれも浅瀬からの常連さん達ばかりだ。
貫くビーム状の魔法で、ガンガン止めを刺していくジグハルトと、魔物を吹き飛ばし行動不能にして、代わりに止めを任せるフィオーラ。
互いの個性が出て面白い。
こちらの戦場はフィオーラが担っているから、止め役は俺達だ。
おかげで……。
「うへへ……」
既に聖貨を1枚手に入れ、落とさないように首に提げている財布に入れている。
うへうへ笑っているその時、北側から大きな破壊音が響いた。
「うぉわぁぁっ!?」
さらに続けてもう一発。
その音に驚き、思わず両腕をバタバタと振り回してしまった。
財布に入れていなければ危なかったかもしれないな……。
破壊音は、先程から散発的にこちらまで届いていたが……今の2発は一際大きかった。
ジグハルトの魔法によるものだろうが……本陣の方を振り向くと、右腕を高く掲げているジグハルトが見えるが、ガッツポーズかな?
取ったぞー……的な。
「やったか?」
「そのようですね」
これでもかって程フラグを立てる2人だが、似たような事は前にもあった気がする。
「うーん……大丈夫っぽいね。魔物の姿は見えないよ」
何かしらの手ごたえを感じたからこそのガッツポーズなんだろうけれど、それでも一応念のために上から北側の様子を覗ってみた。
結果は、アレクとオーギュスト以外に動くものは無し。
流石と言ったところかな?
「……だが、向こうも片付いたのに、姿を見せないな。気配こそ感じるが……セラ、君でも見つけられないのか?」
「少なくともオレの見える範囲にはいないんだよね……。ちょこちょこ魔王種の影響を受けている魔物はいるから、この部屋にいる事は確かなんだろうけれど……ここ広いからなぁ」
何だかんだで、戦闘が始まってから余裕で1時間以上経っているが、未だにここのボスは姿を見せない。
魔王種の気配とか言われても、俺にはまだそんなもんわからんからな……今一つ自信は持てないが、影響下にいる魔物はいるから、いる事は確かなんだと思うんだが……この辺じゃなくて、もっと奥にいるのかな?
「お?」
ボスの間の南半分の魔物は、入り口付近の離れたところにはまだ残っているが、それ以外は片付きリポップ待ちだ。
少々手持ち無沙汰になり、ここに留まるか本陣に一旦戻るか、どうしたもんだか……と話していると、ふと東側というよりは北側の壁の上の方に影が見えた気がした。
「……ねぇ、あれなにかな?」
改めてそちらを凝視すると、ついさっきまでいた場所から少し移動しているし、壁の凹凸による影という訳じゃなさそうだ。
結構な大きさのはずなのに、【妖精の瞳】やヘビ達の目でも何もわからない。
……弱いのかそれとも隠しているのか?
本陣からはまだまだ距離があるが……近づいている気がするな。
何の魔物かはわからないが、放置するのはちょっと危険な気がする。
とりあえず2人に判断を仰ごうと、聞いてみる事にした。
「どうしました?」
「あれ?」
俺の側までやって来た2人は、倒したとはいえ周囲の警戒をしながらで、その上距離があり尚且つ薄暗い事もあって、彼等は見つけられないようだ。
俺が、その何かがいる場所を指で示した。
先程の場所からまた少し動いている。
ジグハルト達も特に動きは無いが、気付いていないのか、はたまた俺の気にし過ぎだろうか?
「うん。あれ」
あれ、あれ、と指すと……。
「あれは…………っ!?」
それに気付いたルバンは、一瞬驚いたかと思うとすぐに魔法を放った。
「わっ!?」
いつものビーム状の魔法では無くて、複数の小さな光球だ。
見るからに威力は低そうだが、速い上に散弾のように散らばっている。
そして、あの何かとその周囲に着弾すると、周囲が一気に明るくなった。
照明弾みたいな魔法なのかな?
その魔法によって照らされて露になった姿は……黒いカマキリ?
だが、遠目にだが体表がピカピカと魔法の光を反射しているが……カマキリの体ってあんなだっけ?
カブトムシとかクワガタとか……甲虫に近い雰囲気を感じる。
……硬そうだし、ゴッキーじゃないよな?
「……クソっ! セラ! アレク達にやったように俺も飛ばせ!」
俺は首を傾げながら眺めていると、ルバンは返事を待たずに一気に走り始めた。
舌打ち交じりのその物言いに少々驚く。
彼はリーゼルよりは砕けているが、それでも言葉遣いや仕草は品が良いのに……。
「へ? あ……ぉぅ」
慌てて【風の衣】に意識を集中した。
結界の端近くにさしかかったところで、ルバンは先程アレク達がやって見せたように軽くジャンプをして、一気に加速していった。
アレク達より装備が軽いからか、飛距離が段違いだ。
初見なのに、加速と着地の両方をしっかりと決めて、本陣に向かって駆けていっている。
ルバンのその後姿を見ながらポカンとしていると、テレサが腰に手を回してきた。
「姫、私に【浮き玉】を。我々も急ぎましょう」
「あ……うん……そうだね。お願い」
テレサに【浮き玉】の操作を渡し、抱えてもらう。
あのカマキリモドキが何なのかはわからないが、ルバンの慌てっぷりから只事ではないのだろう。
とりあえず合流を急がないとな。
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「……あれ? 向かう場所違うくない?」
俺を抱えて【浮き玉】に乗ったテレサは、北に向かい始めた。
てっきり本陣に向かうと思ったのだが、どうやら先にアレク達と合流するようだ。
先程のルバンの魔法であの変なのに気づいたのか、彼等も本陣に向けて移動している。
もう一回彼等を【風の衣】で吹っ飛ばすのかな?
「ええ。恐らく本陣を捨てて、開けた場所に移るはずです。アレク達にも伝えて、まずはその場を確保しましょう」
わざわざ造ったあの場所を捨てるのか……。
「うん……。ね、テレサもアレが何かわかってるの?」
魔虫種って事くらいしか俺にはわからない。
魔力も何も見えないし、強さがわからないから気にはなるが、ルバンといい只事ではない様子だ。
ここまで来たらあれがここのボス……魔王種なんだろうってのは俺でもわかるが、それでもここまで警戒するような相手なんだろうか?
「私は直接対峙した事はありませんが、オオザルと一緒でアレも森林の深い位置に生息する、オオカマキリです」
まんまなネーミングだ。
まぁ、カマキリとか強いし、それの魔物版ともなれば警戒するものなのかな……?
カマキリの方を見ると、さらに本陣の方へ移動をしている。
ルバンの魔法で接近に気付いただろうに、一切迎撃を行っていないのが気になるが……飛ぶのかな?
いや、それなら撃ち落とせるだろうし……。
などと考えていると、アレク達のもうすぐ側まで来ていた。
本陣に向かって走っているが……。
「あれーく」
手を振りながら呼びかけると、こちらに気付いた様で足を止めた。
大きな怪我こそ無いが、あちらこちら鎧が破損しているあたり激闘だったんだろう。
「降りましょう」
「うん」
彼等の補給もしないといけないしな……忙しくなりそうだ。
◇
竜種。
強靭かつ巨大な肉体に魔法を無効化する鱗を持つ、この世界の頂点に君臨する種族だ。
物語だと空を飛んだりするが、実際は流石にそこまでの化け物っぷりではないらしい。
それでも、単純にデカくて硬くて重いってだけでも十分な脅威になる。
アレだね……ゾウさんが強い的な。
そして、強力なブレスや、人が使う様な魔法こそ使わないが、魔力のごり押しでそれに近い現象を起こしたりもするそうだ。
そのエネルギー源になるのが、竜核と呼ばれる臓器だ。
極論だが、竜種と他種との区別は、その竜核の有無と言ってもいい。
「……亜竜?」
アレク達と合流を果たした後、【隠れ家】から急いでポーションや予備の装備を取り出して、装備の交換作業等をしていると、本陣から移動してきたジグハルト達もやって来た。
装備は置いたままだが、ポーションはしっかり持って来たようで、ジグハルトとフィオーラも回復を行っている。
本陣を目指していたカマキリは、狙いは俺達なのか、壁から降りてこちらに近づいて来ているが、随分ゆっくりとしている。
その間にアレは何なのかと聞くことにした。
亜竜か……ゲームとかだと、ドラゴンじゃ無いけれど、ドラゴンっぽい姿だってことで、ワイバーンとかがそんな風に呼ばれることが多いな。
でもカマキリだぞ?
せめてトカゲとか、鳥類とか……どこか共通点でもあれば納得できるけれど……。
「カマキリなのに?」
「姿は関係無いわ。あの体表……竜種の鱗とほぼ同種のもので、魔法を弾くの。竜核を持たなくても、あの鱗を持つものを亜竜と呼ぶようになっているの。……ダンジョンで出て来るとは思いもしなかったわね」
苦々しげに言うフィオーラ
「!? ……そりゃエライ事だ」
あの黒いのがそれか……魔法が無効化って事はうちのメイン火力2枚が封じられてしまう。
とんでもないな……。
「俺もフィオも、溜めさえ作れりゃ亜竜程度はどうにか出来るんだが……」
ポーションをグビグビ飲んでいたジグハルトが加わってきたが……。
「あ、どうにか出来はすんのね」
「外でならな……。亜竜を押さえながら他の魔物の対処となると手が足りない。……どう倒すかな」
「あー……なるほど」
サイモドキの時のアレみたいのなら通用するのかもしれない。
ただ、あの時は溜め時間は10分そこらだったが、そのための準備を事前にしっかりやっていた。
それ抜きでとなるとどれ位かかるのかはわからない。
しかもそこらから魔物が湧いてくるダンジョンでとなると……ちょっと厳しいだろう。
それに……あのカマキリ。
もう200メートルくらいのところまで来ているが……壁に貼り付いていた時は何となく大きいなって程度だったが、高さは3メートルくらいで、長さはもっと……大型トラックくらいだろうか?
それが大きな鎌を構えながらジワジワと……いざ近づいて来ると結構な迫力だ。
2人を守りながらとなれば、あのカマキリの足止めは1人でやる事になってしまう。
その役割はアレクになるだろうが、いかに彼でも……ぬぬぬ。
「どう戦う? 足は速くないようだし、もう一度壁側にまで移動するか?」
カマキリの挙動を探っていたルバンが口を開いた。
壁際にあった本陣を捨ててここまで来たのは、あそこは雑魚を迎え撃つために造ったもので、あちらこちらに堀や塀があり、大物相手に走り回る様な戦いには向いていない造りだったからだ。
戦闘中は移動することになるかもしれないし、そこに引っかからないようにとここまで移動したが、あの移動速度なら、本陣から反対の西側まで移動するくらいは余裕がある。
「そうだな……南側の壁を目指そう。セラ、先導を任せられるか?」
結局入口まで戻ることになるのか。
ボスの間の4分の1を回った感じになったな。
「うん。任せて」
南側なら壁や通路越しに増援を呼ばれても、何が来るのか把握できているし、対処もしやすいだろう。
「急ぐ必要は無いぞ。折角姿を捉えているんだ」
「了解!」
俺の場合はゆっくりの方が難しかったりするが……まぁ、何とかしよう。
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