189
449
「お前たちは下がっていろ。俺がやる」
こちらにやって来るオーガらしき群れを迎え撃とうとアレクたちが前に出たのだが、それを口の周りに模様を浮かび上がらせたジグハルトが制した。
「この部屋の魔物がどの程度かも調べたいからな……。光で呼べるかもな。セラ、お前は目を閉じていろよ?」
ついでに、一旦こちらを向きそう付け加えた。
「……ぉぅ」
ピカピカをやる気だな。
【竜の肺】。
折角下賜されているのに、ジグハルトは一度使ったら満足したらしく滅多に使おうとしない。
サイモドキや前回のボス戦でもそうだったが、今回はしっかり装備していたが、ここまではまだ一度も使っていなかった。
だが、道中一度も発動していなかったその【竜の肺】を発動している事と言い、本気バージョンか……威力は変わらないそうだが、連発するのかもしれないな。
見たい気もするが、一度目潰しを直視した身としては、残念だが諦めざるを得ない。
魔物はもうすぐ側まで来ているし、大人しく両眼を閉じさらに手で目を覆った。
「いくぜ……光よ!」
「っ!?」
声と共に放たれるジグハルトの魔法。
熱か魔力かわからないが、肌が微かにヒリつくのを感じる。
「あわわわわ…………」
さらに着弾した音が遅れて聞こえてくるが……やはり一発だけじゃ無いようだ。
2発3発4発……と、連続して撃ち続けているようで、音も熱気も収まらない。
魔法を撃つ前に、光で呼べるかどうかも調べたいとかそんな感じの事を言っていたが、これは光より音の方が比重が大きいんじゃないか?
「うわわわわ………」
俺は今も目を閉じ手で覆っている状態で、何も見えていない。
真っ暗な中にひたすら連続される雷が落ちる様な破壊音と熱波……いくら味方の手によるものとはいえ、恐怖すら感じてくる。
だが、命じなくても勝手に反応してしまう【浮き玉】に乗りながら、【浮き玉】に蹲りながらもその場に留まれているあたり、俺の成長も著しいな……。
自分の成長に感心していると、音が鳴り止んでいる事に気付いた。
倒し切ったのかな?
……まぁ、普通の魔物相手にアレだけ撃って、それでも尚生き残っているのがいたらそっちの方が驚きだ。
最後の方は音はともかく熱も感じなくなっていたが、加減していたのかな?
「おわったー?」
「終わったわ。ここの魔物達は光や音では寄って来ない様ね……それともまだ足りないのかしら?」
俺の声に答えたのはフィオーラだが……その声が妙に近い。
すぐ後ろからだった。
何故? と思い振り向くと……。
「なにしてんの?」
俺が装備しているサイモドキの帯。
ソレの端っこをフィオーラが掴んでいた。
そりゃ、近くから声がするはずだ。
「貴方が勝手にどこかに行かないように捕まえていたのよ。どこかに飛んでいきそうだったのよ?」
「……ありがと」
どうやら俺は勝手にどこかに逃げようとしていたらしく、フィオーラが掴んでいたからこの場に留まれていたようだ。
ダンジョンで目を塞いだままそんな事やらかしたら、エライ事になるからな……。
「テレサにも礼を言っておきなさい。貴方の前に立って壁になっていたのよ」
そう言えば横にいたはずのテレサがいつの間にか前に立っている。
途中から熱を感じなくなったのは、彼女が防いでいたからか。
「ぬぬぬ……。ありがとね」
俺成長してないな……。
感謝の気持ちはあるんだが……どうにも苦い物が混じってしまう。
「気にしないでください。私は姫の護衛でもありますからね」
なんでもないように、それに笑って返すテレサ。
「それよりも、ジグハルト殿たちが戻ってきましたね。討ち漏らしは無いようです」
男性陣は魔物の処理と討ち漏らしの確認に行っていたようだ。
改めて魔物がいたであろう場所を見ると、その破壊痕にドン引きしてしまう。
坂になっていて、俺達のいる場所から2‐3メートルほど高かったのが、ほとんど同じくらいの高さにまで削れてしまっている。
足場を作ったりしていなかったし、坂もろともぶち抜いたんだろう。
ジグハルトの乱射が終わってからまだほんの数分程度だと思うが、これじゃ核を潰したかどうかとか関係無く跡形も残っていないだろうし、確認もすぐ終わってしまうだろう。
戻ってきた彼等は、誰も遺物を手にしていない。
一緒に潰したか土砂に埋もれてしまったのかもしれないな。
【竜の肺】に【祈り】もあるし、魔力の回復速度も上がっている。
それでも、これだけ派手にやって大丈夫なのかな?
「速度重視で試したが、この程度なら俺だけでも片付けられるな。フィオ、次はお前がやるか?」
「処理が面倒だし、消耗が無いのならあなたがやって頂戴。貴方の方が派手だし、何度か繰り返したらもしかしたらお目当ての魔物も寄って来てくれるかもしれないわ」
「ならしばらくは俺がやらして貰うが……お前達もそれでいいか?」
ジグハルトの言葉に頷く一同。
「ああ、そうだ。奥の方にだが魔物が固まっている場所があった。壁からだと距離があるから、ある程度進んだらそこから撃ち込んでみたいが……どうだ?」
このおっさん……まだまだ余裕たっぷりみたいだ。
450
ボスの間での最初の戦闘を終えてからしばし。
その後も散発的に襲ってくる魔物の群れがいたが、どれもジグハルトが一掃していた。
魔王種の影響を受けて、強化されている魔物はいなかったが、それでも下層の魔物。
普通なら十分強敵なんだろうけれど……、このおっさんには関係無いようだ。
そのまま魔物を蹴散らし壁際に移動を続けていると、少し開けた場所に出たところで、先頭を歩くアレクが足を止めた。
戦闘を挟みながらだから少々時間はかかってしまったが、既にボスの間の半分近くまで到達しているはずだ。
このボスの間は、下層の手前全体くらいの広さがありそうで、ここまでにも何本もの通路を通り過ぎてきた。
迂闊に進み過ぎると、その通路から増援がワラワラやって来そうだな……。
「この辺でいいか? どうです、ジグさん」
「ああ……視界も取れるし足場も悪くないな。ここにしよう」
壁際で足場が良く、比較的高い位置にあり周囲を良く見渡せる。
さらに、通路からも程よく距離があり、増援がやって来ても気付きやすい。
ここが、ボスとの戦闘の本陣になりそうだ。
「んじゃ、オレは道具とか取って来るね」
前回は不意打ちから乱戦になってしまって、準備をする暇が無かったが、今回はしっかりやっておかないとな。
折角【隠れ家】に回復アイテム各種や予備の装備を積んでいるんだし、活用したい。
「姫、私も手伝いを」
「うん。お願い」
魔物が来る前にさっさと済ませようと、壁に手を触れテレサと共に【隠れ家】に入った。
◇
「オレはポーションを取って来るから、テレサはそっちの武器とかをお願い。台車使っていいからね」
「はい」
中に入るとテレサに指示を出し、俺はリビングの冷蔵庫の元へ向かった。
冷蔵庫のドアを開けて、中に入っていた2つの大きな袋をそのまま取り出した。
この中にポーションが入っている。
緑の紐の方が治療用で、赤い紐の方が魔力の回復用だ。
これはそのまま予備の装備と一緒に外に置いたままにする。
今回は前衛と後衛との間が短いから、俺が配達せずに自分で回復に戻って来ることになるからだ。
……まぁ、折角用意したけれど、使う機会は無い方がいいか。
「よっせ……!」
気合いを入れて持ち上げる。
それぞれ10本ずつ入っているから、結構な重さだ。
【祈り】で強化されていないと持ち上げられないかもしれない……。
「あ、そっちももういいかな?」
玄関まで行くと、予備の武器が積んである箱は既に台車から降ろされて、準備が完了していた。
その台車は俺が遺物を運びやすいように、室内用に作って貰った物であって、外、それもダンジョンのような荒れた場所での運用は想定していないからな……。
外でも使えたら、便利なんだろうが……まぁ、しゃーない。
「はい。槍と剣、予備の盾です。その袋もこちらへ……このまま出してしまいましょう」
そう言うとテレサは俺から袋を受け取り、箱の空いたスペースに置いた。
装備もポーションも、ストックはまだまだあるが……一先ずはこんなものか。
「出る前に……ちょっと待ってね」
ドアの覗き穴から外の様子を覗う。
普段のように天井で発動したわけじゃ無いから、外の様子も確認しないとな。
試した事が無かったから最近まで俺も知らなかったが、こうする事で外の様子を見る事が出来る。
何となく覗いてみたら、外の様子がわかったので驚いたもんだが……よくよく考えるとその為についているんだし、出来て当然といえば当然だ。
部屋のモニターの様にそこまで多機能では無いが、こういった時に便利だ。
「んー……問題無いね。行こう」
外ではアレク達が周囲の警戒をしている。
ジグハルトとフィオーラの姿が見えないが、足場でも作っているのかな?
ともあれ、まだ何も起きてはいないようだし、このまま出ても大丈夫だな。
◇
「ぉぉぉ……」
外に出ると、ちょっとした砦のような物が出来ていた。
縦横20メートルずつくらいはあるだろうか?
その周囲を高さ1メートル程の壁が塀のように張り巡らされていた。
おまけに堀のようなものまで出来ている。
そして、その砦の中央にそびえたつ2メートル程の高さの台が建っている。
そこがジグハルトのポジションか。
堀はただ周囲を囲っているのではなくて、所々渡れるように道が出来ている。
前の方にいるアレク達が、補給や回復でこっちに来る時はそこを通るんだろう。
魔物も通れそうだが、要は一直線に突進してこなければいいわけだし、落とす事よりも足止め程度でいいのか。
どうせ上から撃ち抜くんだろうしな。
領都周りの工事で、穴を掘ったり道を均したりする際に、魔法でドカンとやっちゃえばすぐなのに……と聞いた事がある。
その時は、魔法でやると細かい調整が難しいし、地盤を痛めて後々事故につながりかねないから、よほどの緊急事態を除けばやることは無いと言っていた。
ダンジョンだからそんなこと気にしなくていいんだろうな……。
だが、元から舐めプはしない人達だが、それでも彼等がここまでするって事は、やっぱり俺には気付けない何か脅威でも感じているんだろうか?
「セラ、道具類はそこの台の前に置いてくれ。わかりやすいだろう?」
「りょーかい」
ジグハルトの指示に返事をする。
もっとも運ぶのはテレサだが……。
「それにしても、あっという間に造れちゃったね……」
少々気まずくなり、話題を変えようとジグハルトに話しかけると、苦笑しながら答えた。
「フィオがな……。外じゃ大っぴらにやれる事じゃ無いし、張り切っちまってな……」
そのフィオーラは、風魔法か何かで塀の高さを揃えている。
「……ああ」
この人達、優秀だけれどたまにそういう所がある。
まぁ、余裕を持てているのは良い事か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます