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早いものでもう夏の2月間近。
そして、ルバンもやって来て、下層のボス討伐に繰り出す事にとなった。
つまり……やって来ちゃいました、ダンジョン下層。
前回少し時間がかかった理由でもあるフィオーラの足も【小玉】で補う事が出来て、中層の到達と下層までの到達は大体同じくらいの時間だった。
戦闘もあまりすること無く済み、余力も十分だ。
それだけなら問題無いんだが……ここはヤバい気がする。
事前の情報との差異を確かめるべく、下層最初の部屋を一掃した後、俺が上部も含めて軽く調べたのだが……。
「ちょっとー……ここひと部屋ひと部屋になってるんじゃなくて、でっかい広間を壁で遮ってるって感じで、上が空いてるよ。下の通路だけじゃなくて、上からも来そうだよ……」
下に降りて、上を一しきり観察してわかった事を伝える。
事前の調査では、広間は通路のみで繋がっているって事だったが……壁と天井の間には大きな隙間があって、そこから魔物が行き来できそうだ。
5メートルくらいはありそうだし、これ上からも来る気がする。
「……そうか。分かった、一旦下がろう。情報の整理だ」
「うん」
という訳で、一路中層へ引き返す事に。
作戦を練る為とは言え、このメンツで引き返すってのは初めてだ。
やるな下層……!
◇
ボス戦は、前衛中衛後衛に分かれて、前衛がボスに当たり、中衛が周囲のお供を倒しながら前衛の援護。
そして、後衛は壁を背に全体の援護ってのが当初の作戦だった。
後衛に回るのはジグハルトとフィオーラで、ジグハルトは魔法で作った足場から、フィオーラは【小玉】に乗り、高所から魔法を撃ちまくる……これで有利に進められる予定だったんだが、壁の上が空いていて後ろからも魔物が来る可能性が出てきた。
ジグハルト達なら問題無いだろうが、その場合連携が崩れてしまう。
前線と距離がある為、それが続くと分断されてしまうだろう。
って事で、前衛と後衛の二組にして、陣形をコンパクトに変更することになった。
そしてやっぱり、位置は壁側に。
背後から魔物が来る可能性はあっても、ワラワラと囲まれるよりは良いって判断らしい。
そして、一応素材がゲット出来るように核への直撃は極力避けるが、あくまで優先事項は犠牲無しでの討伐だ
いざって時には核狙いの攻撃も仕掛ける。
前衛も行けるジグハルトが今回後衛なのは、その時に溜めの一撃を撃つためだ。
中々の本気っぷり。
ちなみに俺の役割は変わらない。
宙を飛び回りながら毒を撒き、やれそうなときは援護をする。
強いて言うなら、上でも魔物に気を付けるって事が加わったくらいか。
「セラ、見えるか?」
「いやー……ここは無理だね。上も空いていないし……構造が変わってるのかも」
アレクの問いかけに首を振りながら答えた。
【妖精の瞳】とヘビ達の目を発動して、壁越しに次の部屋の様子が見えないかを試しているが、ここは見えない。
ここまでの壁だと見通せたのだが……この壁は厚みが違うようだ。
手前部分はここまでなのかもしれない。
下層に入ってから、5部屋目だったかな?
今のところ魔王種の影響を受けた魔物は現れていないが、強化型って分類されている魔物が出て来ている。
ボス戦に向けて温存しているからだろうけれど、強化型はジグハルトでも当たり所によっては一撃で倒せない。
そろそろボスさんかもな。
「わかった。セラ、お前はテレサの側にいろ。どう見る? この先にいると思うか?」
「この先かはわからんが……近いだろうな。魔力が濃くなっている」
男性陣が周囲を警戒しながら話を始めた。
俺は女性陣と一緒にいるが……。
「皆休憩しなくていいのかな……?」
今回も【隠れ家】は装備の変更以外には使わない方針だ。
俺は別に使ってもらっていいんだけれど……。
「消耗もそれほどでも無いし、緊張感が途切れてしまいますからね……。彼等は戦場慣れしていますし、ここでも十分休めますよ」
「なるほど……」
【隠れ家】に入ると寛げちゃうからな。
普段ダンジョンや戦場であのレベルで休めることは無いし、こういった環境に慣れてる人だと、逆にメンタル面の調整が難しいのかもしれない。
……俺は全く関係無かったな。
「あの人達はアレが休憩も兼ねているから、放っておいていいわよ。それよりも貴方達は大丈夫なの? 私はコレのお陰で助かっているけれど……」
テレサの言葉になるほどなーと頷いていると、上の方で壁の一部を採集していたフィオーラが下りてきた。
【小玉】をしっかり使いこなしていて、疲労も無いようだ。
「私は問題ありません。姫は休憩はよろしいですか?」
「俺も大丈夫」
浅瀬上層そして中層と、狩りをする者たちが支援も兼ねて魔物のほとんどを引き受けている。
それでも前回は通路では【ダンレムの糸】を使っていたが、今回はそれすらなかった。
浮いてついて来ただけで、疲労なんて欠片も無い。
いつでも行けるぞ!
◇
こっちはこっちでしばらく話をしていると、男性陣の話が終わったようだ。
こちらに声をかけてきた。
「そろそろ出発しよう。準備はいいか?」
向こうはもう準備を終えているが、こっちはこっちで軽装だし、元から装備を解除していない。
いつでもOKだ。
「いつでもいいわ。それより、何か変更はあって?」
「いや、ここまでの様子を見ても、そこまで特殊な状況にはならないだろう。事前の打ち合わせ通りだ」
返答ついでのフィオーラの質問にはジグハルトが答えた。
まぁ、結局何が出て来るのかわからないもんな。
なるようになれ……か。
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小休憩を終えて、先に進むこと小一時間。
徐々に魔物との戦闘回数も増えて来て、移動に時間がかかるようになって来た。
未だボスには出くわさないが、お陰でちょっとずつ下層の構造が見えてきた。
俺達が一部屋と認識していた広間は、実際はさらに大きな広間を土壁で区切っただけのものだったようで、上が空いていない壁こそが本物の広間の壁だ。
その大きな広間が、階層内での区切りになっているんだろうが……無茶苦茶広い……。
距離だけなら既に中層の半分近くはもう過ぎていると思う。
ダンジョンは下の階層に行くにつれて広くなっているそうだが……相当だな。
とは言え、ボスとの戦闘を想定して慎重に踏み込んだって事を考えると、少々肩透かしを食らった気分だ。
俺だけじゃなく皆もその様で、気が緩んだりはしないが少々口数が少ない。
「ぬ?」
先頭を歩くアレクが、壁の手前で手を上げ、歩みを止めた。
上を見ると天井には繋がっていないし、ここはまだ階層の中ほどだ。
「いるな」
「ああ……」
なにやら意味深な会話を交わす男性陣。
内容から、この先にボスがいるようだが……。
「ぬぬぬ………。変わりは無いけど……?」
一応この壁なら、向こう側の様子も透かしてみる事が出来る。
気合いを入れて見てみるが、魔物の姿は少しあるが、ボスの存在はわからない。
だが、彼等はもういるのは間違いないと考えている様で、俺でもわかるくらいに纏う気配が変わっている。
「おサルの時みたいに、また気配でも隠してるのかな……?」
まぁ、あのボスザルより強いんだろうけれど、頭も良いのかな?
「だろうな。あの時のような事もあるから、お前はソレとヘビを上手く使えよ」
アレクが【妖精の瞳】とヘビたちを指して言った。
前回の事を気にしているんだろうが……アレは不意打ちだったからな。
「大丈夫大丈夫。ちゃんと使い分けるよ」
俺も中層で遊んでいたわけじゃ無い。
大分楽しんではいたが、それはそれとして、ちゃんと恩恵品とヘビの目の切り替えだったり、ヘビたちによる索敵の訓練もしていた。
自分の目とリンクさせての視覚での索敵よりかは精度は落ちるが、幸い新たに手に入れた防御系の加護と恩恵品もある。
補えるどころかむしろ防御力は上がっている。
飛び回りながらの索敵も支援もばっちりだ!
「そうか……まあ、無理をする必要は無い。いざとなれば奥に隠れていろ。では、皆準備はいいな? 今度こそ……だ。行くぞ!」
アレクは俺への指示を終えると、出発の号令を出した。
さっきは気合いを入れて踏み入ったのに、空ぶってしまったからな。
皆も軽く笑っている。
狙ってなのかはわからないが、程よくリラックスも出来たし、気分を入れ替えてボス戦に臨めそうだな。
◇
ボスの間……勝手にそう呼ぶことにしたが、嫌な地形だ。
土柱等の障害物は無いが、高低差があり足場も悪い。
中層も似たような感じだったがもっとあからさまで、ボスの間の入口はこの部屋の随分低い位置にあるようで、多数の魔物達が高所からこちらを見下ろしている。
投擲なんかを警戒して、俺も他の面々と一緒に移動しているから、姿が見えずどんな魔物かはわからない。
だが、少なくとも馬鹿では無いだろう。
「…………あ」
「何か見つけたか?」
キョロキョロと周囲を探っていると、魔物の群れの中で妙に強い個体が混ざっているのに気付いた。
この階層の魔物は魔境と遜色ない強さだが、その中でも抜きんでている強さだ。
「うん。妙に強いのが何体かいるね。まだ姿は見えないけど、やっぱりここのボスも魔王種かな?」
「だろうな……。無理に見つけなくていい。まずは壁沿いに予定通り北を目指そう。方角は今まで通りでいいか?」
「うん。このまま真っ直ぐが北だね」
ナビは、両手を空けられる俺の仕事だ。
北を指差して、アレクの問いに答えた。
ボスの間の探索は壁沿いにグルっと一周する事から始める。
部屋の広さと大体の構造を把握でき、壁上に気を付ける必要はあるが、それでも四方を警戒し続けるよりはいい。
途中でボスを見つけても、迎え撃てる状況を作りやすいしな。
って事で、まずは向かって右手側……東に向かって移動を開始した。
いきなり斜面を上ることになる。
浮いている俺とフィオーラには関係無いが、歩きだと大変だろうな……。
◇
「……あ」
「魔物か?」
斜面を上り、壁沿いに移動を開始して早々にこちらに向かってくる魔物の群れを察知した。
40‐50メートルほど先で、地形が邪魔でまだ直接姿は見えないが……魔王種の影響を受けていないのに結構強いのもいる。
これくらいの距離なら普段の彼等だと気付けるんだろうが、ボスの気配に邪魔をされて、どうにも把握できなくなるそうだ。
集中すれば問題無いそうだが、ボスに向けて極力消耗を避けるためにも、俺がパーティーの目も兼ねている。
……今更ながら責任重大だな。
「うん。歩きだけど、向こうから魔物の群れが来てるね。妖魔種で数は20体弱……かな? 結構強いのもいるよ」
ヘビたちの目で、何とか形はわかるが種族まではわからない。
この数で妖魔種となると……オーガかな?
「向こうか……。20弱で妖魔種……オーガか?」
「だろうな。まずは片付けよう」
俺の情報から同じ予測をしたのだろう。
そう言うとアレク達は魔物がいる方向を見た。
いざ集中さえしたらわかるらしい。
……未だ俺にはわからない感覚だな。
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