第187話

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 先日行った念願の聖貨ガチャ10連。


 その成果である、【風の衣】と【紫の羽】の実験にダンジョンにやって来ている。

 そのために、護衛としてアレクとオーギュスト、テレサの3人に、監督役としてジグハルトとフィオーラという豪華な面子だ。

 アレク達は騎士団の仕事もあるんだが、こちらを優先してくれた。


 ボス戦に間に合ったし、その際に使うかもしれないからだろう。

 まぁ、単に興味があったからってのもあるかもしれないが……。


【琥珀の盾】は試していない。

 剣の方と違って、的相手に試す事は出来ないし、性質上人間相手に試すわけにもいかないから、魔物相手に試したいところではあったが……、そのためには攻撃を受ける必要がある。

 ダンジョンに潜ってもう4年経つが、未だに俺は魔物の攻撃を受けた事が無いし……怖いじゃん。

 そのうちどうにかなるはずだ。


 効果がわかっている【琥珀の盾】よりも、2つの方だ。


【風の衣】……これも効果はフィオーラから聞き、ある程度わかってはいるが、実際に発動してみるとより詳しく効果がわかった。

 名前に風なんて付いているが、別に風が吹きすさぶわけじゃ無い。

 正直、俺を中心に風が逆巻いていたりしたらカッコいいな……とかは思っていたが……残念ながらそうでは無かった。


 最大で直径5メートル程の球状の膜を張り、その膜に触れたものは突風で吹き飛ばされる……そんな具合だ。

 適用される対象が敵、あるいは何かしらの危険らしいが、俺が認識していなくても発動するのが謎だ。

 まぁ、高性能なのは有難い。

 俺の場合は浮いているから範囲が球状であって、通常だと半球状になるらしい。


 流石にイノシシの突進を押し返すほどの力は無かったが、オークをよろめかせる事は出来た。


 俺は今も通路を突破する時は傘を使っている。

 今のところオーガの姿を見ていないが、たまにオークの中にも投擲をしてくるものがいるし、直撃は避けられるが破片はやはり怖い。

 傘は有効だが視界が塞がってしまい、アレはアレで怖いしな。


 ここリアーナだけじゃなくて、他の似たようダンジョンはもちろん、外での狩りでも使えそうだ。

 流石に屋内や街中じゃ周りを巻き込む事もあるが、外でなら範囲を狭めれば常時発動でも行けそうだし……いい加護だ!

 ちょっとした、コンビ技も出来たしな!


 そして……なんか訳の分からないおっかない恩恵品【紫の羽】。

 名前は羽なのに開放前は切り花で、いざ開放したらブローチに……ブローチはありかな?

 効果は名前から毒っぽいって事こそわかっていたが、どんな物なのかあまり想像の出来ない恩恵品だった。


 結果は……。


「……生きてはいるな」


「ああ……やはり麻痺毒か?」


「今回は10分そこらか……。体格差か能力差かはわからんが……効果が現れるまでにバラつきがあったな。セラ、こいつらは俺達でやっていいか?」


【紫の羽】の効果によって倒れ伏す魔物達。

 そして、アレク達はそれを調べているが、止めを刺す様で、天井近くを漂っている俺に向かって、大きな声で聞いてきた。

 浅瀬だとそれほどでも無いが、上層だと結構声が響くなー……。


「いいよー!」


 動けないとは言え、魔物が沢山いる場所に降りていくのは怖いしな。

 ちょっともったいないが、任せてしまおう。


「……思った以上に便利ね。貴方向きかしら?」


「おわっ!?」


 横から声をかけてきたフィオーラに、驚き声を上げてしまう。


「そろそろ慣れてくれると嬉しいわね」


「ごめんごめん……。んっんっ……まぁ、そうだね。これなら浮きながら無力化できるし、乱戦でも支援が出来そうだよ」


【小玉】に乗ったフィオーラに謝りながら、【紫の羽】の使い心地を説明する。


 いやー……今まで【浮き玉】に乗った俺に、下からならともかく横から声をかけてくる人なんていなかったからな……慣れない。


「終わったみたいね……」


 下に目をやれば、先程まであちらこちらに転がっていた魔物の姿が無い。

 どれも核を潰したんだろう。


「だね。降りよう」


 止めは俺じゃないから聖貨は期待できないが、遺物の回収をしないとな。


 ◇


【紫の羽】は名前通り羽が生える……と言うと少し語弊があるかもしれない。

 系統としては【蛇の尾】に近い。


 まず発動前の状態があって、次に発動すると背中に蝶の様な羽の模様が現れる。

 これが第一段階だ。

 第二段階は、そこを意識してもう一度発動すると、紫色に淡く発光する大きな4枚の羽が現れる。

 しっぽと違うのは、それ自体を動かしたり、何か物に触れたりは出来ない事と、背中から生えるのではなくて、少し離れて現れる事か。


 その羽からは紫の鱗粉のような物が放たれて、それを浴びた魔物は個体差はあるが、徐々に動きが鈍くなりやがて麻痺したように倒れ伏す。


 まだ検証が足りず、どれほどで有効になるかなど調べる事は多いが……、この恩恵品の最大の特徴は、敵味方の識別ができる事だ。

 この羽に触れる事が出来ないことから、恐らく魔素のような物で、毒は魔法に近い現象じゃないかとジグハルト達が言っていた。


 乱戦になった時に、宙から俺がグルグル周囲を移動する……それだけで効果を発揮できてしまう。

 ボスザル戦時に痛感した、乱戦時の戦闘手段の少なさを補える、非常にありがたい恩恵品だ。


「よっと」


 下に降りて羽を解除する。

 別に仲間に害があるわけじゃ無いが、如何せんデカいからな……。

 1枚当たり全長1メートル近いから、結構邪魔になる。


「ああ、やはり蝶だな」


「だよね!」


 解除する時は、羽が閉じる様にして消えていくのだが、羽は縦に閉じていく。


 最初俺は、蝶っぽい羽とはいえ毒って事から毒蛾を想像した。

 ムカデ程じゃ無いが、蛾も好きじゃないから、それが顔に出てしまっていたのだろう。

 だが、解除する時に、その羽の閉じ方は蝶だと教えてくれた。


 おかげでシコリ無く使う事が出来るってもんだ。

 折角有用な恩恵品なのに、嫌々使うのもな……。


 フフフ……次のボスそのものに効くかはわからないが、乱戦になったら俺の出番だな!


446


ダンジョンで【風の衣】と【紫の羽】の使い心地を確かめた日の夜。

同行したメンバーにセリアーナとリーゼルも交えて報告会を行っている。

場所は南館では無くて、本館のリーゼルの部屋だ。


「……そう。使い物になるのなら結構な事ね」


まずは前座の俺の報告を聞いて、【小玉】に乗ったセリアーナはそう言った。

彼女はソファーに座らず、フワフワと宙に浮いている。


もっとも俺と違って、座っているのとさして違わない程度の高さに留まっている。

俺は気を抜くと天井あたりまで浮き上がってしまうからな……。


2つに加えて、【小玉】ももちろんダンジョンで試用した。

とりあえず、本体の【浮き玉】と同じ程度には使う事が出来る


フィオーラが使っていた時は普通に移動するだけだったが、途中で交代して、テレサが使うようになった。

彼女は剣を用いた戦闘も行ったのだが……【浮き玉】と遜色ない機動力だった。

だが、そもそも【浮き玉】の限界自体もわかっていないし、現時点での【小玉】の評価は持ち越しになっている。


とりあえず、女性陣にとって便利な足が出来た。

それと、フィオーラも高い所や速いものには平気って事がわかったくらいか。

馬とかに乗る機会があるからか、皆結構平気っぽいんだよな……俺が苦手過ぎるだけなのかな?


さらに他の面子が補足をして報告が終わった。


しかしまー……皆よく初見の恩恵品について、アレコレ意見を出せるな……。

効果や効率の良い使い方なんかの意見がポンポン出てきた。

俺はただただ感心しきりだったが……情報量や経験の違いなんだろうか?


さて、俺がふぬぬと唸っている間に、ボス討伐へと話が変わり、今度はオーギュストがメインで話を始めた。


「後10日もしたら、ルバン殿が再び領都に訪れます。前回同様下層まで一息に駆け抜けて、それから探索、討伐を行います」


……相変わらず、あのにーちゃんにとっては慌ただしいスケジュールになりそうだな。


「うん。最近は騎士団で探索を行っている者達も中層まで進めているんだったね? それなら下層まで到達するのもそこまで時間はかからないかな?」


「それと、前回は中層には我々が最初に踏み入りましたが、今回は事前調査で既に下層に数隊送り込んでいます。下層の入口周辺のみの調査ですが、ある程度情報が揃って来ていますし、さらに効率良く進めるはずです」


「魔物の種類は?」


「主に強化型の妖魔種が。環境は上層や中層と同じですが、構造は上層に近く、各広間が通路で繋がっているようですね。ただ、魔物の密度は非常に高く、恐らく援軍を呼ばれ乱戦に持ち込まれるでしょう。また、環境は中層に近く、足場も見通しも悪いようです」


彼等は真面目な顔で下層の状況について話をしている。


前回と違って、下層には既に調査の兵が送り込まれていて、その彼等から情報が入って来ている事は俺も知っていた。

当初は、最初に踏み入るのは俺達で、そのまま討伐をって予定だったそうだが、中層でも安全マージンを確保しながらでの狩りも行えたため、アレクを交えた冒険者たちとの混成部隊で調査を行っていた。


別に順番にこだわるつもりは無いし、死者が出ないんなら事前に情報がある方が助かる。

実際今日の恩恵品や加護の試用も、彼等からもたらされた情報を前提に、アレコレやったわけだし、今目の前で行われている討伐の計画だってそうだ。

死者も重傷者も出てはいないそうだが、やはりそれなりに大変だった様だとは聞いている。


ありがたい事だ。

彼等の苦労に報いる為にも、しっかりと情報を活かしたい。


だが、俺はちょっとこの会話に加わる前に確認しておきたいことが一つ……。


「ね」


討伐計画を練っている中に参加せず、脇からそれを眺めているセリアーナに後ろから声をかけた。


「どうしたの?」


「強化型って強いやつだっけ?」


……聞いた事はあるが、実は詳しい事は知らないんだ。


「……そうね。ゼルキスだと下層の最奥部。王都だと下層あたりから現れる、そこまでの魔物よりもずっと強力な魔物のことよ。私も直接見たことは無いし資料で目にした程度だけれど、魔境の魔物と同等らしいわ」


セリアーナは一瞬呆れた様な表情をして見せたが、ハタと何かに気付いたのかすぐにいつもの表情に戻した。

冒険者ギルドとかなら資料があるのかもしれないが、ダンジョンの奥の資料は、俺はまだ閲覧できない事を思い出したのだろう。

簡単にだが説明をしてくれた。


「ほうほう」


魔境クラスの魔物がワラワラと……まともに戦うと結構大変そうではあるな。

そして、中層の様にだだっ広い空間という訳でも無いし、まとめてドーンっという訳にもいかないだろう。


……となると、俺の背中の羽の出番かもしれないな……!



話を終えたその後は解散となり、俺はセリアーナ達と寝室に戻った。


「どう? どう?」


そして、俺は今ベッドの上で上半身裸になっている。

【紫の羽】の第1段階を自分で見るためだ。

ダンジョンでは確認はフィオーラが行ったが、【隠れ家】に入らず、服の襟から覗き込む形だったからだ。

エレナとテレサに鏡を持ち前後に立ってもらい、合わせ鏡の様にして背中を映しているのだが……。


「ああ……本当。蝶の羽ね。お前蝶は平気なの?」


「幼虫じゃなきゃ平気だよ。あ、見えた見えた」


鏡に俺の背中が映った。

ちょうど真ん中……肩甲骨の間あたりに紫色の蝶の羽が現れている。


……思ったより毒々しくないな。

紫の羽とか言うからちょっと警戒していたが、開放前の花びらを並べ替えた様なデザインで、正直悪くない。

人に見せる事なんて無いだろうが、これはアリだな!

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