第174話

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「わははははっ!」


俺の笑い声が、周囲の破壊音に負けずに響いている。

【ダンレムの糸】をぶっ放した後のこの光景……最高だ!


その一発が落ち着いたところで、後ろを振り向くと木はなぎ倒され地面は抉られ……と、大破壊の後が刻まれている。

自分でやったことながら、この見事な環境破壊の様相に少々胸が痛くなる。


「む!?」


が、その大破壊から免れた場所から魔物が姿を見せた事に気付き、すかさず攻撃を開始した。



ダンジョンの初探索兼調査を終えてから、その後さらに数日調査に費やした。

魔物の強さや遺物の種類、ダンジョンの破壊からの復元速度……等々だ。

それらの調査結果をまとめて、リーゼル達に報告したそうだ。

そして、冒険者ギルドの幹部も交えて旧ラギュオラの牙達、戦士団へも徐々に開放していく事になる。


そうなって来ると、この派手な戦闘は難しい。

入口から右手は俺が【ダンレムの糸】を10分に一度ぶっ放し、正面はジグハルトがガンガンと……。

左手は、アレク達3人が殲滅を。


このハイペースは狩りは、中々楽しい。

第二陣が入ってきたら、俺達は上層に移ることになる。

上層も少しだけだが探索をしたが、この浅瀬の様に大規模なホールじゃなくて、ゼルキスの中層の様に小規模なホールがアリの巣状の構成だった。

あそこも稼げはするだろうが、ここまでド派手な事は出来ないだろう。


「よいしょー!」


使用可能になった【ダンレムの糸】を再び発動し、一射で一番多くの魔物を倒せるライン目がけて発射した。

魔力が僅かにだが籠っていた木によって、【妖精の瞳】やヘビ達の目でも捉えにくく、討ち漏らしていた魔物達も、これだけ木をなぎ倒していけばはっきり見える。


「ふふふっ……」


今のは討ち漏らしゼロ。

パーフェクトだ!



「お前、今日はダンジョンは駄目よ」


さて、浅瀬を独占できるうちにフィーバータイムを楽しもうと、今日も今日とて朝からダンジョンに向かおうとしたのだが、セリアーナからストップがかかった。


「……なんで?」


もう冒険者ギルド側が決めた冒険者達が入って来るスケジュールも決定しているのに……。


「……お前ここ最近毎日ダンジョンに潜っているでしょう? それも朝から日暮れまで。テレサ達が付いているから大目に見ていたけれど……」


そう言うと、「ふぅ……」と溜息を吐いた。


「いや……でも、問題無いよ?」


食って寝て今日も元気だ。

何の問題も無い。


「駄目よ。そもそも2日に一度1時間。そう決めた時の事を忘れているの?」


「……むぅ」


覚えてはいるがもう4年前の事だ。

流石に一緒にされたら……。


「少しは成長したけれど、あの頃からあまり変わっていないのだから、今日、明日は休みなさい。命令よ」


「……はーい」


何かお預けの日数が増えてしまったが、もう決めている様だし、これは反論しても駄目だな……。


「セラ、アレクに聞いたけれど、これからしばらくはダンジョン内の環境を回復させるために、君やジグハルト殿がやっていた戦い方は控えるようになるんでしょう?」


「ああ……そういえば」


新しく探索に来る連中は、当たり前だが元の状態を知らないからな。

後々事故を起こさない為にも、元の状態からスタートさせたいそうだ。


「随分楽しんでいたそうだけれど、もう出来ないのだから、大人しく休みなさい。それと、今日は私の用に付き合ってもらうわよ」


何か色々言っていたけど、実はそれが本命か?



「……ねぇ」


ダンジョン探索を諦めて、セリアーナに付き合うことは別にいいんだが……。


「何? 動いたら駄目よ」


なんで俺はおめかしさせられた上に、絵なんて描かれているんだろう?


今着ている服は王都で来ていたのと似た様な青いワンピースだが、ちょっと緩めだったアレとは違って、こっちはピッタリだ。

セリアーナの部屋にあった事から、彼女が注文させたんだろう。

髪の毛も普段のポニーテールじゃなくて、しっかり編み込んだり、何か飾りを着けたりと凝っている。

さらに、各種恩恵品を外されて靴も履いている。


「動かないけど、何でこんな本気で絵を描いてるの?」


目の前には俺を描く画家が、そしてその後ろでも何やらスケッチをしているお弟子さんらしき者たちがいる。


「お前は、自分の肖像画を持っていないでしょう? 一枚位用意しておいた方がいいわ」


「なるほど……」


写真なんてない世界だからな……。

証明写真替わりなのかな?

手配も全部やってくれてるし、それなら一枚くらい描いてもらうのも有りか。

あの画家も工房はこの街にあるみたいだし、顔を繋いでおくのも悪くない。 


「奥様……これでいかがでしょう」


「そうね……悪く無いわ。……ああ、ここを……」


その画家はスケッチの出来をセリアーナに見せて、そして、セリアーナはそれを見て、ダメだしってわけじゃ無いだろうが、修正を指示している。

エレナも一緒にだ。

肖像画を描かれるなんて初めてだけれど、やっぱり美化とかされるのかな?

テレサがここにいたら彼女に聞くが、今日はダンジョンに行っているからな……大人しく待つしかないのか。


しばらくすると話が終わったのか、2人がこちらにやって来て、そして、何故かセリアーナは俺の隣に座った。


「あの……セリア様?」


画家の指示に従って、セリアーナは座る位置を変えたりしているが……一緒に描かれるのかな?

セット絵?

その割にはセリアーナの恰好はいつも通りだ。


「お前は気にしなくていいわ。それよりもジッとしていなさい」


「あ、うん……。……?」


俺以外は誰も疑問に思っていないようだし、気にしなくていい事なのかな?

わ……わからん……!


420


リアーナダンジョン上層部のホール間を繋ぐ通路。

似たような構造のダンジョンはあるが、大抵その通路には魔物は出て来ず、休憩に使われているらしい。

だが、リアーナダンジョンは、そこにもしっかり魔物が出ている。


通路自体も広いし、王都ダンジョンの浅瀬奥と似た雰囲気で、出てくる魔物は……。


「はあっ!」


オオイノシシの突進をアレクが盾で受け止めた。

だが、受け止められたオオイノシシの後ろから、さらに抜けてきたコボルトたちが、アレクの脇を抜けようとしている。


「ふっ!」


だが、エレナが振るう槍の様に伸ばした【緑の牙】が、その1体1体の額を貫いていった。


「ぉぉー……。よっと!」


久々に見るエレナの腕前に感心しつつ、俺もアレクが受け止めたオオイノシシの核を、頭上から貫いた。

周りを見るが、既に他の魔物はジグハルト達が仕留めている。


戦闘後、念のためしばらく周囲をうろついていたが、新たな魔物の姿は無かった。

とりあえず、この通路での戦闘はお終いだな。


「お疲れー」


皆の集まる場所に俺も降りていき、皆に声をかける。


今日のメンバーは、アレク、ジグハルト、フィオーラに、エレナだ。

テレサは今日は騎士団の方の仕事があるので、そちらに参加し、その代わりにエレナが入ってきた。

彼女がダンジョンに潜るのは、王都から帰還した後にゼルキス領都に滞在していた時以来だから、2年以上間が空いている。


急に新ダンジョンの探索にだなんて大丈夫なのかな? と思ったが、……いらん心配だった。

俺が王都に行っている間に、少し外で体を慣らしていたそうだが、【緑の牙】を器用に扱い、危なげなく魔物を倒していた。


セリアーナについている事が多く、専ら侍女としての仕事ばかりだったのに、全く衰えていない。

……幼少期からの訓練の賜物なんだろうか?


「セラもお疲れ様。周囲に魔物はいないかな?」


俺に気付いたエレナが答えた。


「うん。とりあえずこの通路にはもういないね」


それを聞き、改めて皆の空気が和らいだ気がした。


「強さ自体は大したことは無いが……、一息で蹴散らせないのは面倒だな……」


「そうですね。魔獣と妖魔種とが合わせて出て来るから、ここは少し気が抜けませんよ……」


「ああ。ここを抜けるのには、大人数か複数パーティーでの連携が前提になって行くかもな……」


休憩ついでにアレクとジグハルトが、先程までの戦闘を振り返りながら、意見を出し合い、側でフィオーラが紙に記している。


この通路はそこまで狭くはないとは言え、それでもホールとは違うからな……魔法で一気に蹴散らしたりは出来ない。

そのため地道に倒していく必要があるが、出てくる魔物が少々問題だ。

妖魔種と魔獣の混成パーティーで、どちらもそこまで強力な種類は出てこないが、数が多いし、戦闘中にそれぞれに適した戦い方に変えていかなければいけない。

俺達は、アレクという盾役がいるから各個撃破できているが、一気に押し切られて混戦になると厄介だ。


まぁ、その辺は俺達の情報を基に、今浅瀬で狩りをしている第2陣が試していく事になるんだろう。


「……こんなところか。そろそろ出発しよう」


一通り意見を出し終えたのだろう。

探索再開だ!



「ほっ!」


先制で【ダンレムの糸】から真ん中目がけて矢を発射して5‐6体を纏めて倒し、その両側の魔物達にすかさずジグハルトとフィオーラが魔法で追撃を叩きこむ。

さらに討ち漏らした魔物は、逃げる場合が多いが、向かって来るものも徐々に増えて来て、そういった魔物はアレク達が仕留めている。

これの繰り返しだ。

【ダンレムの糸】が使用可能になっていない場合は、俺も接近戦側に加わるが……とりあえず、この上層での狩りは安定してきた気がするな。


やっぱり周りへの配慮をする必要が無いのは大きいんだろうか?


遠慮なく破壊できているもんなー……。


さて、このホールでの戦闘は終わった。

差し当たっての方針として、上層に踏み入ってから俺達は北を目指している。

場合によっては一つのホールに複数の通路があったりもするが、とりあえず、端まで行ってみようって事だ。


だが……。


「ここからは少し気配が違うな……」


入口から7個目か8個目のホールをクリアして、その奥にある通路手前まで来たのだが、そこからは少々今までとは違う雰囲気を感じた。

俺ですら【妖精の瞳】やヘビ達の目を通さなくてもわかるくらいだ。

皆もその手前で足を止めている。


「……俺が偵察してこようか?」


俺なら宙に浮いているし、壁なり天井なりに接触しながらなら、何かあった時にすぐに【隠れ家】に逃げ込む事が出来る。


「……いや、ここは止めておいた方がいい」


だが、ジグハルトに止められた。


「そうだな。無理をする必要は無いし、今日はここまでにして、引き返すか?」


アレクや皆もその意見に同意のようだ。

休憩もそこそこに、出口を目指すことになった。


……あの先に何があるんだろうか?



ダンジョンから帰還後、俺とエレナはセリアーナの部屋に戻って、今日の探索の報告をしていた。


「ところで……お前の持っている聖貨は随分な数になったと思うのだけれど、使わないの?」


報告がひと段落したところで、俺を膝に乗せたセリアーナがガチャはしないのかと聞いて来た。


浅瀬独占によるフィーバータイムは終わってしまったが、それでも連日ガンガン狩っているし、確かに結構貯まってきた。

今まで結構たまったらすぐ使っていたから、不思議に思っているのだろう。


「ぬふふ……今40枚ちょっと。でも今回はもうちょっと貯めてから一気にやろうと思ってるんだ」


「……贅沢ね。まあ、お前の物だから好きにしなさい」


「うん!」


このペースだと、一般開放前には凄いことになりそうだな……。

楽しみだなー!


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