第11話 ルヴェリア王女の挑戦




「────ええ!?い、今なんと……?」


「あら、まだお若いのに耳が遠いのかしら?それとも聖王都の民ともあろう者が怠慢な仕事をしてらっしゃるのかしら……?」


「ヒィ!い、いえ!めっそうもございません!」


 長く美しい金髪をふわりとなびかせながら、クイーンガルトの王女ルヴェリアは冒険者ギルドの職員を睨み付ける。

 あり得ないまさかの来客は、屈強な冒険者たちの相手を毎日している手練れのギルド職員すら震え上がらせた。


「ならわたくしの言葉を一度で理解しなさい。まったく、これだから庶民は……」


 世界で最も広大な敷地を有する聖王都の冒険者ギルド【光の道標】。受付カウンターがズラリと並ぶメインロビーのひとつに、ため息をもらす彼女の姿があった。

 遠くからでもすぐにルヴェリア王女だと分かる程に目立つその美しい容姿は、ギルドを訪れていた数多くの冒険者たちの注目の的となる。


「もう一度だけ言いますわ。わたくしをに登録しなさい。これは最優先ですわ!」


 凛とした立ち姿で言い放つルヴェリアに、周りから歓声とどよめきがあがる。


「あぁ、やはりこちらの聞き間違えではごさいませんでした。では、少々失礼いたします……」


 職員がにこやかな表情で受け答える。冷静さを取り戻したのだろうか。


「本気でございますかあぁぁぁ!?」


 やはり駄目だった。職員は一呼吸あけ、広いロビーに響き渡る程大きな声で叫んだ。


「……ん?なんか叫び声が聞こえたな?」


「おいシエル。なにボーッとしてんだ。早く来いよ。」


「あ、うん。今行くよ。」


 ちょうどギルドの建物の前を歩いていたシエルは立ち止まるが、リッツに促され再び歩きだした。


 ガルトリーの大通りより倍近く広い聖王都のメインストリートを歩く【カーバンクル】とユグリシア。

 そこには数え切れない程の露店や商店、果ては高級ブランド店なども軒を連ねている。


「……お、あったぜ。ここだ。」


 その中にある洒落た店の前で、先頭を歩いていたリッツが立ち止まった。


「冒険者御用達の長旅用品店……?へぇ、こんな専門店があるんだなー。さすが聖王都だ。」


 これから彼らが向かおうとしている魔法ギルド本局は、聖王都より二か国離れたフェンリルロード領内の魔法大国デュロシスという国にある。

 聖王都やガルトリー公国があるセイントロード領から徒歩で約三日程かかる道のりのため、彼らは長旅に必要なキャンプ用品などを買いに訪れていたのだ。


「……えーと、二人用の防寒テントを二つと、鍋とフライパン、あと食器とコップ……」


「……お!見てよリッツ。なんかスゴいのあったぞ。」


「魔物を寄せ付けないランタン……?ホントかよそれ。」


「これがあれば夜に交代で見張りしなくて済むじゃん?」


「んーまぁ、試しに買っとくか。」


 買い物を続けているシエルとリッツだったが、そこにリケアとユグリシアの姿はなかった。


「……リケアのやつ、まだ外でいんのか?」


「うん。こういう楽しそうな所は誘惑がいっぱいだから、見ないようにするんだってさ。」


 普段なら買い物と聞くと目を輝かせるリケアが、「私はここで待ってるね」と一言だけ言い残し、曇った表情で店の前で佇んでいた。その横ではユグリシアが少し心配そうに彼女を見つめている。


「それらしい事言ってっけど、明らかに気乗りしてねぇよな。まだ腹くくってねぇのかよ。」


「まぁ三日あるからその間に落ち着くんじゃない?」


「そうか?家が近くなってまたゴネなきゃいいけどな。」


 からかう口調で喋っていた二人だったが、初めて見せるリケアの落ち込み具合が気になるようで買い物をする手が止まる。


「……とりあえず家の話はあんまり触れないでおこうか。」


「しゃあねぇな。そうしてやるか。」


 誰にでも入られたくはない部分はあるものだ。シエルとリッツはしばらく様子を見つつ、そっとしておこうという結論に達した。




「……ねえ、リケアの家族って、どういう人たちなの?」


「うえぇ!?な、なに!?」


 横から突然の質問に驚き、リケアは体をビクッとさせた。どうやら彼女は先程からユグリシアが横にいた事に気づいていなかったようだ。


「ユグリシア……。え、急にどうしたの?」


「おうちに帰るのに、リケアは暗い顔をしてる。」


「あ……。」


「家族に会えるのがいやなの?」


「い、いやいや!そういうワケじゃないよ。」


 リケアは両手を振り慌てて否定する。


「……みんなの反対を押しきって無理やり家を出たから、顔を合わせづらいっていうか……あはは。」


 ユグリシアは入られたくない部分へ躊躇なく踏み込んできた。相変わらずの無表情だが、興味深いような感じでリケアを見つめる。


「……まぁ基本的にはみんな優しいし私を凄く心配してくれてるんだけど……ね。」


 照れくさそうに話すリケアを見て、ユグリシアは不思議そうに首をかしげる。


「……あれ?ほら、なんかさ他の人にはしないけど家族には変に意地張ったりとか……。そういうのない?」


「うーん。わたしは家族がいないから、わかんない。」


「あ、そ、そっか……。えっ!?」


 あまりに自然な会話の流れだったためリケアは時間差で驚く。


「家族がいない!?お父さんやお母さんも?」


「うーん。いたかもしれないけど、覚えてない。」


「えー……?じゃあ今まで一人で暮らしてたの?」


「ううん。昔は友だちと一緒に暮らしてた。」


「へ、へえ……。そうなんだ。」(……てことは孤児院か何かの出身なのかな……?)


 ますます謎が深まる不思議な少女に、リケアは頭に手をあて色々と考え込む。

 するとユグリシアがリケアの頭を唐突に撫でてきた。


「……でも、リケアが悲しそうじゃなくて、よかった。」


「あー、うん。そっか。心配させちゃったみたいで、ゴメンね。」


 表情からは読み取りにくいが、ユグリシアの気持ちを汲んだリケアは、お返しに頭を優しく撫でてあげる。


「……あ、いたいた。おーい。」


「待たせちまったな……って、なんだよ。思ったより元気そうな顔してんじゃねぇか?」


 そこへ買い物を終えたシエルとリッツが店から出てきた。それを見たリケアは慌てて自分の手を引っ込める。


「……う、うん。まあ、ね。」


「おかえり。」


「ん?二人で何か話してたの?」


「な、なんでもないよ。ね、ユグリシア?」


「うん。ひみつ。」


 あははと笑い誤魔化すリケアは、まだ頭を撫でているユグリシアの手を止めさせる。


「……あ、ねえ。私もちょっと買い物してきていい?」


「それは別にいいけど……。どうしたの急に?」


「ちょっと家にお土産をね……。」


「へぇ、どういう風の吹き回しだ?それに金は大丈夫なのかよ?」


「結構ギリギリかも。私たちチームでしょ?ご飯くらい奢ってよね?」


 そう言いながら弾ける笑顔を見せる【カーバンクル】を眺めていたユグリシアだったが、突然リケアに手を引かれる。


「ほら、ユグリシアも行こう?」


「……うん。」


 その後、リケアは雑貨屋で怪しげなお面やら木刀やらのお土産を購入したが、その独特なチョイスにシエルとリッツは若干引き気味だった。

 そして一行は、聖王都を発ち魔法ギルドがあるフェンリルロード領へと向かった。




────────────────




「────はぁ、退屈ですわね。」


「は、左様でございますね、ルヴェリア様。」


 その日の晴れた午後のこと。

 セイントロード領の隣に位置するフレアロード領との国境で、入国審査を終えた王女ルヴェリアと王宮の兵士五人が馬に乗り、草木豊かな広い平野の中に一本だけ続く街道をゆるりと移動していた。


「わたくしの初クエストだというのに……こう何も起こらないのではつまりませんわ。」


「は、クエストとはそういうものでございますから……。」


「あら、そうなんですの?こんな子供じみたものに命をかける者もいると聞きましたが……理解に苦しみますわね。」


「左様でございますね、ルヴェリア様。」


 不満をもらすワガママ王女の機嫌を損ねまいと、兵士たちは無難な回答を続ける。


「……あら?どなたかいらっしゃいますわね?」


 先頭を行くルヴェリアは少し先を歩いている四人組を見つけた。


「風貌から察するに、冒険者のようでございますね。」


「まあ、冒険者の方なんですの?ウフフ、ちょうどいいですわ。少しご挨拶をして参りましょう。」


「え、ル、ルヴェリア様……!?」


 困惑する兵士たちをよそに、ルヴェリアは馬の脚を早め、前を行く四人組へと近づいていった。


「ごきげんよう、冒険者の方々。本日はどちらへ向かわれていらっしゃいますの?」


「……あ?」


「……え?」


「……へ?」


「……ごきげんよう。」


 後ろから声をかけられ、振り返った四人組は全員異国の模様が施された奇妙なお面を着けていた。


「……ひっ!な、なんですの!?」


 異様な姿に驚きルヴェリアは馬ごと後ずさる。


「……え、あれ?ええっ!?ル、ルヴェリア……王女!?」


 その人物に気づいて驚嘆な声を出したのはリケアだった。

 四人組の冒険者──【カーバンクル】とユグリシアは、先程彼女がお土産で買った怪しげなお面をみんな面白がって着けていたのだ。


「え?ルヴェリア?」


「え?シエル王子……?」


 お面を外したシエルを見たルヴェリアも驚きの表情を見せる。


「……あ、あら。まあ誰かと思えばシエル王子じゃありませんか。このような所でお会いできるとは……。これも聖女のお導きと言えましょう。ウフフ、貴方を探しておりましたのよ?」


「ん?俺?」


 警戒心を露にしていたルヴェリアだったが、見知った顔だと分かったとたんにいきなり態度を一変させた。


「あ、ひとつ言っておきますが儀礼は結構ですわよ?今はわたくしも冒険者の身。そのままでの発言を許可しますわ。」


「……は?は、はぁ……。え?」


 相手がルヴェリアだと分かれば聖王国式の挨拶をするのが普通だ。

 しかしまさかこのような他国の平野で出会うとは思っても見なかった【カーバンクル】は、いきなりの展開にポカンと立ち尽くす。

 そんな彼らの事など気にも止めずルヴェリアは勝手に話を進める。


「……それで、わたくしはお忍びで冒険者ギルドに伺ったのですが何故だかすぐにバレてしまいましたの。どうしてなのでしょうか?あ、あとそれから……」


(……うわぁ……。なんかめんどくさいのに絡まれたぁ……)


 途切れることのないルヴェリアの話に、【カーバンクル】は全く同じ事を思いで空を見上げる。


「……あら、どうなさいましたの?反応が薄いですわね?」


「い、いや……まぁ。状況が飲み込めないっていうか……。なんでまた冒険者なんか始めたんだ?」


 ようやくこちらが話せるようになったところでシエルが質問をするが、その言葉にルヴェリアの顔から笑みが消えた。


「……あら。お心当たりがありませんの?」


「へ?」


「へ?じゃありませんわ!わたくしとの会談をすっぽかしておきながらよくもそんな能天気な顔をしていられますわね!?」


 もの凄い剣幕でルヴェリアがシエルに迫る。

 彼女が先日ガルトリー公国を訪れた時、実はシエル本人と話をしたかったのだという。それはガルトリー側には伝えられておらず、さすがのセティールも慌てふためいたらしい。

 セルイレフの助けもあってその場はなんとか収められたが、ルヴェリアはかなりご立腹だったようだ。


「いやだから、あの後ちゃんと謝ったじゃないかー。」


「どこの世界に魔法通信で謝罪を済ませる王族がいらっしゃいますの!?」


 激怒するルヴェリアの前に、普段物怖じしないシエルもさすがにタジタジになる。


「うわぁ……」


 理不尽な絡まれ方に、それを見ていたリッツとリケアは思わず同情と哀れみの混ざった声が出た。


「なんですの?何か文句がおありかしら?」


 すかさずルヴェリアが二人をキッと睨む。それに動じないリッツの後ろにリケアはサッと隠れる。


「……まぁいいですわ。このわたくしとの会談をすっぽかせるの程の冒険者とはさぞや素晴らしいものなのだと思い、わたくしも冒険者に登録しましたの。それなのに特に何も起こりませんわよ?冒険者とは何が楽しいんですの?」


「そりゃ始めてたった数時間じゃわかんねぇって。」


 おそらく今の彼女にはどのような説明をしたところで理解はできないだろう。


「……なぁ、もういいか?俺たちは用事があんだよ。このままじゃ日が暮れちまうぜ。」


「クエストに行かれますの?」


「違ぇよ。魔法ギルドに用があってな。ていうかお前らもどっか行く途中だろ?早く行けよな。」


 このままでは埒が明かないのでリッツが早く離れようとしたのだが、


「魔法ギルド?まあ奇遇ですわね。わたくしもこれから初クエストのためにフェンリルロード領へ向かうことろなんですのよ。」


 まさかの同じ目的地という恐ろしい偶然にルヴェリアが食いついてきた。


「はぁ?初クエストでいきなり国外遠征だと?何のクエスト受けたんだよ?」


「聞いて驚きなさい!魔物退治のクエストですわ!」


 ルヴェリアと彼女が乗っている愛馬は一緒にフフンと勝ち誇った顔をする。


「待て待て!魔物退治っつったらCランクからのクエストだぞ?今日冒険者始めたお前がやれんのか!?」


「き、貴様!ルヴェリア様に対して無礼だぞ!」


「おやめなさい。別に構いませんわ。」


 王女に対して思わずリッツは口調を荒げる。

 先程からの横柄な態度に機嫌を損なわれると思った兵士たちは慌てて止めに入るが、ルヴェリアは思いのほか冷静な反応だった。


「わたくしは世界を統べるクイーンガルトの王女なのですから、武芸にも長けていますの。ご心配には及びませんわ。」


 実力の程は定かではないが、自信に満ち溢れた表情でルヴェリア静かに返す。


「へえ、そうかい……」


「へーすごーいそうなんだ!さすがルヴェリアだ!じゃあ俺たち先に行くよ!またねー!」


 これ以上はケンカになりかねないと思ったシエルは、これ以上面倒な事になる前にリッツの手を引っ張りリケアとユグリシアを連れてそそくさと逃げるようにその場を立ち去った。


「……なんだよシエル。」


「なんだよじゃないよ。早く行こうってリッツが言い出したのになんでケンカしようとしてんだ。」


「ああいう上からもの言うヤツは気に入らねぇんだよ。まーったく!なんだったんだアイツ!?」


 ルヴェリアたちとだいぶ距離をあけたシエルたちはなおも早歩きで街道を進む。

 しかしよく考えればルヴェリアたちは全員馬に乗っているのですぐに追い付かれてしまう。先に行かせれば良かったなと思いつつもシエルたちは歩を進める。


「はぁーなんか疲れた。いやーそれにしてもビックリだったよねー。」


「なに他人事みてぇに言ってんだよ。お前あの王女とちゃんと話つけとけよ?そのうち面倒事に巻き込まれんぜ?」


「リッツ。どの口が言ってるんだ?」


「あ……ねえ、もう巻き込まれてるかも……。」


 と、後ろを歩いていたリケアが不吉な事を呟いた。

 シエルとリッツが勢いよく振り返ると、案の定ルヴェリアたちがすぐ後ろまで来ていた。

 しかし何故か追い抜きもせず、シエルたちの歩く速度に合わせて馬をゆっくり歩かせている。


「……おい。まだ何か用か?」


「別に?お気になさらなくてよろしくてよ?」


 嫌そうな顔で質問するリッツに対してはルヴェリアは軽く微笑むだけだった。


「にゃろ~。なんか企んでやがんのか……?」


 突然不穏な動きを見せるルヴェリアを警戒するシエルたちだったが、その後も話しかけられることもなく彼らの後を静かについてくるだけ。

 なんとも気まずい雰囲気の中、一行は夕暮れを迎える。


「……日が落ちてきたな。今日はこの辺にしとくか。」


 しばらく歩いたところでリッツが足を止める。

 その言葉にシエルとリケアが頷き、街道を横に逸れて平野に入っていった。

 そして風があたりにくい大きめな木の近くまで来ると荷物を降ろし、シエルとリケアはテントを張る準備をはじめ、リッツは近くを流れる小川へ向かった。


「……それは何をしてますの?」


「見りゃ分かんだろうが。薪拾ってんだよ。」


 ルヴェリアはひとり馬を降り、リッツの後についてきた。その表情は真剣そのものだ。


「……それは何をしてますの?」


「見りゃ分かんだろうが。水汲んでんだよ。」


 今度は小川から水を汲むリッツの姿を真剣に見つめる。


「……それは何を……」


「んだようるせぇな。どんだけ物珍しいんだよ。」


 野草を摘んでいたリッツは嫌悪感をルヴェリアに向けるが、彼女は全く意に介していない。


「まあ。粗暴な方ですわね。質問しているだけじゃありませんか。何のためにそのような事をなさっているんですの?」


「何って、野宿するためだよ。」


「のじゅく……?のじゅくとは一体?」


「知らねぇのかよ!?今日はここで泊まるんだよ。」


「泊ま……はあ!?何を言ってますの!?こんな所で一晩過ごすと!?お宿は!?街へは行かないおつもり!?」


 初めて見る光景をワクワクしながら見ていたルヴェリアだったが、リッツの説明に思わず声を荒げた。


「歩きだと街まで遠いんだよ。それに宿代だって四人で三日分ってなると高ぇしな。お前らは馬か馬車にしか乗らねぇから分かんねぇだろうがな?」


「そうですわ。そもそもなぜ馬を使わないんですの?フェンリルロードまでなら馬を走らせれば一日で到着できるというのに……」


「そりゃ自分で馬持ってりゃそうするよ。だが持ってなきゃレンタルするしかねぇが、馬のレンタル料って高いんだぜ?二頭借りてしかも往復ってなりゃ低ランクのクエスト報酬分にもなっちまう。」


 【カーバンクル】のお財布担当のリッツは旅の節約がいかに大切かを力説するが、生粋の王族であるルヴェリアには到底理解できるものではなかった。


「し、信じられませんわ。お風呂にも入れないなんて……。はっ、それではお食事はどうなさるおつもり?」


「自分らで作るに決まってんだろ。」


 リッツは単独で冒険者をやっていた時期があり、それ故に長旅の知識や経験が豊富だ。道中の料理も当然彼が受け持っている。


「なっ……!まったく理解に苦しみますわ。貴方たちの普段の様子を見て冒険者とは何たるかを見いだそうとしていたのに……このような悲惨な実態だったなんて……。」


 先程からルヴェリアが黙ってシエルたちを見ていたのはそういう意図があったようだ。

 しかし彼女にとっては思い描いていたものと差がありすぎたらしく、ショックのあまり大きくよろめいた。


「悲惨っていうな。冒険者ってのはこれが普通なんだよ。」


「そ、そうなんですの……?」


「あぁ。でもお前みてぇなのビギナー冒険者じゃ到底マネできねぇだろうけどな?」


 リッツの挑発的な発言にルヴェリアはすぐさまピクッと反応した。


「……なんですって?聞き捨てなりませんわね。わたくしに出来ない事があると思いますの?」


「なら勝負すっか?」


 いとも簡単に挑発に乗るルヴェリアは自信満々な顔でリッツを睨む。


「分かりましたわ!受けて差し上げましょう!」


 夕陽が沈み、静寂な夜が訪れる。

 戻ってこないリッツを探しにきたシエルとリケアは離れた場所からその様子を見ていたが、


(やっぱり面倒な事になった……)


と、顔を見合わせて深くため息をついた……。



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