第11話

「力加減を間違えると、死にます」

 なによ。ちゃんと力加減したわよ?

「お父様にいつもぶつけているような岩を乗せると、即死です。魔力が高い人間も5分で息絶えます」

 え?

 まじ?

「やばいぞ、このままじゃ。生け捕りにできない」

 冷や汗がたらりと垂れてきた。

 生け捕りにできないって、盗賊たちが逃げちゃうっていう、そういう、話では……な……。

 指をぱちんと鳴らす。

 岩よ、消えなさい。

「あ、消えた」

「全員意識を失っている。縄で拘束の後、命に係わる者には回復魔法を」

 ……。

 あー、外から聞こえる声。大丈夫、私は惨殺者じゃないもの……。

 ……手紙の続き。

「力加減が分からないでしょうから、人間相手に攻撃魔法を使うのを禁止します」

 あー。うん。

「あなたなら大丈夫。魔法が無くても十分強いでしょうから」

 そうかな。

「人間相手に物理攻撃するときには、頭と胴体は攻撃してはいけませんよ」

 え?

「手や足は吹っ飛んでももげても千切れても死にませんが、頭と内臓はダメです」

 ……。

 知ってるよ。

 あとね、お母様、のどもダメよ。喉潰されると死んじゃうのよ、人間。

「あなたの力では素手で殴るだけで普通の人間は頭も内臓もアウトです」

 へ?

 お父様なんて、私が素手で殴っても、歯の一つもおれないのに?

 普通の人間って何?

 ねぇ、お母様、普通の人間って、何?

 首をかしげる。

 普通の人間って、何?弱すぎるよ?

 っていうか、お父様お母様レベルでやっと普通じゃないっていうなら、世の中弱い人ばかりじゃない?おかしくない?

 さすがに、おかしくない?

 ちらりと横を見ると、青ざめた侍女さんが。

 なんで青ざめてるの?あまりの普通の人間の弱さに驚いた?

 いや、違うかな。もしかして、馬車に酔った?

 よし、軽く回復魔法をかけときましょう。こっそりね。

 ん?あれ?まだ顔が青いぞ?

 馬車良いじゃない?あれ?もしかして……。

 あー、そうか!

 盗賊に襲われた恐怖で!

 わ、私ってば、うっかりさん。

 こんな時は、そう、会話しましょう。気をそらしてあげましょう。

「普通の人って、どんな人のことだと思います?」

 手紙はいつもの癖で声を出して読み上げていたので、話を聞いていただろう侍女さんに尋ねてみた。

 だって、お母様の手紙には普通の人について詳細は書いてないんだものっ。

「え、えっと、私は普通です」

 びくぅっと、侍女さんが身を固くした。

 うん、普通だよね。きっと。

 私の前に座る3人の侍女さんたちが立て続けに口を開いた。

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