第44話

 ヒロは今まで、自分が助けていた一つの家族の重みがこんなにも重いとは思わなかった。しっかりとした眼差しで玉江家の人々を見つめていた。

 鎧武者と象のキャラバンの人たちの怪我人たちは、雨の宮殿で治療を受けるそうだ。

「オレンジ色以外のおじさん……。本当にありがとう」

 シンシアは隆の元へと駆けて来た。可愛いらしい真っ黒い顔を涙で濡らしている。

その後ろに服部とジョシュアが歩いてきた。

「玉江さん……。本当に、ありがとうございました。また、生活が出来るようになりました……。あなたのお蔭です……。町の長としてお礼を申し上げます」

 服部は深々と頭を下げた。


 智子と里見は服部たちにニッコリと微笑んだ。

「ええ……。俺もとうとう娘に会えましたよ」

 隆は乾いた顔を引き締めている。

「玉江さんの奥さん。私の店で勤めませんか?あなたならば、いつでも大歓迎ですよ。虹とオレンジと日差しの町は、これからみんなで精一杯復興をしますから」

 赤くなった目で、ジョシュアが智子の手を両手で優しく包んだ。

 服部も目元を時折隠す素振りをしていた。

「ええ……。そうね。考えさせてください」

隆太、そして恵梨香が雨の止んだ空を見ながら、歩いてきた。

「隆……。下界で立派に生きるんだぞ。今のお前なら楽に出来るから……」

 固い表情の隆太は隆と里見に言って、その固い表情を更に固くした。

 恵梨香は一瞬、泣きそうな顔をしたが、気楽に智子に話しかける。

「天界では……どうするの?」

「ええ……。自転車って、この世界にありますか?お義母さん?」

「ええ、あるわ」

「じゃあ、取り合えずは天の園を自転車で一周してみようかと……。お義母さん。自転車があったら貸してください」

 恵梨香はにっこりして、智子に抱きついた。

「初めは辛いと思うけど……きっと、すぐに慣れるわ……。ここの生活も楽しいってことを……。張り合いがあるってことを……。すぐに知ることが出来るわ……。そうだわ、お父さん。家にある昔あなたがサイクリングをしてた時に、壊した自転車を修理して智子ちゃんに貸してあげましょうよ。家はボロボロになってしまったけれど、きっと、ガレージに今でもあるはずよ」


 智子と恵梨香は仲が良かった。かわりに、智子は隆太の固い性格があまり好きではなかったが、今となっては尊敬できる義理の父である。

 隆太は頷き、

「ああ……解った。家ごと修理しなきゃならないな……」

 虹の現れた空には脇村三兄弟が飛んでいた。




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