第17話
「あ、そうだ。お嬢さん。下界に降る雨とここに降る雨が関係しているってことは、知っているかな?俺はどうしても雨の日に死んでしまった娘に会いたくて旅にでているんだ」
女子高生は首を傾げてから、
「おじさん。私、中友 めぐみって名前あるよ。それと、雨のことなんて知らないから」
隆は驚いた。
「え!? 今なんて言ったの?」
「雨のことなんて知らないって?」
「いや、君の名前さ」
「私……中友 めぐみ」
中友 めぐみには確かに隆の知っている里美の友達の面影が見え隠れしていた。
隆は血相変えて、めぐみから携帯を借り24時間のお姉さんに電話した。
「あの、里美の友達がここで大きくなっているんですけど!?」
しきりに首を傾げるめぐみをそのままにして、電話を続ける。
「ええ、きっと時の流れの問題よ。天の園にはその時の流れの違いがあるの。つまり、下界では西暦2015年でも、天の園ではそれとは違う時間が流れているのよ」
隆は24時間のお姉さんの言葉が理解できなかったようだ。呆気にとられた顔から納得した顔までいっていない。
「玉江さん。つまりは、ここ天の園では下界と違う時間があるってこと。下界にカップラーメンがあるとするでしょ。そのカップラーメンは天の園にもあって、それは同一のもの。そして、下界ではお湯を入れたてなのに、天の園には……。3分後の未来になっていて美味しく食べられるというわけよ」
助手席のめぐみは訳が分からず喚きそうになった。
「カップラーメンと私がどうしたのよ!? おい、おっさん! 三分後って、私と何が関係あるのよ!?」
隆は混乱しながら、めぐみを宥めながら、
「あの……つまり、めぐみちゃんは下界で高校生の時に死んでしまったと?」
24時間のお姉さんは静かに、
「ええ。恐らくそうなるわね。でも、絶対ではないの。その中友 めぐみちゃんは確かに高校生の二年の時に自動車の居眠り運転の犠牲になっているけれど。あなたは、知ってしまったから、それを阻止することもできるわ。何せその中友 めぐみちゃん……天の園にいるほうだけど、もう20年くらいはここにいるのよ」
「20年もですか?」
「そうよ。私、20年もここにいるの。でもでも、ここで車に乗ったのはこれが初めてなの……。カップラーメンのことは置いておいて。さ、早く行きましょ。おじさん」
めぐみが気楽な口調で言ったが。若くして命を失い。この天の園で暇を潰している人生に嘆きが少し感じられた。
「ここは、不思議なところだな……」
隆は電話を切って、軽トラックを発進した。
下には荒地が見えている。
複数のかもめが軽トラックに近づいて来ては、下界の珍しい(といっても、ウインナーと三種のチーズのピザだが)食料をついばむ。
空は雨が降ってきていた。
中友 めぐみを連れてから二日経ったようだ。
隆は天界の雨に片手を出して、掌に水滴を受ける。
「こっちにも、雨が降ってて下界と同じく冷たいんだなあ……」
隆は掌の水滴を見つめて呟いた。
「ねえねえ! あそこに虹があるよ!」
見ると、全方に雨の水滴を彩る巨大な虹が出現した。
その虹の大きさは、ここがどこか別の惑星を思わせるほどの巨大さで、かもめたちも虹に向かっていった。
「おじさん。私、ここで降りるね。下のあの虹のところまで歩いていきたい。楽しかったよ。そして、美味しかった。サンキューね」
中友 めぐみは軽トラックのドアを開けて、遥か下方へと垂直に降りて行った。
隆は虹の大きさに面食らっていたが、中友 めぐみにさよならをやっとのことで言った。手を振り前方の虹へと恐る恐る進む。
軽トラックを虹の中に進めると、かもめも追いかけてきた。七色の一つの赤い色の空間は眩い光を発し、隆の体も軽トラックもかもめも赤い色にした。しばらく進んでいると、雨が勢いを増したように感じた。
いきなり、稲光が虹の中で光った。
隆は急いで車を下の地上へと発進させた。
その時、数本の落雷が発した。
地上へと落ちた落雷は荒地目掛けて吸い込まれる。
いくつかの大きな衝撃音とともに落雷の衝撃で荒地に地割れが出来た。
中友 めぐみは無事だろうか?
隆は赤い空間で、血相変えて軽トラックで地上へと降りて、窓から中友 めぐみを探した。この天の園で死ぬと……どうなるのだろう?
荒地で慌てて車から降りようとしたら、車の助手席に中友 めぐみの携帯があった。どうやら、忘れ物らしい。
「もしもし、24時間のお姉さん!?」
「はいはいはい」
能天気な声で電話の主が受話器に出た。
「この世界でこの世界の住人が死ぬとどうなるんですか?」
隆は冷や汗を流して次の言葉に身構えた。
「大丈夫ですよ」
「へ……」
「あなただとまずいですけど……。ここでは死なないんです」
隆は言葉を失ったがそれを聞いて安心した。
「よかった……。でも、俺だとどうなるんで?」
24時間のお姉さんは少し間を置いて。
「死んでしまいますよ。この天の園で暮らさないといけなくなります。だから、気を付けてください。それと、今降っている雨と落雷は生命の神のせいです。生命の神はやっぱり、不穏だと私は思います。何か考えがあってあなたを襲っているのでしょう」
隆は電話を切ると、中友 めぐみを探した。
中友 めぐみは少し先で平然として歩いていた。
「よかった……」
隆は中友 めぐみの無事を確認すると、軽トラックに乗り目的地へと向かった。
落雷と雨はぱったりと止んでいた。
今のは何かの警告だったのだろうか……?
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