降る雨は空の向こうに
主道 学
第1話 はじまり
その日は雨が降っていた。
午前の授業の時はパラパラと降りしきっていたのだが、下校途中になると丁度、川辺の近くを通り過ぎる頃には大振りの容赦のない大雨になった。
小さな子が二人歩いている。
「ねえねえ。ちゃんと傘に入ってよ。里美ちゃん。濡れちゃうよ」
里美は今年で小学2年生だ。
黄色い帽子に赤いランドセル。
大きな瞳のロングヘア。
いつも俯くところがある引っ込み思案な性格だった。
幼馴染の中島 由美といつも一緒に帰っていた。登校の時にはもう一人の友達。中友 めぐみがいた。
だが、下校の時には中友 めぐみは別の友達と一緒に帰る。
川は大量の雨の滴によって、流れの早い轟々と音のする暴れ川となっていた。
里美は雨が嫌いだった。
今日のように傘を忘れてしまうことはいつものことで……。お父さんとお母さんは仕事で忙しく。中々、傘を持って行けと言えないのだろう。
里美の両親は毎日、朝早く仕事へと車に乗って出かけて行き夜遅くに帰ってきていた。
「ねえねえ。里美ちゃん。風邪ひいちゃうよ」
「うん。でも、いいの。風邪ひいたらお父さんとお母さんが、里美のことを心配してくれるから……」
里美の体は半ばずぶ濡れだった。
由美の傘に体の半分は入っている格好だ。
ランドセルは防水加工が施され、中の教科書や筆記用具は濡れることはない。由美の家に着いたら、真っ先にお風呂に入るが、里見は正直風邪をひいてしまいたかった。
お父さんとお母さんの心配な表情を見るのが、今では嬉しいことでもある。里美が小学校へと入ってからだ。お父さんとお母さんが仕事の都合といって、近所の中島 由美のお父さんとお母さんが、毎日面倒を見てくれるようになって、いつもご飯は由美の家で食べるようになった。
そして、夜に自宅まで送ってもらい一人ぼっちで寝ることもあった。そんな日が続いていた。
お父さんとお母さんは仕事で忙しい。
なんでも、お父さんは失業をしたのだそうだ。今ではお金がなくなって派遣社員をやっている。
お母さんはパート。
毎日、朝から夜遅くまで。
里美は独りぼっち。
「今日の晩御飯。何がいい?」
由美は里美に向かって微笑んだ。
傘にも入りたがらない里美は、にっこりして、
「カレーは昨日食べたから、今度は目玉焼きとご飯がいい」
「じゃあ、お母さんに言っておくね」
里美と由美は川の中央の橋へと差し掛かる。その橋の名は岡尾橋。渡るとちょっとした住宅街に繋がる。
65年前に竣工した。ボロボロの古い橋はやや長く。落下防止用の手摺の隙間はやや幅が広い。二人はいつもこの橋を渡るときだけは、手をしっかりと繋いだ。
近所の大人たちはこの橋を、危ぶんで誰かが暴れ橋といっていた。だいぶ前に急いでいた人の乗った小型の自転車が、自転車ごと手摺りの隙間から川に転落をしているからだ。自転車に乗った男の人は川の水をいっぱい飲んで、入院をしてしまった。
その日も雨の日だった。
里美と由美は手をしっかりと繋いで、橋の端を渡る。強風がでてきた。後方から赤い自動車が通り過ぎる。
車の車輪は水溜まりを走行し、ひどい水飛沫が二人を襲った。
「あ……!」
その拍子に由美は、里見の手を放した。里美は激しい水飛沫と強風の中、その手を再度握ろうとするが、バランスを失っていた。
その小さい体は橋の両脇の手摺の片方。そこへと傾いた。
幅が12メートルもある川。
落下防止のための手摺の隙間には、小さい体が入り込み。そのまま濁流の川へと落ちていった……。
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