第45話 トリトの正体

 フレンダ一行は、一人の騎士に率いられた鎧を着た正規兵10名に守られながら一路王都へ向け出発した。


 この町からだと約三日の行程だと言う。コウが買った馬車は記録としてはナタリー王女が譲り受けた馬車となっている。正確にはコウがお金を出して領主から購入したのだが、領主から見ればコウ達はナタリー王女の側近か護衛にしか見えないから、コウがお金を出したのは、いちいち王女自ら財布を出し、お金を出さない。財布は供の者に持たせているのは当たり前の事だと思われていたのだ。予め面倒になるからフレンダの供の者としておくことにしていたのだ。


 新たな馬車は商人の移動用の馬車だ。対面シートになっており、小柄な女性ならば前後各々3人ずつが座れ、6人乗りの馬車である。男性だと4人が限界だ。勿論御者は別だ。こじんまりとしており、馬車の後方には小さいながら荷物を置くスペースがある。近隣の町への行き来程度なら問題ない。


 また、御者席との間には小窓が設けられているが、ドアが無いため、直接の乗り入れは馬車の横にあるドアを開けなければ出入りができない。


 御者の者には実質タダで御者をしてもらっているのだ。

 中古の荷馬車とはいえ、3食宿付で馬車が貰えるので破格なのだ。今まで乗っていた馬車を報酬代わりにしていたのだ。


 妙にテンションが高く、もうじきおっさんと呼ばれる歳の者だ。多少は剣も使え、自分の身くらい守れるそうだ。万が一の時はコウ達に警告だけして逃げる事を許している。命を粗末にしないでとトリトが伝えてくれていた。


 道中はコウの収納のおかげで至れり尽くせりである。冷たい飲み物や、ちょっとした茶菓子を収納から出して皆でボリボリと食べながら緊張感のない旅のスタートになった。


 護衛がいる為、万が一何かあってもまず護衛が戦い始めるので、その間に準備等はなんとでもなるので、少し気が抜けていたのである。


 コウはトリトが買った防具を見て絶句した。なんとビキニアーマーなのである。最も服の上から装着し、胸を守る胸当ての類なのだが、いくらなんでもやりすぎだろうと思ったのだ。


「トリト、これはちょっとやり過ぎじゃないのか?」


「そうだろうか?サイズはちゃんと見てきたからおかしくはないと思うのだ。ほらちょっと当ててみてくれないか」


 今のトリトは女性の格好であり、どうやったのかたわわな胸があり、胸当てはその胸にぴったりと収まっていた。


「ぴったりだな。どうしたんだい?ひょっとして女装にハマったのか?」


 フレンダは笑いを堪えていた。


「何がおかしいんだよ?」


「ふふふいいじゃない。似合ってるんだから」


 ただ、トリトは難しそうな顔をしていた。クルルに至っては目を背け外を見ていた。二人を見ていないがクルルをよく見ると顔が笑っており、直接見てしまうと笑い転げてしまうからだ。


 そう、声には出さずに笑っているのだ。


 さらにコウが馬鹿な質問をした。


「トリトの胸パットは俺のと違って妙にリアルだな。どんなふうにしてるんだ?ちょっと触らせてくれ」


 そういい、トリトの胸をコウが触り始めた。するとフレンダが目をギラギラさせていたが、トリトは完全に固まっていた。


「凄いなこれ。なんかトリトにおっぱいが生えたとしか思えないな。それほどリアルな感触だな。これはどんな魔法なんだ?それともそういうマジックアイテムを買ってきたのか?」


 こうが真面目に言っているのだが、ついにフレンダは笑い転げた。そしてトリトはため息をつきカミングアウトした。


「なーコウ、本気で言ってるのか?」


 コウは首を傾げていた。


 そしてコウが次に取った行動に3人がぎょっとしたのだ。いきなりトリトの服を捲った。


「よし、何を着けているのか見せろよ!」


 そう言って一気に服を捲し上げたのだ。そこには本物としか思えない見事な胸があった。本物なのだが、コウはついつい揉んでしまった。


「な、な、なんとトリト、お前の胸におっぱいが生えている!すげーなこの世界の魔法は!いったいどんな魔法なんだ?」


 トリトがワナワナ震えながらか細い声で、妙に色っぽく伝えた。


「その、コウ、これは本物なんだ。だからその、そろそろ胸を揉むのをやめてもらえないだろうか?」


 コウはきょとんとなりながらも手を引っ込めた


 コウは首をかしげて必死に状況を整理しようとしていた。コウを見るとまるで湯気が出ているかのように固まっていた。


「その、コウ、今まで黙っていたが実は私は本物の女なのだ」


 コウが口をぽか~んと開けて固まっていた。


「すまないコウ。騙すつもりはなかったんだ。女二人だと舐められるからずっと男に見られるようにしていたのだ。どうやら他の男と同じで、コウも私の事を女っぽく見える男と勘違いしていたようなので、皆と話し合い、面白いからそのままにしていたんだ。そう私は男を装った女性なんだ」


「おかしいだろ!お前の胸ってそんな見事な胸じゃなかったろ!谷間なんてなかったぞ!」


「そうなんだ。そのな、昨夜コウが寝ぼけて私の胸を揉んでいた時に、寝ぼけながらこんな潰れた胸はダメだとか言って、私の胸を治療してくれたんだ。だからサラシで潰れてしまった私の胸が今はちゃんとした形の胸になっているのだ。だから、もう男を装うのを止めたんだ」


 コウがはっとなった。


「そういえば何か夢で誰かの胸を揉んでいたような気がするんだが、あれは本物だったのか?」


「すまない。私がコウをベッドから突き飛ばしたんだ。それでコウは頭を打って気絶してしたのだ。だからそれの記憶は夢ではなく本物だと思うぞ。でも恥ずかしから私の胸の事は忘れて欲しい」


 フレンダはそんな二人のやり取りを面白そうにただ見ているだけで、特にアドバイスも何もしなかった。鬼畜である。


「すまない。その知らなかったとはいえ、未婚の女性の胸を揉んでしまった。申し訳ない」


 コウがおろおろしながら言っていたが、トリトは手を取り自らの胸に当てた。


「大丈夫だ。私の身は既にコウのもののようなものなんだ。改めて宜しくな。救って貰ったこの命はコウと共に魔王軍に立ち向かいたいのだ。私はずっと仲間として人生を送るんだろう。勇者としてのコウの助けに少しでもなりたいのだ。その、人生も共に歩めれば幸いだ。少なくともこの胸は治してくれたコウのものと思ってくれ。触りたければいつでも言ってくれれば良いぞ」


 トリトはコウにそう言えば、妻の一人として迎える決断をしない限り触ってこないのであろうと確信していた。フレンダと話しての結論だ。


 トリトはコウに握手を求めた。コウはその手を複雑な気持ちで握り返したが、改めてトリトを見るとまさにザッツ美少女剣士である。16歳とは思えない大人びた感じで、抜群のプロポーションだ。何故今まで男と思っていたのかが不思議な位であり、ドストライクといった感じの超が付く程好みの顔立ちだった。今までの道中ではトリトを男と思っていたから、下ネタやとてもではないが女性に聞かせられない類の話しをしていたなと、これじゃあ嫌われてしまうよなとオロオロしていたのであった。

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