第14話  コマッタ

 フレンダはコウがオロオロしているのとは対象的に堂々としており、部屋に戻ると当たり前のようにもう寝ようと言っていた。


「さあもう寝ましょう。コウも疲れたでしょ?」


 そう言うと服を脱ぎだした。コウは慌てて後ろを向いてフレンダに問うた。


「な、な、何をやってるんだ?」


 上ずった声で聞くとフレンダは何言っているの?といった感じで答えた。フレンダは旅の間は亡くなった仲間とは冒険者の掟に従って男女混合の場で着替えたりもしており、いやらしい目で見たり見られたりをしない状況での着替えに慣れていたが、コウがそういう事を知らないのだと今気が付き、慌ててる素振りを見せまいとした。


「何って?寝間着に着替えるだけだけど?えっと、ひょっとしてこれから何かあると期待しちゃったの?」


 コウは溜息をついた。


「俺も男だぞ。目の前で下着姿の美少女がいたら、その、襲いたくもなるよ」


「襲って頂いても別にいいわよ。私の体は好きにしてもよいのよ。救って貰った命だもん。それで恩返しが出来るのなら。ただ私の心まで自由にできると思ったら大間違いよ。体は好きにしても良いのよ。それが私の定めと贖罪」


 私の〜と言うところは小声でコウには聞こえなかった。


 コウは分かったといい、宿で用意されている寝間着に着替えた。そしてまたもや問題が発覚した。ひとつしかないベッドに早々にフレンダが入ったのだ。コウが立ち竦み唖然としていると、フレンダが呆れ声で文句を言った


「何やってるのよ?早く来なさいよ。いつまで突っ立ってる気なの?」


 といった感じである。コウは枕を取り、床に置いて床に寝転がったのだが、それを見た途端にフレンダが慌てた。


「あ、あんた何やってんのよ?こんな所で寝たら風邪を引くわよ」

 

「だってベッドは一つだろ。女の子を床に寝かせる訳にはいかないから、俺は床で寝るよ。一緒の布団に入ったら理性が飛びそうだから」


「バカな事言ってるわね。私の事はいいから、一緒の布団で寝ればいいだけでしょ!」


「だって僕は男で、君は女の子だ。その、間違いがあったらどうするんだ?」


「いいわよ。さっきも言ったけど、救って貰った命だもん。それに私、コウの事を傷付けちゃったのよ。だからね、コウが私を求めてきたら拒否できる立場じゃないの。それに今の私はコウが抱きたがったら拒否できないもん。コウは疲れているでしょ?だからちゃんとしたところで寝て欲しいの。私と一緒に寝るのが嫌じゃなかったら布団でちゃんと休んで。それにコウは私が求めない限り酷い事なんてしないのでしょ?私と同じ布団で寝るのが嫌なの?変な匂いとかもしない筈よ!もしコウが私に手を出して身籠ったらちゃんと生むから。恨まないから」


 フレンダの行動がよく分からなかった。無防備ではないが、コウが体を求めてきても拒否しないという。しかも身籠ったら生むとさえ言うのだ。何かがおかしかった。確かに命を救ったが、一目惚れしてのぼせ上がった感じでもないからだ。


 コウが布団に入らないとフレンダが床で寝そうだったので、仕方がないので取り敢えず彼女の言うように布団の中に入り、彼女に背中を向けて横になった。ただ背中同士が当たる為、布団の中でフレンダが震えているのが分かった。また、自分の心臓がバクバクしていたが、フレンダの心臓もバクバクしているのが分かった。


 態度とは裏腹に彼女もドキドキしていたのだ。


 コウはその違和感の為、フレンダの方を向いて肩に手をやった、するとフレンダはビクンとなって強張っていた。


 コウは大丈夫かと言ってフレンダの背中を擦っていた。


「風邪でも引いたのか?寒いのか?震えているが大丈夫か?」


 そう言って彼女の体の事を本気で心配したのだが、彼女の心臓の鼓動が激しく脈打っていて単にドキドキしていただけだった。震えについてだが何の事はない。フレンダは強がってはいたが、コウが体を求めて来るのではないのかと怖かったからだ。男性経験がないのと、そういった事に対する知識が乏しかったのだ。体を求めても良いというのはフレンダの本意ではないからだ。今となってはじぶんが異世界者の、つまりコウの子を身籠らねばならないとの義務感があったのだ。


「なあフレンダ。お前強がっているだろ?俺がフレンダにエッチな事をしてくるのではないかと気が気じゃないんだろ?本当は怖いんだろ?心配すんな。今のお前に手は出さないぞ。そうだな、恋人になって将来を誓いあったり、心から愛していれば別だけどさ。俺も男だ。あまり挑発されると理性が飛ぶだろうから、思わせぶりな事は言うなよな」


「ご、ごめんなさい。調子に乗っていたの。本当は襲われないかと怖かったの」


「そんな事だと思ったよ。俺の国じゃ14歳の女の子に手を出したら犯罪なんだよ。それと俺に抱かれようとしているのは誰かに強要されているんだろ?賭けてもよいが、異世界人の子を身篭れとでも言われたのじゃないのか?違うか?」


「どうして分かるのよ?」


「やっぱりそうか。やけにモテるなと思ったんだよな。逆にとてもじゃないが今の君を抱きたく無くなったよ」


「なんでよ?これでも見た目には自信が有るのよ。それにコウは格好良いし、優しそうだからいいかなって」


「それだよ。俺の内面を見てじゃないだろ?確かに君を助けたよ。だけど異世界人というだけで、本気で俺の事を好きになった訳じゃないだろ?見た目を気に入ったのかもだけど、のぼせ上がってもいないだろ。俺を見くびるなよ。種馬になんか意地でもなるもんか」


「ごめんなさい。そのう、怒った?」


「君にそこまでの事をさせた奴にな」


 ブレンダが涙を流していたので、コウはその涙をそっと拭いてあげた。そう、さりげなく。


「俺あいつに言われたんだ。女の子を泣かしたら承知しないぞって。弘美が女の子を泣かしたら私が許さないんだからねって言われてるんだ。俺も泣かさないって約束したんだ。絶対に女の子を泣かさないってさ。まあ嬉し涙は別だけどさ、あいつとの約束なんだ。そんな訳で今お前を抱くという事は、お前を泣かす事になる。それにさ、誰かの思惑になんか乗りたくないしさ。あくまでも俺とフレンダの気持ちがお互いに通じ合い、そういう流れになった時だけだからな。さあこの話はこれで終わろう。何か色々複雑な事情があるんだろうけどもさ、好きでもない奴の子供を身篭る事を命じられているなんて可哀想だよな。そんな女性を欲望のまま抱いたら俺の負けじゃないか。確かにフレンダは魅力的な美少女だけど、俺って負けず嫌いの格好付けだからさ」


 うんうんと頷いて、ごめんねごめんねと言っているフレンダをぎゅっと抱きしめた。


「俺の力がどれだけのものか分からないが、俺の力の及ぶ限りお前の事を守ってやる。決して泣かさないよ」


 コウは自分でも格好付けているなと思いつつもそんな事を言っていた。


「それに、臭い事を言っちゃったけど、少なくとも君が16歳になるまでは絶対に手を出さないからな。これは俺の意地だ。手を出したら負けのような気がするんだ。俺のいた国じゃ親の許可があれば女性は16歳で結婚できるから。それと今日はお互い色んな事があってさ、アップアップだと思うんだ。だからこの事は無かった事にしよう。明日の朝起きたら、知り合ったばかりの仲間として再スタートする。それで良いよな?」


 フレンダはうんうんと頷いていた。ただフレンダは一言言った。


「私ね一人ぼっちになっちゃったの。国を出た時にいた人達は皆死んじゃった。だからその、明日から本当の自分に戻るから今日はその甘えさせて。今日初めて会った人に言う事じゃないのだろうけど、コウの言う通り今の私の頭の中もぐちゃぐちゃなの」


 そう言ってコウの胸に抱きついた。コウはそっと抱き寄せその頭を撫でていた。


 コウは久し振りに異性と一緒の布団に入った。それは小学校の低学年以来だろうか。その頃までは宏海と一緒の布団で寝ていたり、遊び疲れて寝落ちしたりという事がよくあった。人の温もりっていいな!と今は邪な気持ちがなく純粋に人の温もりに感謝し、フレンダは何者なのだろうか?そんな事を思っていたり、今後の事について考えていたのだが、やがてコウも眠りに落ちていった。ただ、格好付け過ぎたな、男になるチャンスだったのに勿体ない事をしたなとも実際は思っていたのであった。

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