第8話  抜けたのも束の間だった

 鬱蒼とした山道が終わりを告げようとしていた。弘美は漸く人が多く行き交う道に出るのだと確信した。

 何故ならば橋が見えたからだ。それと明かりも見えたから、その先に人がいると確信したのだ。


 川の右か左か?どちら側に進むのかを考えていて、足取りも軽くなってきた。前方に意識が向いていた為、背後の気配を気にする事が疎かになっていた。取り敢えず今の進行方向である右岸側から道に出ようと決めた。


 しかし、意気揚々と駆け出した途端に、ヒュンという風切り音と共に背中に鈍い痛みが走った。そしてその痛みと共に前のめりに倒れた。すると再びヒュンと言う音がし今まで頭が有った位置を矢が通り過ぎた。


 弘美は後ろから矢で撃たれたのだ。舐めんなよ!と怒りから必中を発動し、起き上がると同時に矢が飛んできた方向にその手を向け、人差し指で狙いを付けた。矢を放ったと思われる魔物がチラっと見えたからだ。そいつに対して「死ねや!」と魔力弾を放った。怒りから少し強く魔力を込めて放ったのだが、魔力弾が命中すると、そいつの胸より上が爆裂した。


 その瞬間少し光を放っていたのだが、そいつの周りに先のゴブリンと思われる奴らが3匹いたのが照らし出された。15m程離れており、急いで魔力弾を3つ作り必中を発動した。5m位まで接近されていたが、見事に3体の頭部を吹き飛ばした。


 魔石は川に落ち、流れていった。最初に倒したのがどうやら弓使いで、残りは棍棒や棒切れを獲物としていた。


 弘美は己にヒールを掛けるも今回は効かなかった。


 周りを見渡す時に振り向いたりしたのだが、何かが引っ掛かり、激痛が走った。

 そう、背中の盾を貫通し、矢が背中に刺さっていたのだ。その刺さった矢が振り向いた時に木に当たったのだ。


 それにより背中に矢が刺さっていると分かったのだが、抜くにも手が届かなかった。ただ、例え手が届いたとしても、痛みからとてもではないが抜けはしない。


 幸い肺や心臓からは外れており、痛みを我慢すれば動く事が出来た。


 死体をそのままにして先を進む。人のいる所に行き、矢を抜いて貰さえすれば自分に与えられたスキルであるヒールで何とかなるのだと強く感じたからだ。


 また、今の奴らを倒した時にレベルが上がったのだが、痛みでアラームに気が付かなかった。


「もう直ぐだ!もう直ぐ人のいる所に出られる!助かるぞ」


 そうやって己を鼓舞し、道に向かい歩いていた。走るのは激痛が起こるので無理な為歩くしかなかった。しかし、その足取りは決して早くはなかった。痛みと疲労からフラフラだったのだ。


 それでも何とか明かりが見える方に集中していた。焚き火をしていたり、ひょっとしたら街明かりじゃないのか?と期待していたのだ。


 その後は魔物に出くわす事もなく橋の下まで来た。

 急ぎ斜面を駆け上がり、橋に出た。すると少し離れた所から人の声というより怒声や悲鳴が聞こえてきた。


 急ぎ人がいると思われる所に向かっていたが、フラフラで今にも倒れそうな位に疲弊していた為、異常な気配を感じ取れず、朝っぱらから騒いでいるなとしか思っていなかった。


 その為、そこに不用意に近づいてしまったのだ。

 金属の擦れる音や、悲鳴が聞こえてきた。

 弘美は漸く異変を感じたが、そこには壊された馬車が見えた。

 また、倒れたテントも見える。


 えっ?と思っていると下卑た声で誰何された。


「テメェ何もんだ?それにどこにいやがった?」


「えっと、俺は旅の者で、人の気配がしたので、助けてもらおうとここに来たのです」


「馬鹿かテメェ!見たからには死んで貰う。運がなかったな!」


 身なりも顔付きもいかにも盗賊やチンピラといった感じの奴だが、いきなりシミターで弘美を斬りつけてきた。


 辛うじて避けたつもりだったが、右腕を浅く切られ、鋭い痛みと血が滴った。


「えっ?何をするんですか?」


「ばかか!避けなかったら楽に死ねたのに!俺たちゃ盗賊で、客人をもてなしている最中だ。宴を楽しんでいる時に間抜けなてめぇが来たんだよ。大体悲鳴とか聞こえただろ?普通は近付かねえぞ。お前アホだろ?!くくく。どうだビビったか?もうそろそろ宴も終わるから兄ちゃんはなぶり殺しで決定!そんななりだが声からすると男だよな?もし女だというなら命だけは助けてやる。但し俺達の慰み者としてな。くくくく」


 そうして恐怖を植え付ける為に状況を話してきた。確かに周りを見ると死体がいくつか転がっている。

 夜が明けてきて、周りが見え始めたのだ。


 咄嗟に剣で受け止めたが、弾かれ、落としてしまった。次の一撃は脇腹を掠った。皮膚を軽く切り、血が出た。

 有言実行で、すぐにはころさずにいたぶり始めたのだ。

 構えから素人とバレたのだ。


 次の一撃は、わざわざ剣を拾うのを待ってから足を狙ってきた。

 そいつは下卑た笑みを浮かべており、恍惚に浸った歪んだ表情をしていた。わざわざ胸元も切り裂き、双丘が無い事を確認する余裕さえあった。

 だが、弘美は落ち着いて魔力弾を放ち、あっさり返り討ちにした。

 誰かが叫んだ。


「魔法使いがいるぞ!ダインが殺られた」


 弘美は咄嗟に道の脇に入り、場所を変えた。魔力弾を放つと、光の残滓があり、居場所がバレる為、脇の草むらに隠れたが、直ぐに盗賊達が弘美を探し始めた。その為、魔力弾を使わずに弓矢を出して構え、一番近くの奴に狙いを定め、迷わずに放つとそいつの喉に刺さり、血を吹き出しながら倒れた。視界にいた3人に次々と放つ。

 残りの者が草むらから矢を放っていると気が付き、一斉に襲ってきた。次々に放ち、4人を倒したが、矢が間に合わなかった。


 既に居場所がばれているので、魔力弾に切り替え、向かってくる者に次々と放ち、襲ってきた残り3名を倒したのであった。

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