第3話 開放と言う名の処刑
スキルを確認して分かったのは、与えられているスキルは今の自分にとってはもってこいの内容だという事だ。
直接対象に触れなければならないが、弘美が触れている者が持っている物であれば任意に盗めるというか、収納出来る事が分かった。腹いせに弘美に触れてきた者が持っている隠し武器や、お金を盗んでもとい、奪い取っていたのだ。もっとも弘美からすると盗んだのではなく、敵から巻き上げているのだ。
逃げおおせた後に、なんとか村なり町に着いた時にお金が必要であろうと。通貨の価値が分からないが、それでも有って困る物でもないだろうと、触ってくる者、触ってくる者、弘美に触れた者からお金等を片っ端から収納していった。
小説とかでよく無限収納とかが有るが、俺のはたかだか50 kg かよ!と落胆はした。だがしかし、小説では見ないがこういう使い方ができると気が付いたのだ。
これから生き抜く為の事、逃げ果せた後の事を考えていた。だが頭の回転が速いとはいえ所詮は高校生である。考える事に限界があり、この放逐から何とか生き延びた後の事には考えが及んだのだが、今この場の窮地をどうやって生き延びるかという事まで考えられなかった。まあ何とかなるだろうと。楽観視しており、甘く見ていたのだ。
また、町や村まで辿り着くまでの間をどうするのか、どうしなければならないのかという所には考えが及ばなかった。それは分からない事が多過ぎており、考えてもよく分からないから行きあたりばったりになるしかないなと思った訳ではなく、単にそこに思いが至らなかっただけだ。
兵士に担がれ馬車に乗せられたのだが、それは兵士が使っている馬車なのでかなり粗末だった。荷馬車を兵士の輸送用に流用しており、荷台に幌を掛け、高さの低いベンチを置いて乗員が座っている感じだ。そして弘美は床に無造作に転がされていた。
弘美が意識を取り戻したが馬車に揺られており、車輪は振動をもろに拾う為、ダイレクトに振動が体に伝わり痛かった。ただ呻き声ひとつあげずに弘美はじっとしながら考えを巡らせていた。
己のステータスなどをよく見、今後の対応についてじっくり考えようとしていたが、その前にぼやいた。
何か違わなくないか?異世界モノの勇者召喚って言ったら女をあてがわれ、ちやほやされ俺トゥルーで魔王討伐し、ハーレムが待っているんじゃないのか!。って馬鹿じゃないのか!俺の場合はもう終わってるやつじゃないか!約束が違うじゃないか!
約束を誰かとしているわけではないが、小説の中やアニメの中のお約束という意味でのお約束である。理不尽だやり直しを要求すると心の中で叫んでいても誰も聞いてはくれなかった。悔しくていつの間にやら本気で涙を流していたのであった。
弘美が馬車の中で咳き込んだ為、弘美が目覚めたのが分かったようで、誰かが起こすように指示をしていた。
「おいランド起こして座らせてやれ」
ランドと言われた若い兵士は了解といい弘美を起こして座らせていた。
「これでも飲め。悪いな。こんな事くらいしかしてやれない。俺達も命令には逆らえないんだ。逆らうと家族が殺される」
手持ちの木の容器に入れた水を渡され、弘美は喉の乾きがひどく、一気に飲み干した。
「ランド、滅多な事を言うな。反逆罪で捕まりたいのか?それよりもせめて状況や、これからの事を話してやれ」
年配の兵士が部下であるランドと言われている若い兵士に、弘美に対して説明するように指示していた。
魔王かそれ相当の何かが顕れた時に勇者及び聖女召喚が可能となる。
この国は聖女担当で、聖女が国を救うと伝記にある。
召喚しなければ滅ぶと。
勇者は武器を使う直接攻撃の部の勇者、魔法を使う魔法の勇者がある。聖女だけ女性だという。
兵士達は弘美に同情していた。
弘美が自分は多分勇者の筈でこんなのは間違っている。レベルが上がれば能力が開放されると必至に訴えていたからだ。
弘美は無駄だと解っていた。しかし、同情から情報を色々漏らすかもと思い、当初は必至に命乞いをしている振りをしていたが、周りが薄暗くなるに従い本気でなりふり構わず命乞いをしていた。
途中の小便も悲惨だった。手の紐は一旦外されたが、紐で体を縛られ、弓で狙われており、逃げたら射抜くとおどされ、チビリかけていた。
草むらに用を足すとまた縛られ馬車に押し込まれていた。
暫く進み、周りが暗くなった頃馬車が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。
兵士達に言われたのは魔物は心臓に魔石がくっついているか、額に有ると。殺したら回収しておけばお金になると。時折死体の魔石が他の魔石と合体してワンランク強い魔物に生まれ変わり、襲われる事が有るから、可能なら魔石を回収するか破壊しないと、自分の首を絞める事になると教えてくれた。
また、とんでもないことを言っていた。
聖女は騙され奴隷化され、役目が終わった後王の子を孕まされ、悲惨な人生を送る事になると。大概美人が召喚されるらしい。王族は弘美を殺そうとするのは、そんな奴隷にする為の女が欲しいからだろうと愚痴っていた。
ここまでは高価な魔物避けを使っていたから、たまたま進行上にいるなど遭遇してしまうのを除いて魔物は出なかったと。
目的地の山の頂上付近に到着した後、ぼろい練習用のショートソード、木の盾、保存食と水。それを入れた背嚢を渡された。そして最後の説明をしていた。
「この先の道を進み、来たのと同じ位の距離を進んだ所に小さな町がある。町が見える所まで出れば強い魔物が出るエリアは脱している。その先を更に進み、いくつかの町を越えると隣の国に出る事ができるだろう。但し、お前が国境を超えるのは正規には無理だろう。やはり魔物が多く出るエリアを通り、山越えをする密入国しかない。そちらの国は今回は勇者召喚を行っている為、俺としては向こうの方に行く事を勧める。戻る方向に来れば王都の方に行くが、戻った事が分かれば捕まりまた放逐されると思うぞ」
そして他の馬車に乗っていた隊長と思われる者が弘美をちらっと見て確認をしていた。
「よし、一応戦えるだけの装備と水や食料を渡したな。ではロープを切り解放してやれ」
そう命令していた。
「隊長、畏まりました」
無感情に命令の受領をしていた。
命令された兵士がナイフを取り出した
「動くなよ。今ナイフでロープを切るからな」
そしてロープを切った後にポケットに何やら押し込んできた
「これは回復ポーションだ。俺の手持ちで一個しかないから大事に使えよ。俺らが好き好んでお前を放逐しているとは思わないでくれ。恨むなよ」
弘美はただ頷くだけだった。隊長と言われた者が他の部下に弓を構えさせた。
「これより我らが立ち去るまでの間、我らの馬車に近付けば、我々に対し攻撃をしてきたものとみなす。流石に我々も召喚者とはいえ攻撃をされた場合は反撃をし、その者を殺す権利がある。ただでさえ短くなった寿命を更に縮めたくなくば、我らが立ち去るまでそこで大人しくしていろ。魔物避けの効果で魔物は数分の間この一帯には近づかぬだろうから、この先の事を今は黙って考える事を勧める」
そうこうしていると、外に出ていた兵士達が馬車に戻り、順次馬車の方向を変えと来た道を折り返し城の方に引き上げて行ったのであった。
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