エピローグ⑤:手紙
『ダラム王へ
お久しぶりです。カズトです。
今まで貴族や王族といった高貴な方々に手紙を
まず、突然の手紙に、さぞ驚いているでしょう。
まあ正直、俺もこんな機会が巡ってくるなんて思ってなかったんですけど。
変な話ですが。
俺はあの日、聖勇女パーティーの皆を助ける為、魔王に挑んで致命傷を負い、彼女達のパーティーに戻れて力を貸せたものの、そこで命を落としました。
ただ、まあその……色々とあって、生き返りました。
こう言われても流石に信じられないでしょうが、まあ絆の女神様のお陰、とでも割り切って貰えたら助かります。
そもそも
生き返ってから暫くは、一人旅……えっと、正しくは昔連れてた幻獣アシェと二人旅をしてました。
ただ、俺を忘れていたはずのロミナ達が俺を見つけてくれて、今は彼女達と再びパーティーを組んで、旅に出る事になってます。
と言っても、今日旅立ちなんですが、まだ目的地は決まってませんけどね。
そういえば、一国の王たる者があっさり男の約束を破り、ロミナ達に俺の事話したって聞きました。
まったく。
あなただから信頼して話したって言うのに……なんて、恨んだり怒ったりはしていません。
あなたがロミナ達を想って俺の事を話してくれたからこそ、俺は今こうやって彼女達と再会できた訳ですし。だから本当に感謝してます。
皆を励ます為に話をしてくださり、本当にありがとうございました。
この伝書が届く頃には、俺は皆と何処かに旅立っている頃だと思いますし、また当面お会いできないかも知れません。
マルージュに寄った時にはお会いしたい気持ちもありますが、突然死んだと思ってた俺が顔出したら、逆に家臣の皆様を混乱させちゃいそうだし、考え物ですかね。
その時はダラム王自らお忍びで顔を出してもらいますか。
なんて、流石に冗談ですからね。
今回のハインツの一件で、ダラム王が心痛めていないか心配ですが、きっとあなたの国の人々はあなたに似て優しいはず。だからあなたがそこまで心配しなくても大丈夫だと思います。
できれば、これからも国や国民達の為、優しき王であってください。
まあ、きっと杞憂だと思いますけどね。
それでは、何時かまたお会いできる日を楽しみにしています。
まだまだお若いですし、こんな事を言うのもどうかと思いますが。しっかりと長生きして、国の皆さんを幸せにしてやってくださいね。
〜追伸〜
今のパーティーを早々離れるつもりはありませんが、この間の魔王との戦いみたいな万が一はあると思います。
もし、ダラム王が俺を忘れてしまうような機会が生まれてしまったらすいません。
できれば今持っている呪いを解いて、皆に忘れられないようになれたら、なんて思ってはいるんですが。夢物語で終わるかもしれないので、過度な期待はせずにいてください。
ただ、夢がある方が冒険者らしいと思うんで、何時か叶えられるよう頑張ります。
あ、この事は絶対誰にも話さないでくださいね。
今度こそ、男の約束ですから。
カズト・キリミネ』
§ § § § §
……ふっ。
生きておったか。
余はその伝書を読み終えると、自然と笑みを浮かべた。
今は我が部屋で、トランスとジャルと三人、テーブルに付き顔を突き合わせておる。
「……何て書かれいたのですか?」
トランスが少し
が、その顔はジャル同様に驚きに満ちておった。
が、それも止むを得んだろう。
シャリア殿経由で、お主に余に向けたカズトの伝書が届いたのであれば。
「何。さらっと生きていたと伝えてきただけだ」
「生きてたって……聖勇女様達はあの時、カズトの事を忘れていたんですよ。それはあいつが死んだからじゃ?」
「あの男にも色々あったという事だ。深く詮索はするな」
あり得ないと露骨に顔に出しているトランスを無理矢理
「してジャルよ。伝書の件は良いとして、ここにトランスを連れて来たのは何故だ?」
「はい。それはトランス自ら話をした方が良いかと」
「どういう事だ?」
余がトランスに問いかけると、
「……ダラム王。どうか私に、ある魔術の研究をさせては頂けませんか?」
「ある研究とは?」
「解呪、対呪の研究です」
その言葉に、余は思わず眉を動かす。
……ふむ。この顔、何かあったな。
「理由を述べよ」
「……お恥ずかしい話ですが。その伝書と一緒に、シャリアより俺宛てに伝書があり、頼まれ事をされたのです」
「何をだ?」
「強い対呪や解呪の
頭を掻き困った顔をしておるが、確かに
「ふむ。だが、シャリア殿が望む品は、間違いなく強大な呪いに対抗できるであろうレアな一品。そこまでを突き詰め、生み出すだけの覚悟はあるか?」
トランスをじっと見つめると、
「……俺は、カズトが魔王に挑むと決めた時、結局何もできませんでした。結局あいつと聖勇女様達に助けられ、家族共々今も平和にこの街に暮らしています。けど、今でもあいつの覚悟を見せた時の事が忘れられないし、そんなあいつにとても感謝してるんです。そしてあいつが生きてるって知った今、俺はあいつに恩の一つでも返せるんじゃないか。そう思ってます。だからこの件、俺にやらせてはくれませんか? お願いします」
しっかりと頭を下げたトランスに、思わず余はにやりとした。
どんな理由であれ、覚悟があるなら構うまい。
そう。覚悟があればな。
「トランスよ、
その言葉に、
「任せても良いが、条件がふたつある」
「……何でしょうか?」
「ひとつは、将来国の富に繋がる研究とせよ。ただ研究し、偶然の一品を生み出せたとて、それは国の利とならぬ。まずはそれでも生み出せれば良い。だがその先も見据え事を運べ」
「かしこまりました。もうひとつは?」
「トランス。お前が次期宮廷大魔導師となる事だ」
「は!? 俺がですか!?」
……ふっ。
良い驚きっぷりだな。流石にそこまでの事を言われるとは思わなかったか。
「うむ。残念ながら、余はハインツの研究の成果に目を奪われ、肝心の
余から視線を逸らし、少しだけ戸惑いを見せたトランスだったが、次に余を見た時には、既に力強い瞳を向けてくる。
「……はい。その大任、謹んでお受け致します」
「……うむ」
良い顔だ。これなら良いだろう。
「ジャル」
「はい」
「直ぐに家臣達にこの事を伝え、手続きを進めよ。但し、研究については
「国王! ここまで言わせておいて、そんな事言いますか!?」
「はっはっはっ。冗談だ。ただ、カズトもお前も歳を取る。早く結果を見せ、カズトやシャリア殿を喜ばせてやるがよい」
「はい。かしこまりました」
「ではトランス殿。まずは
「承知しました。ではダラム王。失礼致します」
「うむ」
二人が部屋を出たのを見届けると、余は部屋の窓より城の外に目をやった。
まるで雲ひとつない快晴。
新たなる者の門出には丁度良いだろう。
「忘れられ続けた
カズトよ。
お主は思っておるだろう。英雄なんて柄ではないと。
だが、お主は既に英雄だ。
我等を救い、聖勇女達を救った英雄は、彼女等によって、世に語り継がれし存在なのだからな。
この先も英雄であるのかは知れぬ。
だが、お前はきっとこの先も、誰かが苦しんでいれば手を差し伸べ、誰かを護るべく奔走するであろうし、きっとまた、英雄となる日も遠くなかろう。
さて。次に語られしお前の物語は、英雄譚か。はたまた冒険譚か。
それは分からぬが、それを聞く為、お前の事は忘れずにおく。
だからこそ、聖勇女達と共に世界に名を馳せ、何時かまた顔を出せ。
お前が忘れられぬ夢を叶え、余の前に姿を現した時にはどうだ? 我が跡でも継ぎ、国を治めるのも一興だぞ。
お前のような優しき者こそ、国の王たるべき者だからな。
まずは待ち望んだ旅路をしっかり楽しむが良い。
そして、世界に名を刻め。
お前の……
〜To Be Continue......?〜
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