第三章/第三話:にやけるミコラ
カズトとの最高の一日を終えた俺は、自分の部屋に戻ると荷物をテーブルに放り投げ、ささっと姿見の前に立った。
確かに普段の俺じゃねーし。こんな女々しい格好なんてって正直思ったけど。
前にふざけてルッテに着せられて、あいつが何故か買ってくれたこいつが、こんな所で役に立つなんてな。
世の中よくわかんねーな。でもルッテもセンスあったってことか。
でも、カズトの奴……。
──「ああ、悪い悪い。普段より可愛いから新鮮でさ」
……可愛い……可愛い。
……へへ。うへへ……っと、やばっ。
俺なんて気持ち悪い位ヘラヘラしてんだよ、ったくキメーなー。
……でも、カズトに可愛いなんて言われたことあったかって思ってたけど。
確かにあいつは言ってたんだな。このパーティーは美少女だらけって。
それに俺も入ってたのか……うへへ……って、やばっ。よだれは流石にやべーって。
あいつの言葉を思い返す度、思わず顔がにやけそうになるのを抑え、俺はリボンだけ外すと、勢いよくベッドに横になった。
あいつが見せてくれた沢山の笑顔。
やっぱり俺、あいつのそういう顔見ると嬉しくなるし、安心しちまう。
勿論傷つけた怖さもあるし、すげー悩んでたのに。
終始あいつは笑顔でいるとか。良いやつ過ぎて、話を聞く度ほんと馬鹿だろ? って思うけど。
そこにはあいつの優しさが詰まってるし、だから俺は前からあいつに頭撫でてもらうと嬉しくなるし、安心したんだよな。
あいつが脇で戦ってくれる頼もしさだって感じてたんだ。傷だらけになっても挑める勇気。Lランクの俺だってそんなの簡単に持てないのに。あいつはずっと一人、色々な事に傷ついたのに、それでも挑むんだぜ。
正直かっけーじゃん。
ワースのせいであいつと戦った時。
今考えたって分かる。俺、ひとりであいつとやってたら、絶対に負けてたろって。
魔王と戦うあいつを見た時。
今考えたって思ってる。俺、初めて魔王に挑んだ時、恐怖であそこまで動けなかったって。
でもさ。
そんな強さを見せてくれたのを思い返す度に強く思っちまうんだ。
カズトに負けたくねーけどさ。あいつみてーに強くなりたいって。
正義の味方って性分じゃねーけど。あいつは俺にとっちゃもう憧れなんだ。
口にしたら負けだと思ってるから言わねーけど。
……あいつは、傷つけた俺といても、笑ってくれるんだよな。
……俺はこれからも、あいつと肩を並べてもいいのか?
あいつは熱苦しいからさ。仲間だってずっと口にしてくれるけど。
……考えてみたら、ロミナ達とだって俺は仲間だ。お互いわざわざ口にしないけど。
でも、あいつはいっつも仲間って口にしてくれるんだよな。
そのせいかな。最近そういう気持ちを皆にも強く持つようになったんだよ。
もう一年以上パーティー組んでるってのに。
多分俺、そういうの口にするの、恥ずかしがってる。
仲間仲間って、そんなの分かってるって。パーティー組んでるんだぞって思ってるしさ。
だけど、それを恥ずかしげもなくあいつが言ってくれるのは、本当に嬉しいんだよな。
ちゃんと想ってくれてるって。
だから、あいつの隣は居心地よくってさ。
だから、あいつに褒められてーし。あいつに笑ってほしいし。あいつの隣にいたいんだよな。
……正直不安だった。
あいつが俺を怖がってないかって。
だけど、あいつはそんなの微塵も感じさせねー。だから、きっと迷うんだよな。
女々しいけど、カズトの側にいてーなって。
──「さっきまで遊園地であれだけ笑ってたろ? お前にはそれが似合うんだ。それだけは忘れるな」
ほんと。そういう事簡単に口にするよな。
確かに俺の取り柄は明るさだけどさ。それが似合うとか、簡単に言うなって。
俺だって女なんだぞ? 分かって──。
──「……こういうの、やっぱ嫌か?」
──「……別に。お前がそれが良いなら、今日はそれでいいって」
……きっと、分かってくれてるんだよな。
だからあの時、無理に腕を取った俺に照れたんだよな。
……あいつ、恥ずかしがってたな。
俺を女って、意識してくれたってことだよな? ……へへ。
……ってくそ。
今日はダメだ。あいつの事思い出す度顔がニヤけちまう。
こんなの見られたらルッテにぜってー
……はぁ。
どーせ分かってたよ。
カズトは優しいからさ。俺がこれだけ悩んだって、俺と一緒にいてくれるって。
じゃなきゃ今日一日、あんな笑顔でいてくれないし、あれだけ本音を話しても、笑えなんて言ってこねー。
俺の迷いなんて関係ない。あいつは自分で言った通り、俺をちゃんと仲間だって想ってくれてる。
……ほんとはそうじゃねーんだけどなー。
仲間。うん、仲間はいいんだよ。そりゃ側にいれるしさ。
でもどうせなんだしさー。今日みたいにもっと可愛いとか、似合うとか言ってほしいんだけどなー。
でも、腕繋いだ時の反応見る限り、あいつもそういうとこ不器用っぽいよな。
ったく。
ま、どうせ俺なんてロミナやキュリアみたいにスタイルよくなんてねーし、眼中にねーのかもしんねーけど。
こうなったら、もう少し女なんだぞって思い知らせてやるか?
うん。そうするか!
変に悩んでも仕方ねーし、結局あいつの側にいてーもんな。
……そういや、あいつの腕、細いけどしっかり筋肉ついてたな。
なんつーか、やっぱあいつ、男なんだよな。自分で馬鹿な事言ってる気もするけど。
でも、なんかこう触り心地良かったよな。
触り心地っていやーさ。
前に早馬車で膝枕してた時は心配であんまり考えてなかったけど。
意識のないあいつの顔に触れた時、なんか肌触り良かったよな。
……うへ。うへへ……。
やべーやべー。あいつの事考えすぎてると、折角のこの服よだれまみれにしちまいそうだ。
さっさと着替えてあいつの事、めっちゃ思い返しとくか。
もう、どれだけ一緒にいてもいいようにな!
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