第十三話:仲間として
「私は、あなたと一緒にいたい気持ちに偽りはないし、あなたと仲間でありたいって思ってる。でも、カズトは私達を仲間だって言ってくれるけど、私達を信じてくれてるのか、不安にもなるの」
視線を合わせぬまま、ロミナが少し震えた声で語る。
「私は沢山あなたに助けられ、沢山許してもらった。でも本当はあなたと同じで、今だって後悔は沢山あるし、悔やんでも悔やみきれない想いもあるの。あなたが仲間だって言ってくれるから、あなたを信じ、あなたの優しさを受け入れられる。でもカズトは逆。私達を
ぐっと腕で涙を拭った彼女が、顔を上げると俺をしっかりとした瞳を向けてきた。
「仲間だから互いに傷つく。仲間だから互いに苦しむ。仲間だって時に喧嘩だってするし、仲違いするかもしれない。でも、
「……ロミナ……」
彼女の言葉を聞きながら、俺が思わずその名を呟くと、彼女は微笑んだ。
「カズトは本当に強いよ。アーシェの笑顔の為だけにこの世界に来て、沢山辛い思いもして、それでもあなたは一人で前を向いてきたんだもん。私達と共に旅するようになってからも、恐れや不安が沢山あったはずなのに、ずっと私達を気にかけてくれたし。二度の
……ロミナがしっかりと語ってくれた想いに、俺は少しの間、何も返せなかった。
確かに俺の仲間って想いは、何処か自分勝手で独りよがりだったのかもしれない。
一緒にありながら、自分だけは
俺は傷つけるのを恐れてたけど、それは皆だって同じ。
俺が怒らないのが辛いって言ったミコラの言葉や、不安を覚えたルッテの言葉もきっと、そういう事なんだよな。
……仲間。
きっと俺はそこに理想を持ち過ぎてた。
俺は皆を傷つけたくない。護りたい。そればかり考えてた。
だけど、現実はそうじゃいんだよな。
彼女が言う通り、皆といたいからこそ、喧嘩しても良いし。後悔しても、
彼女が向けてきた笑みが、あくる日の彼女に重なる。
俺をパーティーに誘ってくれたあの日。俺に向けてくれた笑顔に。
それは本当に聖女のような微笑みで。
それが俺の心を、懐かしさと優しさで満たしてくれる。
「……やっぱり、ダメだな」
「え?」
思わず自嘲しながら無意識に呟いた言葉に、ロミナが戸惑った顔をする。
「あ、違うんだ。お前が言った事を受け入れないって意味じゃない」
「じゃあ、何がダメなの?」
「あ、いや……」
心に膨れ上がった想いに恥ずかしくなって、俺は視線を泳がせた後、あらぬ方向に向けて頬を掻いた。
「……その、改めて思っちゃったんだよ」
「何を?」
「こんなダメな俺でも、皆といれたらなって」
「……うん。私もそう思ってる。すぐカズトの優しさに甘えちゃって、自分もダメだなって思うけど。そんな私でも、これからもあなたと一緒にいたいもん」
ちらっと横目でロミナを見ると、彼女らしい笑みを未だ向けてくれてて。
相変わらずの真っ直ぐな優しさに感謝しながら、俺もまたふっと微笑み返したんだ。
§ § § § §
そこから昔の想い出話なんかで盛り上がった後、夕方頃から俺達は再び船の甲板に上がり景色を眺めた。
マジックアワーらしい夕日に照らされたウィバンに少しずつ闇の
「夜景も素敵だね」
「そうだな。ただ、シャリアの屋敷はちょっと目立ち過ぎだけど」
「本当だよね。あ、でも、師匠ああいう派手そうなの好きそうじゃない?」
「あー、分かる分かる。だけどその割に自分の部屋だけ結構地味にまとめてるんだよな」
「言われてみればそうだね」
そんな他愛もない話をしていると、祭のシーズンだからか。ウィバンの海岸から空に光が放たれ、夜空に光の華が咲き始めた。
「お、花火か」
「ほんとだ。綺麗……」
穏やかな海面に反射し、空と共に映える花火は本当に綺麗だ。
並んで甲板の
「……確かに、綺麗だな」
自然にそんな感想を漏らすと、ふっと彼女がこっちに顔を向けてきた。
「やっぱりそう思う?」
屈託のない笑み。
言葉に込められた意味は、俺の思った理由とは違う。
そう理解してるはずなのに、タイミングが良過ぎだったせいか。俺は慌てて視線を花火に戻すと「そうだな」って短く返した。
正直ちょっと顔が赤い。
きっと夜だし明かりも大してないから、気づかれてないといいけど……。
「……また、一緒に旅出来るかな?」
「まあお前ら次第だし、俺は待つだけ。だけど、出来たら良いなとは思ってるよ」
「そっか。……本当は、一人でも付いて行きたいんだけどな」
「皆と一緒じゃ嫌なのか?」
「ううん。皆との旅も楽しいよ。でも……やっぱり、カズトを忘れたくないなって」
少し物悲しげに呟いたロミナの言葉に少し胸が痛む。でも、仲間なんだからな。
何時か忘れられなくなる未来を信じ、
「……まあ、今すぐは無理だけど。何時か叶えてやるよ」
って、俺が呟いたのと同時に。
一際大きな花火が景気の良い程の音と共に打ち上がった。
周囲から上がる歓声。それらがしっかり俺の言葉をかき消したのか。
「え?」
ってロミナが聞き返してくる。
きょとんとしたこの顔。きっと聞こえてなかったな。
「ん? どうした?」
「何か話してなかった?」
「いや、特に」
俺がそう言って誤魔化すと、彼女は首を傾げた後、再び花火を見た。
「……ねえ、カズト」
「ん?」
「あのね。もし、一緒にいられず別れても、ずっと忘れてほしくないから。その……ひとつだけ、聞いてほしい事があるの」
「ああ。何だ?」
声に釣られて顔を向けると、彼女は何処か緊張した顔をしてる。
どうしたんだ急に。
彼女は何か言いにくそうな表情でもじもじとした後、意を決したように真剣な顔に変わり。
そして。
「その……実は……わ、私ね。カ、カズトの事……す──」
ドーン!
ロミナが何かを訴えた気がしたけど、丁度また空に大きな音と共に花火が打ち上がった。
しかも連続花火。一気に周囲も熱を帯びた盛り上がりを見せたけど、俺もロミナも思わずそっちに目を向けてしまう。
「こりゃ凄いな……」
俺は無意識に呟きながら、再び彼女を見たんだけど。ロミナは何か茫然としてる。
と、少しして連続花火が一段落し、また間を開けてゆっくり花火が上がり出す。
「あ、悪い。ちょっと見入っちゃって。で、何だっけ?」
「あ、えっと……その……だから。私はカズトの事、す──」
ドドーン!
お? また一気に連続で打ち上げたのか。
中々に綺麗だし、目に焼き付けておきたい所ではあるんだけど。
流石にロミナが話してる最中だし、今回はちゃんと彼女を見ておこう……って、思ってたら、彼女がイラッとした表情で、恨めしそうに花火を眺めてるのを見て、その心が萎縮した。
……うーん。
これは、触れぬ神に祟りなし、かな。
俺は再び静かに空の花火に目をやる。
昔、夏に孤児院から見た花火大会。
あの時は一人で見てたけど、あの時なんかよりずっと鮮やかで、感動する花火の数々。
それらがまた一段落した所で、俺はロミナを見ると、彼女は何とも煮え切らない表情になってて、思わず吹いてしまう。
「ロミナ。そんな顔してないで今は花火を楽しもう。まだ忘れるって決まったわけじゃない。だからちゃんと、一緒に花火を見た記憶、焼き付けておこうぜ」
「……うん。そうする」
ちょっと不満そうではあるけど、彼女は諦めて
「ん? 疲れたのか?」
「違うよ。想い出を焼き付けるの。ちゃんとカズトにも覚えてもらえる様に」
俺を見上げた彼女は悪戯っぽく笑う。
流石にその距離には緊張したけど、ロミナは不満そうな顔じゃなくなったし、よしとするかな。
彼女に何とか恥ずかしさを誤魔化し笑みを返すと、俺達は二人、何も言わずに花火を見上げた。
またこんな風に花火を見たり出来たらいいななんて、そんなささやかな夢を願いながら。
──ちなみに。
花火が終わり遊覧船が船着き場に着く頃、さっき何を言おうとしてたのか改めて聞いたら、
「あ、あれは……そ、そう! す、凄く尊敬してるって言いたかったの」
と顔を真っ赤にしながら言われたから、俺も素直にこう返してやったんだ。
「だったら、お互い様さ」
って。
「え?」
少しきょとんとした彼女に、俺は意味ありげに笑うと、
「さて、船を降りる準備をしようぜ」
って、誤魔化すように甲板を先に歩き出した。
お前が俺をそう思ってくれててちょっと嬉しくなったけど、俺はずっとお前を尊敬してるんだ。
聖勇女として諦めず戦い抜いたお前をさ。
だから俺だってどんな時も諦めなかったんだぜ。なーんて言ってやりたかったけど、そこまでは口にしなかった。
きっと、そこまで言ったら俺も、彼女と同じく顔が真っ赤になりそうだったからさ。
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