第八話:お願い
俺達は教会を出ると、まだまだ賑やかな夜の街を歩き始めた。
「アンナ。以前ウィバンに来た時より夜が賑やかな気がするんだけど。何か祭りでもあるのか?」
「はい。この季節は毎年海への感謝を示す月で、一ヶ月程このように賑やかな祭事を行なっているのです」
「へー。どうりで盛り上がってる訳だ」
アンナの説明を聞き、俺は賑やかさに改めて納得する。何か丁度いい時期に来れたのかもな。
「そういやロミナ。カズトと逢った日、帰り結構遅かったよな? あの日は何してたんだ? 飯食って来た訳じゃなさそうだったけどよー」
「え? あ、あの日の夜は……ちょっと……」
ミコラの問いかけに、少し言葉を濁すロミナ。
そりゃそうだよな。あの日の夜って言ったら、闘技場で互いに稽古の為に剣を交わしてたけど、あれはあれで結構辛かったし。
少しそんな感傷に浸ってたんだけど。
「ま、まさか貴方達……二人っきりでふしだらな事してたんじゃないでしょうね!?」
「ぶーっ!!」
俺はフィリーネの言葉に、思いっきり吹き出した。
ちょ、ちょっと待て!
フィリーネ! どうしてそういう発想になるんだよ!?
「ふしだらって何だよ! あの日は
思わず強く事実を口にすると、はっとした彼女も流石に「ご、ごめんなさい……」と顔を赤くして恥ずかしそうに俯く。
「まあいいけどさ。ロミナも許してやってくれ」
「う、うん」
本当に何なんだ急に。
しかも何で皆も胸を撫で下ろしてるんだよ。
何かブローチの話の時もそうだったけど、一々リアクションが変だぞお前ら。
何ともスッキリしないまま、頭を掻きながら歩いていると。
「あ。ブローチ」
ふっと足を止めたキュリアが、遠くに見える屋台を指差した。
あの先に見えるのは……あれ? あの人、前に買った店のおじさんじゃないか。
流石に祭りだから大通りに出店してるのか。
「ねえ、カズト」
「ん?」
「ブローチ、欲しい」
「へ?」
突然キュリアが俺にそんなおねだりをして来たけど……って、上目遣いで本気で期待する目を見せるなって。お前そんなあざとい奴じゃなかったろ!?
「おお。確かにそれは名案じゃな。ロミナだけというのも納得いかん」
「いやいや。再会の願掛しただけだし。別にもう再会したしいいだろ?」
「よくねーだろ? ロミナだけ特別扱いとかずりーじゃん!」
「ずるいって別に、ロミナだけじゃなくお前達と再会したくて願掛けしてたし。特別扱いって訳じゃないんだけど……」
あまりに皆まで乗り気なもんだから、思わず助けを求めるようにちらっとロミナを見たんだけど。凄く申し訳なさそうな顔で、やっぱり上目遣いでこっちを見てる。
自分がきっかけって分かってるからこそ、見せてる申し訳なさか。
うーん……。
まあ、元は俺が勝手にプレゼントしたんだし、このままだとロミナが皆の中で気まずくなるか……。
えっと、ロミナを除いて五人と一匹。
まあアシェは幻獣なんだし除いても──。
──『却下』
……はいはい。
合わせて六金貨か。
まだお金はあるからいいけど、中々な金額だな……。
ため息を漏らした俺は、一旦皆に振り返る。
「分かったよ。その代わり、皆はここで待っててくれ」
「うん」
瞬間。キュリアが嬉しそうにはにかむ。
いや、彼女だけじゃなくって、ロミナ以外のパーティーの皆が嬉しそうな顔をした。
アンナもその雰囲気に安心してるし、まあまずは良しとするか。
アシェが俺の首からキュリアの肩に飛び移ったのを確認し、俺は一人離れた屋台に向かった。
「いらっしゃい! って、こないだの兄ちゃんじゃないか。久しぶりだなぁ!」
「あははは。お久しぶりです」
「何だそのぎこちない笑い。……ははーん」
久々に会ったおじさんは、相変わらず気さくそうに話しかけてくれたけど、俺の反応に何かを察したのか。何処か憐れみと同情の笑みを見せると、ぽんっと肩を叩く。
「まあ、人生色々あるさ。で、今度は何が欲しいのかい?」
「あ、はい。えっと……」
ブローチも勿論目に留まったんだけど、同時にちょっとした首元に巻ける赤い柔らかそうな布のリボンも目に留まる。
アシェの首に巻くならあれ位が丁度いいか。
「そっちのリボンと、こないだと同じブローチを、六つ欲しいんですけど……」
「六つ!?」
瞬間、おじさんは目を丸くする。
ん? 何か俺、悪いこと言ったか?
……ああ。以前は何か女性にあげる的な雰囲気だったし、また何か勘違いしてるな。
「あ、その。こないだパーティーメンバーの一人にあげたら、他のメンバーにも催促されちゃって。それで」
「パーティーメンバーって……そりゃ全員女子か?」
「ええ。まあ」
「……兄ちゃん、顔に似合わず凄いんだな。まあいい。ちょっと待ってな」
何か羨ましそうな、しかし何処か悟った顔で俺の肩を叩いたおじさんが、またいそいそと綺麗な布で個別に包装し始めたんだけど……。
んー。
どういう事だ?
あ、そうか。
パーティーの他の女の子に同じプレゼントを催促されるなんて中々ないし、たかられてるんじゃって同情されてるのかもな。確かに金も馬鹿にならないしさ。
§ § § § §
「悪い。お待たせ」
店のおじさんから商品を預かり頭を下げると、そそくさとその場を後にした俺は、皆の待つ輪の中に戻っていった。
「あら、綺麗な包みね」
「あそこのおじさん、結構包みのセンス良いんだよ」
俺が手にした布包みは六つ。
それぞれ色や柄が違って中々綺麗だな。
「えっとじゃあ、まずはこれがキュリア。折角だからこっちは中のリボンと一緒にアシェに付けてやってくれ」
「うん」
キュリアには淡い黄色の花模様が入った包み。アシェ用には真っ白な羽根が描かれた包みを渡す。受け取ったキュリアははっきりとした笑みを浮かべてるけど、首に巻きついているアシェもまんざらじゃなさそうだ。
「これはルッテ。こっちはフィリーネに」
「ほう。淡い桃色の花をあしらった柄か。中々風情があるのう」
「こちらは波柄なのね。センスがいいわね」
二人共、手にした包みを嬉しそうな笑みで見ている。
「こっちはミコラな」
「お! 真紅の炎。かっけーじゃん!」
大興奮のミコラだけど。お前、実は中身よりそっち気にいるんじゃないか? って思ったのはここだけの話にしとこう。
「アンナにはこれ」
「え?
「まあな。仲間なんだし、この場に一緒なんだ。折角だしさ。あ、もし嫌だったら別に──」
「いえ! 有り難く頂戴いたします」
「そっか。じゃ、これ」
「……ありがとうございます」
今日一の笑顔になった彼女に、月夜をあしらった包みを渡す。何処か夢心地な表情。喜んでくれたなら何よりかな。
「ロミナは前回ので勘弁してくれ。同じ物何度も貰っても困るだろうしさ」
「うん。気にしないで。それより皆にまで気を遣ってもらってごめんね」
「カズト。ありがとう」
「大事にするわ」
「そうじゃな。このような機会、次に何時あるやもわからんしの」
「
「おいおいアンナ。それはやり過ぎだし勘弁してくれないか?」
「そうだぜ。ま、無くさないようにはしてやるよ」
「お主はすぐ無くしそうじゃがの」
「うるせー。大事なもんは無くすもんかよ!」
「はいはい。お前らこんな所で言い争いするなって。とりあえず皆開けるのは戻ってからな。ここにずっといるのも迷惑になるだろうしさ」
何かこのやり取りが気恥ずかしくなって、俺は一人先導して歩き出す。
……っていうかさ。
ロミナにあげた時を除いて、こんな感じで女子にプレゼント贈ったりなんて殆どした事なかったからな。
正直照れくさいったらありゃしない。
でも同時に、こいつらといるんだなっていう気持ちだけは強く感じて、それだけで充分幸せだなって思ってしまう。
だからこそ、俺はちょっと心で不安にもなった。
もしも皆が、俺を追放する決断をした時の事を。
街中を歩きながら、そんな気持ちを誤魔化すように、空を見上げつつ歩いていると、ふと後ろに付いて来てるはずの彼女達の話し声が聞こえてこない事に気づく。
ん? 俺もしかして一人で先行し過ぎたか?
そんな気持ちになって振り返ろうとしたその時。
「カズト」
ロミナが俺を呼び止める声がした。
良かった。誰も付いて来てないかと心配だったし。
「ん? どうした?」
俺がほっとした胸の内を隠しつつ振り返ると、彼女達は並んで俺に向けて真剣な瞳を向けてくる。
そして。
「……ごめんなさい。カズトにもうひとつ、お願いがあるの」
代表するように、ロミナがそう言って話をしてきたんだけど。
それは、俺が思わず目を
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