エピローグ②:僕らが旅をする理由
シャリアやディルデンさんと別れた翌日。
相変わらず快晴となったその日。
俺は宿を引き払うと、バックパックを背負って冒険者ギルドに向かった。
ロミナと逢った時以来の、久しぶりの武芸者の格好。旅立ちの日というのもあって、少し身が引き締まる。
とりあえずはマルヴァジア公国を目指すわけだけど、折角だし何時もの通り、クエストでも
そういう意味では、やっぱり護衛クエストが適任だな。
途中少し逸れて、たまには世界樹の森でも寄っていくのもありか?
キュリアの母親の墓参りとかもできそうだし。
そんな事を考えながら、冒険者ギルドに入った俺がぼんやりとクエストボードを眺めていると。
「すいません。カズト様でいらっしゃいますか?」
と、ギルドの女性職員が声を掛けてきた。
「あ、はい。何か……」
思わず首を傾げた俺に、彼女は普段窓口で見せているであろう笑顔を向けてくる。
「はい。あなた向けの限定クエストの依頼がございまして、そのご案内に」
限定クエスト?
つまりそれは、俺を指定したクエストって事なんだけど……。
何で俺がカズトだって分かった? しかも俺を名指し?
……まさかだよな?
嫌な予感を感じつつも、俺は一度女職員の案内に従い窓口に場所を移すと、そこでクエスト依頼書を見せてもらう。
……って、おいおいおいおい。
あいつ馬鹿じゃないのか!?
そこにあったのは予想通り、シャリアからの商隊護衛依頼だった。
しかも目的地までお
だけど流石におかしいだろ。
商隊を組むってのは、ちゃんと仕入れや卸しを考えて物を運ばないといけない。
だけど、昨日の今日でそんな判断できるわけ無いのは、商人じゃない俺だって分かる。
いくら偶然を装うにしたってあり得ない。
俺が依頼書を手にしたまま固まっていると。
「どうだい? あんた向きの依頼だろ?」
背中から何処か楽しげな、聞き覚えのある声が聞こえた。
「……おいシャリア。お前馬鹿か?」
思わず口が悪くなるが関係ない。
流石にこんなクエスト、擁護できないからな。
機嫌悪そうに振り返ると、そこには笑顔のシャリアが立っていた。
「馬鹿ってなんだい。酷い言い草だね」
「俺は昨日言ったよな? ちゃんと商人の仕事を全うしろって」
「ああ。だから仕事しに行くんだ。護衛を頼むよ」
「仕事って、お前何をしに行くんだよ」
俺がきつい声を出してもどこ吹く風。
飄々とした彼女が笑う。
「昔、一緒に冒険してた仲間がマルージュにいるんだけどさ。あいつが
……こいつ、やっぱり商人じゃなくって詐欺師なんじゃないのか?
ってか、何で昨日こいつを信じたんだよ俺……。
ため息と共に頭を抱えるも、そんな気持ちなど関係ないと言わんばかりに、シャリアが肩を叩く。
「いいじゃないか。商隊って言っても早馬車一台。楽なもんさ」
「そういう話じゃないだろ!?」
「まったく。やっぱりあんたは真面目だよ。いいから少し位、あたしに夢見させなよ」
「夢って何だよ?」
「決まってるだろ。またシャルムと旅する夢さ」
……おい、シャリア。
ここでそれは卑怯だろ。
お前が俺をどう見てたか分かった上で、それを言うのは……。
……正直、それまでは本気で断ろうと想ったんだけどな。
おい。シャルムか? アーシェか?
どっちだよ。これを仕組んだのは。
理不尽を感じ、心でそんな愚痴を吐きつつ、俺は頭を掻く。
「……ったく。お前は何でそんなに強引なんだよ?」
「そりゃ決まってるさ。あんたにあたしの右腕になってもらいたいからね」
「それは却下だって言ってるだろ。何回言わせるんだよ」
呆れ顔をした俺に、彼女はまたも快活な笑顔を見せる。
「ほんと、いっつもつれないね。ま、それは半分冗談として」
「半分かよ!?」
「まあまあ。でもどっちにしたって、あんたはとっくにあたしの仲間。だからあたしもあんたの背中を守ってやりたいし、あんたが夢を叶えるのに、少しでも力になってやりたいんだよ」
……まったく。
シャルム。お前の姉には困らせられてばっかりだぞ。ほんと、我が強すぎるって。
……でも、いい奴だけどな。
「はいはい。どうせ断らせてくれないんだろ。これ以上は時間の無駄だし、仕方ないからクエストを受けてやりますよ」
俺はまるでミコラのように、呆れながら両手を頭の後ろに回して開き直る。
……ま、たまには騒がしい旅もいいだろ。
一人でいると、色々と鬱々とする時もあるだろうしな。
§ § § § §
シャリアの屋敷まで足を運ぶと、待っていたのはエントランスに止まった護衛対象の早馬車と、旅の支度を整えた、メイド姿のアンナだった。
その後ろにはディルデンさんやウェリック、メイド達の姿もある。
「カズト様。その節はお許しいただき、誠にありがとうございます」
「あ、うん。……で、もしかしてアンナも付いてくるのか?」
「はい」
「でもあいつは旅の準備してないだろ。折角ウェリックと再会したのに、もう離れ離れになる気か?」
俺がどこか困った顔をすると、ウェリックが笑顔で声をかけてきた。
「カズト様。僕はまず執事としてしっかりここでディルデン様から師事を受けようと思います。離れると言っても暫しの別れですし、姉さんもカズト様がきっと守ってくださいますよね?」
「そりゃ、見捨てたりはしないけど……」
「であれば安心です。是非、姉さんをよろしくお願いします」
そこまで言われて頭下げられると、無碍にもしにくい。
とはいえなぁ……。
思わず冴えない表情を浮かべると、シャリアが背後から声を掛けてきた。
「あたしが今回こいつを連れて行くことに決めたんだ。勿論、こいつはあんたの世話役」
「だーかーら! 彼女は前に『この街にいる間の専属のメイド』って言ってたんだ。だから旅に出たらそれは終わりだって!」
「ですが
じっと真剣な瞳を向けたアンナが語る。
「貴方は
……やっぱ覚えてたか、それ。
それを言われると俺は何も言い返せない。
だけど、じゃあってそのまま受け入れるのは何か癪だからな。
「ったく。じゃあちゃんと仲間らしく、名前は呼び捨て。世話役とかもなしだ。前と同じで多少は大目に見るけど、こっちにも気を遣わせてくれ。いいか?」
「……はい!」
俺の言葉に、久しぶりに嬉しそうな笑顔になるアンナ。
っていうか、目尻に涙を溜める程の話じゃないだろって。大げさだよ、まったく……。
「さて。準備が出来てるなら出発するかい?」
「ああ。こっちは何時でも」
「シャリア様。アンナ。そしてカズト様。お気をつけて」
「ああ。ありがとう、ディルデンさん。ウェリックも元気でやれよ」
「はい!」
「よーし、それじゃ行くよ!」
シャリアの掛け声に答え、皆に手を振った俺達が乗り込むと、早馬車はゆっくりと動き出した。
離れていく面々が見えなくなるまで後ろの窓から手を振った後。俺は横の窓に視線を向けると、流れていくウィバンの街並みをぼんやりと眺める。
……この街でも色々あったな。
ロミナの師匠のシャリアに出会って。
あいつにシャルムの言葉を伝えて。
暗殺者の
ロミナとも、カズトとして逢えたな。
……ロミナ。
お前達は今頃どこを旅してる?
皆と仲良くやってるか?
俺との約束、忘れないでくれてありがとな。
今度はちゃんと、お前が見つけてくれよ。
そしてまた皆とパーティーを組んで。
皆が記憶を取り戻したら……いきなりルッテ達に怒鳴られそうだけど。まあ、自業自得か。
何時かまた、一緒に旅をするだろうけど。
それまでに、もう少し強くならなきゃな。
……ほんと、それが一番大変だよな。お互い。
だけど、そう改めて思わせてくれたんだ。
感謝してるよ。
ほんと。
俺は幸せ者だよ。
忘れられるだけの人生だって思って、当てのない旅を続けるつもりだったのに。
そんな俺に、旅する理由ができたんだから。
ありがとう。
ロミナ。
ありがとう。
皆。
また何時か、何処かで逢おうな。
絆の女神様の
〜Fin......?〜
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