第10話 ジュジュの夜泣き

「ぎゅびぃ! ぎゅぎゅぶぃう!」


 俺は騒いでいるジュジュの声で目を覚ました。


「どうした。ジュジュ」

「ぎゅびゅぃ! ぎゅぎゅぎゅぎゅじゅびゅ」

「お腹が空いたのか。少し待ってろ」

「ぎゅぎゅぎゅじゅびゅ!」


 俺は枕元にある魔法ランプを灯した。


「あーやっちゃったか」


 ジュジュは俺の上でトイレをしていた。

 お腹を壊していたのか、柔らかい茶色い物で布団と服が汚れている。


「まあ、掃除は後だな」


 ご飯を作って、食べさせてから掃除した方が良かろう。

 とりあえず、俺は汚れた服を脱ぐ。

 そして、お腹が空いたと鳴くジュジュを抱っこしたまま、手を洗いに洗面台に向かう。


 こんな小屋だが、水とお湯を使える洗面台があるのだ。

 十年前には貴族の屋敷にもなかった水道設備だ。

 全てはヴィリが起こした魔法革命のおかげである。

 本当にヴィリには頭が上がらない。


「すぐにご飯をつくってやるからな。まずはきれいになろう」

「ぎゅぴい」


 手を洗い汚れたジュジュも洗ってやる。

 ジュジュはお湯を嫌がることなく、洗われている間大人しくしてくれていた。


 ひとまず綺麗になった後、俺はジュジュを抱いたまま干し肉を置いてある場所へと向かう。


 お腹を壊しているのだから、干し肉をそのまま与えるわけにはいかないだろう。

 丁寧に処理をしなければなるまい。


「夜に細かく切って茹でて、潰すのは面倒だな」


 明日からは、明るいうちに多めに作っておくべきかも知れない。


「じゅっぎゅ」

「どうしたジュジュ。ふむ?」


 ジュジュがドアの外に何かがあると主張するので、そちらに向かう。


「おや? これは」


 扉の外には、卵と果物が一杯に入った籠が置かれていた。

 その籠は大きい。リンゴなら五十個ぐらい入りそうだ。


「食べ物だな。それもかなり大量だ」

「じゅっじゅ? ぎゅぎゅー」


 ジュジュは卵も果物もよくわかっていないようだ。

 首をかしげて、干し肉を煮て冷ましてつぶした物を食べたいと伝えてくる。


「まあ、待て待て。干し肉よりこっちの方が美味しいからな」


 ジュジュをなだめながら籠を調べる。

 籠の中には「ジュジュのご飯。グレンも食べて」とオンディーヌの字で書かれていた。


「ありがたい。あとでお礼を言おう」

「じゅ~?」


 卵と果物があれば、煮て冷まして潰した干し肉を食べなくてもいい。


「すぐ出来るよ」


 俺は部屋の中に戻って、鍋に水を入れて、魔法|焜炉《こんろ)にかける。

 そこに卵を入れてゆで卵を作る。

 ゆで卵を作っている間に果物を食べさせることにした。

 蜜柑の皮をむいて、一房をジュジュの口に近づける。


「ほら、美味しいぞ」

「……じゅ?」


 ジュジュは蜜柑を知らないのか戸惑っている。

 とりあえず、俺が自分で一房食べる。


「あっ、これは美味い」


 とても甘く、それでいて酸味があった。


「……これ結構高級な奴だ」


 自分では絶対買わない類の蜜柑である。


「じゅっじゅっじゅ!」


 俺が食べて見せて美味しいと言ったせいで、ジュジュも食べたくなったようだ。


「はいはい。食べなさい」

「じゅむ……ぎゅ!」

「蜜柑のおいしさを知ってしまったみたいだな」


 もっと食べたいと要求するようになったので、どんどん食べさせる。

 蜜柑だけではあれなので、リンゴの皮もむいて食べさせた。


 そうこうしている間に、ゆで卵ができあがる。

 冷やして皮をむいて、ジュジュに食べさせた。


「ぎゅむ!」

「ゆで卵も気に入ったか。沢山食べ……いや、お腹壊していたし、ほどほどがいいのかな」


 だが、子供だし、食べたがっているなら食べさせればいいような気もする。

 そんなことを考えながら、食べさせていると、ジュジュもゆで卵を手に取って、俺の口に押しつけてきた。


「食べさせてくれるのか?」

「じゅ~」

「ありがとう。美味しいぞ」

「ぎゅむ!」


 俺はジュジュが満足するまでご飯を食べさせた。

 ジュジュはかなりの量を食べるようだった。


 食べ終わると、ジュジュは眠そうにするので、優しく撫でて寝かしつけた。

 ジュジュが眠っても、俺には仕事がまだ残っている。


 食事の後片付けをぱっぱと済ませると、ジュジュのトイレの後始末だ。

 汚れた服を洗い、布団カバーも洗っていく。


 洗面台では狭いので、風呂場で洗う。

 この小屋には風呂があるのだ。

 これも魔法革命のおかげである。

 つくづく、ヴィリには頭が上がらない。


「これで良しと」


 軽く洗って、部屋の中に干しておく。

 朝起きたら、改めて外に干せばいいだろう。


 そんなことを考えて、俺は眠りにつく。

 そして、ジュジュは、夜明けまでに三回お腹が空いたと泣き、二回ベッドをトイレにしたのだった。

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