16-3 Junior Sorcerers〜どこまでも貪欲に成長する銀の魔女

「およ、ギンナじゃん」

「わっ。セレマさん」


 それから。

 私は、世界中を旅して回ることになった。裏世界全てに、魔力インフラを整備しなくちゃいけないからだ。今はなんとか、急拵えの魔力発電所から回してる状況。もっと安定させないといけない。これからもっと、利用者は増えるんだから。結局個人が魔力を買って貯蔵して、魔力家電製品……『魔電製品』を使ってる状況。それだと、魔力石の鉱脈発見もあって門戸は広がったとは言え、まだまだ中間層以上しか使えてない。もっともっと普及させないといけない。私達カヴンが、魔女が裏世界を支配する為に。世界征服の為に。


 で、次にやってきたのが、ドバイ。表だと、アラブ首長国連邦の都市。裏ドバイだ。

 箒で来る時にちらりと表のドバイも見たけど、凄いキラキラした未来都市って感じだった。あの有名なブルジュ・ハリファも見た。凄い高いねやっぱり。


「あれ? セレマさんどうしてここに」


 で、裏ドバイはというと。

 実は表ほど栄えていない。確かに人は多いし、街に活気は見える。ショッピングモールも大きなのがあるし、夜も明るい。けど、やっぱり科学って分野では、表に遅れを取ってるのが、裏世界の全般的な課題なんだなって、凄く思った。なんか顕著なんだよね。ドバイは。


「あたしはね、校外学習かな」

「?」


 そこで。セレマさんに会った。黒髪をさらに伸ばしたみたいで、前よりも大人っぽくなってる。

 人員配置を細かく修正する為に、イザベラさんからの共有で教師陣……ユインとセレマさん、イヴさんが連携してる筈なんだけど。そのセレマさんが何故か、裏ドバイに居た。ここはショッピングモールの中。


「先生ーっ」

「お」


 セレマさんを見付けて、ちたぱたと駆け寄ってきた子達が居た。3人。女の子だ。アジア人ふたりと、黒人ひとり。


「先生。駄目よやっぱり。クリスったら後先考えないで……って」


 アジア人の子の内ひとりが、私を見て、止まった。


「ぎっ! ぎぎ、ギンナ様っ!?」

「えっ! ギンナ様っ!?」

「ぎゃー! 本当に!? なんで!?」

「えっ……」


 途端に、大爆発。ぎゃあぎゃあと騒いで私を見る。


「あの……」

「あははっ。あー。こうなるのね」

「?」


 疑問の視線をセレマさんに投げる。するとセレマさんが楽しそうに答えてくれた。


「あなたを知る魔女全員があなたを持ち上げて言うもんだから。あなたと会ったことの無い子達は、あなたを『伝説の魔女』か何かのように思ってるって訳」


 ばちんと、ウインクまで飛んできた。


「…………ええ……」


 ひと目で私だと分かったのは理解できる。『銀の眼』は世界で4人だけで、他3人は顔が割れてる。そうなると次に会う『銀の眼』は私ギンナしか居ない、と。


「あのね、えっと……」

「はい! 私アリーです!」

「私はクリスティーナです!」

「私はー! キャディです!」

「……う、うん。ギンナです……」

「きゃー!」


 元気よく挨拶をしてくれた。……勢いが、女子高生だ。付いていけないかも……。え、あれ? 私だって女子高生の筈だよね。年齢的に。……あら?


「悪いけど、私そんな、噂になってるような凄い魔女でも何でも無いからね? どんな噂か怖くて聞けないけど」

「はい! えっと! 視界に映る範囲全てを自由自在に操る『テレキネシス魔法の頂点』ですよね!」

「違うよ?」

「死んですぐに箒を扱えて、今では光の速さで飛ぶんですよね!」

「違うよ?」

世界魚バハムートの群れを一撃で全部砂になるまで粉々にしたんですよね!」

「違うよ?」


 駄目だ。

 尾鰭が付きまくってる。誰が発信源これ……。ていうかユインとかクロウとか、知ってる人が訂正してよ……。

 ……面白がってそう。顔が想像できた。


「あの! 私ギンナ様に憧れてて! いや迷惑だとは思ってるんですけど!」

「……それは嬉しいけど、私そんな、別に凄くないよ? 今まで出てこれなかったのは事情があったからだし」

「知ってます! クロウ先輩ですよね!」

「んっ」


 知られてるんだ。ああ。

 なんかめちゃくちゃ恥ずかしい……。


「ははっ。なんだかんだ、『後輩』ができて嬉しいんじゃない?」


 セレマさんも分かってて噂をひとり歩きさせたんだよね。もう。


「う……。まあ、否定はしませんけど」

「ギンナ、時間ある?」

「えっ。まあ。早入りしたので。裏ドバイの代表と会うのは夜ですし」

「じゃ、付き合ってあげてよ。噂が誇張されてるなんてこの子達も分かってるし。あたしやユインには毎日会ってるけど、他のカヴンメンバーと知り合う機会なんて、生徒達は殆ど無いからね。天上の存在なのよ」

「……分かりました。私で良ければ」

「おっけー。んじゃ任せた。あたしはホテル帰っとくから」

「え」


 あ。


 生徒の監督、押し付けられた。


「ギンナ様! お腹空いてません?」

「こっちこっち!」

「ちょ……」


 まだまだだよ、ほら。もう。セレマさんにしてやられた。

 同じカヴンの魔女同士でこれだもんなあ。私より、貴女達が毎日会ってる先生の方が何枚も上手なんだぞ、後輩達。






✡✡✡






 で、喫茶店に連れて行かれた。私の目の前には今、ラテがある。ラテアートってあるよね。なんか、アラブの王子様なんだって。そんなラテ。


「ねえ、ユインとかセレマさんとか、学校ではどんな感じなの?」


 訊いてみた。なんか面白いエピソード無いかな。


「最強で最恐ですね」

「えっ」


 返ってきたのは意外な評価。


「えっとぉ。私達って基本、『世界』恨んだまま死んでるんですけど。魔女学校ソーサリウム来て最初の頃も、ずっと反抗してるのが基本なんですよ」

「……うん」


 そうだよね。魔女の素質があるってことは、悲惨な人生だったってことと、殆ど同義だ。そもそも若くして死ぬこと自体、本来あっちゃいけない悲しい事件。


「でも、あの先生達には絶対勝てない。何にも効かない。たまたま最初から魔法使える子も居たりするんですけど、無理無理。全てにおいて最強。あとめっちゃ恐い。のに、真面目にやってると優しくて面白い。……最強で最恐」

「……へ、へえ……」


 強い、か。あんまり考えたことないや。でもまあ、テレキネシスを一定レベル使えたらまあ、確かに殆ど最強だよね。


「でもユイン先生なんかは、彼氏のことでイジると可愛かったりしますし。すぐテレポートで逃げたりするんですよ」

「あはは。テレポートかぁ。私まだできないや」

「えっ」

「えっ?」


 魔法には、適正というか。あるよね。私はまだテレパシーとテレキネシスしかできない。学校ではどう教えるんだろう。


「嘘ですよね?」

「えっ。いや、本当にできないよ?」

「…………?」


 物凄い懐疑の目を、3人ともから受ける。あれ、なんか変なこと言ってるのかな、私。


「程度の差はあれ、上級生以上でできない生徒は居ませんよ」

「えっ」


 3人はお互いに視線を交わして、何か決心したように頷いて。


「ギンナ様!」

「えっ」


 また私の手を引っ張って、喫茶店を出た。






✡✡✡






 連れて来られたのは、ビーチだ。今の時期でも全然人が居る。初冬のビーチ。


「あそこに、クリスが居ます」

「うん」

「では目を閉じてください」

「はい……」


 私は砂浜で、3人の生徒達に指導されていた。私の両隣に、アリーとキャディ。15メートルほど離れて、クリス。


「想像するのはチェス盤です」

「……はい」

「一番手前に、ギンナ様の駒があります」

「はい」

「クリスの所まで、いくつマスがありますか?」

「えっと……よ、4マスくらいかな」

「ではギンナ様の駒を、クリスの手前まで動かしてみましょう」

「えっ」


 頭の中の世界で。目を閉じる直前まで見てたクリスの位置と、自分を繋げる。私は『私』を俯瞰する上空からチェスの盤面を見ていて、そっと私の駒をつまむ。

 で、ススーっと前方へスライド。クリスの目の前まで。


「…………あ」

「きゃっ」


 目を開ける。クリスとおでこ同士がぶつかった。


「…………!」


 振り返る。アリーとキャディは15メートル後方に居る。


「痛てて……。ちゃんと移動、出来てましたよ。それをもっと、素早くやるんです。目を開けていても、チェス盤を思い浮かべて。慣れてくるとチェス盤も要りません」


 クリスが補足してくれる。


「……凄い!」


 吃驚だ。こんな、簡単に。


「わっ」


 凄い凄い。これがテレポート。びゅんびゅん飛べる。思い描いた場所まで。どんどんチェス盤が大きくなる。ヘクセンナハトにも。魔女の家にも。ベネチアにも。


「…………!」






✡✡✡






「凄いね! こんな簡単だったんだ! ありがとう! 知らなかった!」


 私は色んな所を飛び回ってから、興奮を隠せない様子で帰ってきた。すると3人は、苦笑いをして待ってくれていた。


「……あはは……。やっぱ、『カヴンメンバー』は格が違いますね」

「えっ?」

「今のやり方、学校でやる基本的な教わり方なんですけど。……最初からイメージ通り出来る子はほぼ居ないんですよ」

「ねー。全員できると言っても、結構練習したからなんですよ。それも、私達だって数百メートルの距離を数回くらいしかできません。ギンナ様の魔力量、どうなってるんですか」

「…………そうなんだ」


 凄いなあ。ユイン達。各魔法のやり方、練習の仕方を研究して発明したんだ。メソッドとして確立させて、もう教えてる。ていうか私に教えてよね。ユインたら。


「そう言えば3人、魔力量は?」

「えっと。私が42。アリーは39だったっけ。クリスは36です」

「キャディが一番よねー!」

「…………そう」


 フランは、70〜80で『低い』と悩んでた。普通は200から魔女だったよね。この子達は、まだ『無垢』なんだ。それでも、上級生なんだ。

 卒業生はどれくらいなんだろうか。やっぱり魔女を育てる学校だから、200以上なんだよね。きっと。

 ……こうして比較すると、改めて『銀の眼』が異常で規格外だって分かるね。自己客観視は大事だ。私達の成長速度が普通じゃ、無い。


「じゃあ、学校では全部の魔法を教えてるの?」

「んーとですね。クラス分けで、学ぶ魔法が違ったりもします。けど、『テレキネシス』『テレポート』『テレパシー』の3つは、全員が使える必要のある『基本魔法』なので必修です」

「……基本魔法。だから、私ができないって言った時に驚かせちゃったんだ」

「はい」

「ごめんね。私達カヴンメンバーは、魔女学校ソーサリウムに通ってた訳じゃないから。殆どのメンバーは、そのカリキュラム知らないかも。テレパシーの魔法だって、ユインが持ち込むまでカヴンに無かったしね」

「はい。それも授業でやりました」

「…………うん」


 凄いなあ。凄い子達が育ってる。魔力量こそ、普通の魔女かもしれないけど。確かにその3つが使えたらぐっとできることが広がるよね。


「ねえ、他にも私ができそうな魔法ある?」

「はいはい! 次、私が教えます!」

「お願いします。アリー先生」

「きゃははっ!」


 『無垢の魂』に魔法を教わる『銀の魔女』。これも、私ならではというか。

 楽しいドバイの思い出になった。


「あっ。私もクロウ先輩とのこと聞きたいです!」

「………………うっ」


 うっ。

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