櫻木紘の場合 ④
「ストライーック!!」
全てのピンをなぎ倒した日野のスコアボードには、ストライクのスコアがびっしりと刻まれていた。
「おー、上手いじゃん!やるねぇ。」
と、脚を組んで余裕の表情を見せる五十嵐さんのスコアボードにも、ストライクのマークがびっしりと。
高レベルな戦いが隣のレーンで行われている中、僕たちのレーンのスコアボードには、Gの文字がいくつもあった。
「...はは、隣があんなに上手いんじゃなんだか惨めだね。」
「そ、それを言っちゃおしまいですって!私たちももっと練習とか、しましょう!」
そう言って振りかぶって投げたボールは見事に横の溝に嵌り、一直線に走っていった。
「・・・・」
「・・・・」
お互いに言葉がでなかった。
「お、惜しかったよ!もう少し角度とか直したらいけると思うよ!?」
「え!あっ、そ、そうですかね!?う、うんよし次は頑張るぞぉ!つ、次は櫻木君だよね?」
「よし!頑張るぞ!」
「そ、その!」
「うん?」
「...頑張って。」
ボソッと。音楽がうるさくてあまりよく聞こえなかったけど、多分、こう言ってくれた。
やっぱり、優しいな鏑木さん。
「おりゃ!」
勢いよく振りかぶって投げたボールは一直線に転がり、ちょうどピンのど真ん中に命中し全てのピンを後方に追いやった。
「わっ..!わわ...!す、すごいです..!ストライクですよ!」
「お、おぉ!やった!」
「すごい!何かコツとかあるんですか?」
「え、えーっと、まぁあるにはあるんだけどうまく言葉にできないかなぁ?」
もちろん嘘である。球の軌道なんてお構いなしで目をつぶって投げたのだから。このストライクは本当にただのまぐれだった。
「そうですか..。なるほど、感覚的な問題ですね。」
「うーん、そうなるかな。でも鏑木さんだって投げていくうちに段々とわかるようになるよ。きっと。」
「は、はい!そうですね。何事も続けることが大事、ですもんね!」
「その意気だよ!じゃあ、次頑張って!」
「はい!いってきます!」
そう言って、彼女は少し小走りでボールの位置に向かう。入念に球を拭き、いざ投げようとしたとき、一度こちらを振り向き、少し遠慮がちな笑顔を見せる。
「うーん....えいっ!」
両手で支えられながら球は一直線に滑走していく。
「これは...!」
カコーンと、綺麗な音が響き渡る。
「すごいよ!鏑木さん!鏑木さんもストライクだよ!」
「えっ?嘘、やっ...す、すごい。やった!やりました!」
また小走りでこちらに戻ってくる。と、同時に僕は右手を上げて、ハイタッチのポーズをとった。
「あっ..い、いえい..!」
少し恥ずかしがっていたけど、しっかりハイタッチをしてくれた。終わった後も、あの遠路がちな笑顔を見せ、それに釣られて僕も笑顔になった。
「.....あの二人、どう?」
「うーん、いい感じ、に見えなくもない、かな?」
「私的にはお似合いだと思うんだけどねぇ。性格もなんだか似てるし。そう思わない?日野くん。」
「確かに。性格は二人とも優しくて物静かな感じだしねぇ。って、五十嵐さん。もしかして....」
「もしかしても何も、決まってんじゃない。この遊びはそういうための遊びなんだから。」
「はっはーん、なるほど。考えてみれば、いきなり遊びに行こうなんてよく分かんないしね。」
「そういう割には、日野くん一番のりのりだったけど?」
「そういう演技っすよ。あねさん。」
「ふふっ。あっそ。」
その後4人は5ゲームほど遊んでから家路に着いた。
「うーん、やっぱり上手くいかなかったなぁ。」
「ははっ。そうですね。」
「僕たちの最初のあれはビギナーズラックみたいなもんだったのかなぁ。」
二人で連続ストライクを取った後、続くゲームからは気持ちいいほどにガーターを連発してしまうという散々な結果となった。
「まぁまぁ、よかったじゃねぇか。楽しかったんだからよ。」
「そうそう、これから練習ていけばもっと上手くなるだろうしね。」
「そっか。練習か。」
「そ!これからは定期的にこのメンバーでボウリングしに行くの。そしたら遊びもできて練習もできて、一石二鳥じゃない?」
「そ、そうかな。」
「そ、そうですよ。もし、櫻木くんがよければ、です、けど。」
「僕は全然いいけど、日野はどう?」
「俺もお前がいいならいいぜ。」
「よし!決まりね。それじゃあこれからはみんなで毎週遊ぶわよ!」
「おーう!遊びまくろうぜ!」
「目指せワンゲームオールストライク!」
「い、いや。それはいくらなんでも...」
そんな会話を繰り返しながら、その日は解散となり、それぞれが今日を終えたのだった。
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