初恋の空

トト

青い空

第01話 青い空

 人々のざわめきがその瞬間だけ空に吸い込まれたように無音となった。


 僕は力強くその一歩を踏み込むと、そのまま空に向かって飛び上がる。

 一瞬だけ近づいた空に小さな影を見た気がした。

 だが確認する間もなく、僕は空中で体を捻るとクルクルと回転しながら10メートルの高さから吸い込まれるように入水した。


──”彩”


 初めて君を見た時から、ずっと君に惹かれていた。

 今ならそれがどうしてかよくわかる。

 君は生きようとしていた。

 一日一日を一生懸命、とても大事に生きていたんだ。

 空っぽだった僕には、君のそんな生き方はとても綺麗で輝いて見えた。

 どうしてそんなに毎日一生懸命なのか。どうしてそんな愛おしそうに花や空を見ることができるのか。

 キラキラと輝く君から目が離せなかった。


 君は僕に、愛を教えてくれた。

 君は僕に、生きる喜びを教えてくれた。

 君は僕に、夢を与えてくれた。

 でも僕は君に何か返せただろうか……


 僕は水中で体を回転させると明るい水面に顔を出した。

 割れんばかりの歓声が聞こえた。

 僕はその声援に手をあげ答えながら、ガラス張りの天井に目を向けた。

 どこまでも広がる青い空が目に映る。


 ──彩、見ているかい。


 高飛び込みの選手になり、この間医師免許も取得した。


「僕は夢を叶えたよ」


 ガラス天井にプールの波紋が反射して映っている。その様子はまるで青い空で誰かがうれしそうに泳いでいるようだった。

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