宇宙ハイウェイ
宇宙ハイウェイの制限速度が秒速三億キロメートル(注1:光速)と定められているのは、読者の皆様もご存知の通りだ。思いがけない隕石の多い小惑星帯や、生命体が居住しているために交通の激しい水性惑星付近などでは、最高速度がこれよりも七割ほど遅くなっていることもあるが、宇宙全体を見てみればおおむねこの速さである。
しかし、この決まりごとを守っている運転者は少なく、UEXCO(注2:Universal Expressway Company Limited)の大きな悩みの種となっている。ハイウェイにオービスを設置し、監視船もしばしば走らせているのだが、利用者が速度制限を守ってくれるのは監視の目が行き届いている時だけらしく、スピード違反が原因と思われる事故の減少する気配は一切ない。
他方、各惑星に張り巡らされている惑星高速道路では、スピード規制が年を追うごとに成果を上げているようである。運転者自体の性質が昔と比べて温和になってきているというのもあるだろうが、一番の理由は、惑星道路が二次元状に潰れたようにできているということだ。ジャンクションで道路が立体に交差している箇所もあるが、道路そのものが立体だというわけではない。そのため、運転者に事故が差し迫った問題として感じられやすく、速度制限を守ろうという気が生まれる。
一方で、宇宙ハイウェイは航路が迷わない程度に定められているだけで、道から外れないかぎりは縦横無尽に飛びまわることが可能だ。しかも、利用者の密度自体も惑星高速道路よりかなり小さいものとなっている。それゆえに運転者は油断してしまいやすい。
このたびの宇宙ハイウェイにおける事故は、読者の記憶にも新しいだろう。先月、修学旅行客を乗せた旅客宇宙船が過光速で運行して隕石と衝突するという自損事故を起こし、亡くなった生徒も大勢出た。運転手は過密スケジュールで業務を行っており、当日の睡眠時間は三時間ほどだったという。このことを受けて、UEXCOと政府は本格的に速度制限の厳格化へ乗り出す見込みである。
手始めには、来月一日から物理法則が書きかわり、どう頑張っても秒速三億キロメートル以上の速度は出ないようになる。つまり、光速以上の速度は出なくなってしまうということだ。
このことから、ワープ技術を用いた公共交通機関の需要が大きくなることが予想され、ワープ車両の運営会社らは設備を拡充する方針を打ち出した。
なお、光速による航行技術を運用できる科学に至っていない諸惑星は、当然UEXCOとの通信を行えるほどの技術もなく、今回の物理法則変更の旨は伝わっていない。そのため、ある程度物理の解析が進んだ際に、なぜ光速以上の速度実現が不可能なのかという謎にぶち当たってしまうだろう。しかし、これも宇宙の安全のためだと一つ我慢していただきたいものだ。そのかわり、通信の手段が整い次第、UEXCOの方からすぐに連絡の届く手筈になっているので、それまでは科学を向上させることに邁進されたい。
どんなに楽しい宇宙ドライブでも、事故が起こってしまえば台無しである。今月中は光速度以上で航行することも出来てしまうから、十分に気をつけて旅をしよう。
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