第7話


「……だそうだけど?──『裕紀さん』」


 木の陰からゆっくりと姿を現した裕紀。


 先ほどの会話を聞いていた──正しくは聞こえていた彼は、一つ溜息を吐く。


「……別に、俺には関係ない」

 二人とも、お互いのことは奈桜を通じて聞いたことはあるものの、実際に面と向かって会うのは初めてだった。


 チッと舌打ちした恭史に、裕紀の眉がピクリと動く。


「随分、裏があるじゃん。──可愛い『恭ちゃん』?」


 いつも、恭二のことを「女の子みたいで可愛い」と評する奈桜。


 とても大切な「親友」だと言っていたのを裕紀は思い出す。


 裕紀の中で勝手に「女のように弱々しい男」とインプットされていた。



「うるさい」

 キッと睨むように裕紀を見る恭二。


 その顔は確かに整っていて、女の子のように可愛らしい。


 だが、明るく染められた髪や幾つも装着されているピアス。

 そしてその服装からは女々しさなど少しも感じられない。


「お前──あいつが好きなわけ?」

 何故か動揺してしまいそうなのを、必死で押さえて問う裕紀。


 恭二は戸惑う様子もなく淡々と答える。


「ああ、そうだよ。だからあんたが羨ましくてたまんない。だけど……あんたが奈桜のこと、好きじゃないなら──『別に関係ない』なら、本気でいってもいいよね?」


 そう妖しく笑った恭二は奈桜が言うような「可愛い男」には到底見えなかった。



「……勝手にすれば」

 そう告げて自分の目的の場所へ歩きだそうと恭二に背を向けた裕紀。


 ふと、何かを思いついたように立ち止って、背を向けたまま話し出す。


「……一つだけ、言っておくけど」


 面倒なことは嫌いな裕紀。


 目の前の男の言葉も、いつもの奈桜に対してするように流してしまえばそれでいいはずだった。


 

 ──顔だけ振り返って片方の口角を上げる。


「あいつは、相当俺に惚れてるよ?」


 こうやって恭二を刺激するようなことを言う口を自分でも縫いつけたくて仕方がなかった。


「……知ってる。だから腹立つんじゃん」

 裕紀の挑発にも余裕そうに笑った恭二。


 そんな男の様子に裕紀は無意識のうちに眉間にしわを寄せていた。

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