第5話


 ――白い肌、明るすぎて頭皮の心配をしちゃう髪。

 切れ長な目。


 決して平均より高いとは言えないけど、私よりずっと高い背。


 白シャツにジーンズがびっくりするくらい似合う人。


 たまに見せてくれる笑顔や不器用に頭を撫でてくれる手。

 落ち着いた低い声。


 ──それが、今の私の好きな人。


 氷みたいに冷たいのに、しょっぱいくらい塩対応なのに……私はこの人を絶対に嫌いになれない自信がある。


 たとえ、この恋を諦めないといけない日が来ても


 彼が他の人と寄り添って歩く時が来ても


 私が裕紀さんじゃない人の手を取って歩く日が来ても



 きっと私は、永遠にこの人の事を好きだと思う――。




「……なに、これ」

 私の作文用紙をちらりと見て眉をひそめる隣の席の裕紀さん。


「え?課題ですよ、課題。詩を書けとか何とか。テーマは何でもいいらしいですから、問題ありません!!」


 そう言い張ると丸めた教科書で思い切り頭を叩かれた。


「馬鹿かお前。そういう問題じゃねえ」


 一体何が問題なのか分からなかったけど、新しい作文用紙を出して「書き直せ」って言う。


「えー、せっかく上手に書けたのに……」

 って渋ったら今までにないくらい睨まれたので

大人しく書き直すことにした。



「えーっと、私の裕紀さんは──っと」

「待て。まずテーマを変えろ」


 そう言ってシャーペンを持つ私の手を掴んで止めさせる裕紀さん。


 ──さ、触ってます!!!


 思わぬ接触に動揺を隠せなくて顔が真っ赤になる。


「──へえ。可愛いところあるじゃん」

 ぷいと顔を背けて火照った顔を見られないようにしたけど、効果なしだったみたいだ。


「……とにかく、テーマ変えろ。俺のことは書くな」


 そう言って席を立つ裕紀さん。羞恥心でいっぱいの私は頷くだけが限界だった。




 裕紀さんが帰ってしばらくして、やっと顔の熱も落ち着いて帰り支度をする。


「……あれ?」


 私がはじめに書いた作文用紙が、ない。


 机の上にも、中にも床に落ちた形跡もない。


「ま、いーか」

 課題として提出するものでもないし、なくなっても支障ないから特に気にすることもなく講義室を出た。


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