溺愛彼女はラブ・ストーリーに向いていない

向日ぽど

第1話



「──裕紀さん!!」

「……」


 ──はい、フルシカト!!!!


「今日は早いんですね!?」

 そう言いながら、彼の座る隣の席に腰掛ける。


「……なんで座んの」

 こちらチラリとも見ず、発した第一声はとてつもなく冷たい。


 裕紀さんはとってもクールで女嫌いだと有名だ。


 だけどその鋭い眼光や、友だちと一緒にいるときに見せるあどけない笑顔にやられる人が多数とな。



 そんな彼がめっちゃくちゃモテているのが最近の私の悩み。


「裕紀さんが好きだからです!」

「あっそ」


 絶対聞いてないでしょ?

 スマホをいじりながらすごく興味なさげな横顔を私は見つめる。


 ──うん、かっこいい。


 ガタンを椅子を引き寄せるふりをして、ほんの少し裕紀さんの方へ近寄る。


「寄るな」

 こっちなんて目もくれてないのに、そういうのには敏感なのね。


「ごめんなさい……無理です」


 そう言うと椅子を足で押して遠ざけられた。




「──ねえねえ裕紀さん」

 ちょっとぶりっ子風に声を作ってみる。


「……」

「まってなんでイヤホンするんですか私話かけてるのに」


 私側の右耳にイヤホンを差し込んでいる裕紀さん。


「俺にとってお前の話聞くよりも、音楽を聴いてるほうが有意義な時間を過ごせるからだよ」


 ……理論的な答えをありがとうございます。


「私とのおしゃべり、嫌いなんですか……」

 しゅん、とした顔をすると


「……別に嫌いとまでは言ってねえだろ」


 優しい裕紀さんは結局、冷たくしきれないのを知った。


「嫌いじゃないイコール好きだということになりますけど」

「……」


「ああ!!またイヤホン!!?」


 都合の悪いことは耳に入れない人です。




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