第35話 Double Vision 1


白を基調としたどこまでも開けた空間に召喚紋が現れ光の粒子が集まると、一人の男が現れた。

足元には様々な色の花が咲き、甘く優しい香りが鼻腔をくすぐる。

5段くらいある雛壇の奥にガラスで出来た玉座に銀髪の美しい女が足を組んで座っている。

白い肌に青い瞳、白いヒラヒラの服に頭には草で作られた王冠、左手首には真珠の腕輪。

その腕輪は遙か昔に男が玉座に座る女性にプレゼントしたものだった。

男はその女性を認めると「チッ!」と一度舌打ちをし、女性の方へ歩き出し玉座の前まで歩いた。


「チッ! とは何よ!! チッ! とは!! 私は女神なのよ!!

 愛と美の女神・『ラスボス!』グリースよ!! グリーーーース!! グ! リー! ッス!!」


女神グリースは立ち上がり抗議するのであった。




女神・グリースは古参の神の一人と言われている。当人曰く、さらに古い神もいるらしい。

遙か昔、神々の間では最高の勢力を誇っていた時代もあった。

勢力とは自ら生み出した世界、または自分の管理下にある世界の数である。


『世界』は無限に存在している。

その無限に存在する『世界』は大きく分けると『開かれた世界』と『閉ざされた世界』の2種類に類別できる。



『開かれた世界』は製作した瞬間、一気に広がり宇宙が作られる。そして宇宙の中には無限の星が作られる。

が、その宇宙の広さにも限界あり一つの球体の中で存在している。

早い話、球体の中で爆発し広がった世界である。

拡がりきって壁にぶつかると収縮し、しばらくすると膨張する。そして壁にぶつかると・・・・を永遠に繰り返している。

その球体を神が管理している。


神にも寿命があり神が死ぬと球体の外壁が壊れ無限に膨張をする。

神が管理を放棄しても同じく膨張を始める。

そして、『開かれた世界』というのは地上が球形をしている率が高く、真っ直ぐに進めばいつかは元の位置にたどり着くことが出来る。



『閉ざされた世界』とは地上が平面で作られており地の果ては巨大な壁に囲まれている。

上空も限界があり見えない壁に覆われている。

恒星が上空を回り光が届かない地点では夜が訪れる。

女神の管理により回る高度が変わり春夏秋冬をコントロールしている。

『開かれた世界』と異なり『閉ざされて世界』は管理に手間が掛かる。


それ故、『閉ざされた世界』は『開かれた世界』とは異なり常に一つしか無い。

『開かれた世界』は神が管理する球体の中に無限に存在するのに対し、『閉ざされた世界』は人々生物が生きていける世界は常に一つしか無い。

そして最大の違いは『閉ざされた世界』には魔素が存在する。

魔法のある世界=閉ざされた世界なのだ。

魔素により世界が固定されているので並列世界が存在しない。

それ故コントロールがしやすい世界である。



『開かれた世界』の星に魔素のある『世界』を作れば良いのでは無いか?

が、それは神と言えども不可能であった。

『開かれた世界』には天井や周りが覆われていないため魔素がどんどん大気へ放出されてしまう。


ここで一つの疑問が生まれる。

何故、神たちは自分の魔素を消費して『世界』を作るか?

作った世界に生物が生まれ幸福度や信仰心が高いほど魔素が上がる。

そして『世界』に誕生する生物の知能が高いほど神の下に集まる魔素の質・量が上がる。

総魔素量が高いほど神としてのランクが上がっていく。

男はこれを『神様ごっこ』といって嫌悪していた。


では、『開かれた世界』『閉ざされた世界』どちらの方が効率が良いかと言うと圧倒的に『開かれた世界』の方が効率がいい。

『開かれた世界』には無数に星がある。

知的生命体が誕生する確立も一つの世界につき1000から10000は下らないだろう。

そして並列世界が存在する。ということは知的生命体が誕生する星が一つだとしても二つになり、三つになる。

分裂を永遠に繰り返し二乗、三乗と加速度的に増えていく。


『開かれた世界』は魔法が無い分、そこで産まれた知的生命体は文明を発展させるため、生活を便利にするために文明の発達スピードが速い。

何だかんだ言っても魔法は便利なのだ。

文明の発達スピードが速いと人口の増え方も早く多い。

が、その代わり文明の終焉も早くなる。


その辺りは一長一短なのだが文明の栄えた星は生物が繁栄する環境が整っているということであり、文明が一旦滅んでも数千年か数万年待てば必ず次の文明が勃興する。

ただ『開かれた世界』にも欠点はある。

すべての要素がランダムであり神と言えどもすべての星を管理できない。

それに下手をすると創生に失敗することも少なくない。

『開かれた世界』は文明を持つ星が無限に存在するため神の管理が追いつかないと言う致命的弱点を持っている。


そして神が直接手を下せないために、せっかく産まれた原初の生物であるウイルスやバクテリアも些細なことで死滅してしまう。

あまりにも不確定要素が多く効率が悪いのだ。

そこで編み出された業がdesperadならずものを使ったイカサマ行為だ。

生物が育ちそうな星にdesperadならずものを送り込み生物の元となるものを置いてくる。

それだけで生命体が産まれる確立はほぼ100%になる。

このイカサマを考えたのがジーライストであった。

この手法により弱小・無名だったジーライストは『開かれた世界』のトップコンデンターに躍り出た。


イカサマ手法がある限り『開かれた世界』の方が効率が良いと言えるだろう。


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