第27話 Take the devil 12


「ライザ! 終わったぞ! 出て来いよ」


男は4人を仕留めると装甲車に隠れているライザに声を掛けた。

ライザはひょっこり装甲車の上から顔を出した。


「シロ! 人間の勇者達を殺してしまって良かったのか? 一応、お前は人間なのだろ?」


「おいおい、一応、じゃ無くても人間だよ!」


「人間側に立たなくて良かったの?」


「あぁ関係無い。人間だろうが魔族だろうが! 重要なのは雇用関係だ」


「そうか。お前は本当人間とか魔族とか関係無いんだな」


ライザの問いに黙って頷いた。


「シロ! 本当に強いんだな! デュランダルは最後には必ず勝つといわれている四天王をあっけなく倒し。

 異世界から来た勇者たちも瞬殺したなんて・・・・確かにパパと同じくらい強いのかもしれない」


「お前、見ていたのか?」


「あの小さい覗き窓から見ていたわ」


ライザは降りると装甲車の前面にある小さな窓を指差した。


「だろ~」


と勝ち誇った顔をして見せた。

ライザの反応は今までとは異なっていた。

以前なら「ムカつくーー!!」と声が帰って来るのだが、その言葉が帰って来ることは無かった。

男は少し拍子抜けをしながら言う。


「こいつらを弔ったら、さっさと魔属領へ行くぞ!」


「待って! ペンザを助けて! お願い!」


「ペンザを?何でだよ!」


「ペンザはパパを助けるために戦ったのよ! お願い!」


「俺には関係無いな。あのペンギンがどうなろうと知ったことではない!

 ヘルザイムとの契約に含まれていない」


「そんなこと言わないで! ペンザを助けて」


「何だ、ライザ! お前、ペンザを好きなのか?」


「違うわ。ペンザはパパの大切な部下なの。多分、パパを守るために命がけな戦いをして・・・・・・・」


また男は少し拍子抜けをした。

『そ、そんな事無い! ペンザのことなんて!!』と真っ赤な顔をしてツンデレを期待していたのだが、真にペンザのことを思っての言葉のようだった。


「悪いがそれは出来ない! あのペンギンがどうなろうと関係無い」


「では何故、パパの仇を討ったの? 敵討ちもパパとの契約に含まれていたの?」


「そんなの簡単なことさ。俺が奴らを許せなかったからだ!」


「パパの仇を討ってくれたのでしょ~ お願い、ペンザも助けて」


「断る!」


男は冷たく言い放った。

ライザは靴を脱ぎ正座したかと思うと顔を地面につけ土下座をした。


「お願いです。英雄シロ・ブルーノ様。ペンザを助けてください。

 私に出来ることなら何でもします。あなたの奴隷にでもなんでもなります。

 ペンザを助けてください。お願いします」


「そんなことをしても無駄だ! 諦めろ! ペンザは運がなかったんだ」


「お願いです。シロ・ブルーノ! 今の私にはあなたしか頼れる人がいません。

 どうか!どうか!ペンザを助けてください。お願いします」


「無理だ! ペンザなんかに興味は無い。死ぬ運命だったんだ!」


ライザは土下座しながら動くことは無かった。


「諦めろ!! また、城に戻って何てゴメンだ! そんな面倒なことやっていられない!」


ライザはまだ地面に額を着けながら動かなかった。


「止めろ! とっととこいつらを埋葬して魔属領へ行くぞ!」


「そう!分かったわ!!」


と言うとライザは顔を上げ立ち上がり男から貰ったコートに付いているナイフを取り外すと自分の喉に突きつけた。


「ペンザを助けてくれないなら、このナイフで喉を掻っ切って死ぬ事にします」


突き刺したところから血が滲む。

少しずつナイフが喉にめり込み血が流れる。


「止めろ! 分かった!分かった!」 

男は右手を前に出しストップのポーズをしライザがそれ以上喉に探検を突き刺すことを留まるように言った。


「俺の負けだ!! 俺の負けだ!! だから止めろ!」

そして、両手を挙げ敗北の意思を示す。


「本当!?」


「あぁ~本当だ!!」


「姑息な手を使って私を騙さない!?」


「騙さない! 騙さない!! だから、ナイフを元の場所に戻せ!!」


男は一瞬、ナイフを取り上げた後にライザをマジックバッグに無理やり入れることを考えたがヘルザイムとの約束を破る事になるので止めた。

ライザはナイフを離すと自動的に元の位置へ戻っていった。


「あ~~くそ~~! 今回は大赤字だぜ!!

 ライザ!! お前が投げ捨てた『欠片』を探しておけよ!! 貸しだからな! 貸し!! いいな!!!」


と男は納得のいかない様子で文句を垂れた。

が、『欠片』は一度手から離れると、どこかに消えてしまう。

それを知っていて、嫌がらせ半分でライザに言った。


「ありがとう! シロ! あなたがまたこの世界に来るときまでに探しておくわ」


「ほら、ヒールだ!」


と男はライザの喉に左手をやるとローブの袖が光ると血は止まり傷も消えていった。


「無茶なことしやがって! こいつらを埋葬したら城へ戻るぞ!」


「うん、わかった」


ライザは満面の微笑で答えた。



土魔法で小、中、大と穴を3つ開けた。

小にシスターを、中に女勇者を、大に大男を入れ、また上から土魔法で土を被せる。

そして、一人一人埋まっている場所に杖、大剣、巨大なスパイクを突き立てる。


「シロ、竜騎士と違って綺麗に埋葬してあげるんだね」


「そうだな。特に女勇者は美人だし、胸も大きかったからな~」


「最低!!」


「何より、こいつらはヘルザイムの名誉を怪我すことは無かった。あのゴミ騎士と違ってな」


「ありがとう、シロ! パパの誇りを大切にしてくれて・・・・・ありがとう」


と言うとライザはシロに抱きついた。

抱きつくといっても小さいライザの頭は男の腹の辺りしかない。

男はライザの頭を優しく撫でた。


「まだ、クズが一匹残ってるんだよ」


というとライザを離し胴体と頭が離れたデュランダルの元へ歩いていった。


「デュランダルはどうするの?埋めてあげないの?」


「こんなクズ野郎、埋めるわけ無いだろう! ヘルザイムを裏切ったよろうなんてコレで十分だ!」


と男はデュランダルの頭部を拾うと胴体の元へ歩いていった。

そして胴体の上に置こうとしたとき頭部の目がいきなり光り目が眩んだ。


「酷いでは無いですか! 私も彼らみたいに綺麗に埋葬してくださいよ」


と頭部が話すと宙に浮き男の右首に噛み付いた。


「ウゴーーー!!」


血が吹き上がる。


グサッ!!


頭部の無いデュランダルの体が剣を抜き男の心臓を正面から貫く。

口からおびただしい血が流れ、心臓から血が吹き上がる。


「うぐ!」


ドタッ!


「シローーーーー!!」


男は前のめりに倒れた。


「英雄シロ・ブルーノも大したことありませんでしたね」


デュランダルは嘲笑うように言った。


「シロ!! シロ!! 嘘でしょ!! シロ!! パパと同じくらい強いんでしょ!! シロ!!」


ライザはシロの亡骸に飛びついた。

(あぁ~ちゃんと魔法の勉強をしておけば良かった! ヒールの一つくらい使えるようになっていればシロを助けることが出来たかもしれない!!)

ライザは悔やんだ。

持っていた回復薬もガーベラに使ってしまった。


「シロ! ごめんなさい! シロ!!」


「さぁ~行きますよ! ライザ様!」


デュランダルは頭を自分の体に乗せると、シロの亡骸に縋りつくライザの手を無理やり取ると引っ張り上げた。


「嫌ーーー!! いやーーーーー! イヤーーーーー!」


「聞き分けが無いですね~」


腕を引っ張り上げるとライザの体は宙に浮いた。


「イヤ! イヤ! イヤ!!」


「聞き分けのないことを言っていると『奴属のチョーカー』を首に付けますよ」


とデュランダルが言うとライザは言葉を詰まらせた。


『奴属のチョーカー』を首に付け呪文を唱えられると自分の意思とは裏腹に術者の命令に逆らうことは一切出来なくなる。

名前の通り奴隷化させるためのアイテムであった。

術者が解除するか死ぬかの二択しかない。無理やり外そうとすると首が絞まってしまう厄介なアイテムであった。


デュランダルは虚空庫から『奴属のチョーカー』を取り出した。


「いやーー! 止めてーー!!」


ライザが叫ぶ。


「ふふふ 女性の悲鳴はいつ聴いても気持ちいいですね~」




デュランダルがチョーカーをライザに着けようとしたとき


「気持ち悪いこと言っているなよ! 女性と言ってもライザはガキだろ! お前はロリコンかよ!」


「貴様! 死んだはずではないのか!! なぜ遺体がありながら生きている」


と男が倒れている場所に目をやると、そこには確かに男の遺体があった。


「あら~さっきまでの透かした物言いと大違いだな! それがお前の本性か?

 あれは、まぁ~何と言うか・・・・・抜け殻みたいな物だな。

 でも便利なんだぜ! 俺の意識ですぐに消すことも出来るし、、放置しておくことも出来るんでな。

 昔、試しにどれくらい放置できるか実験したことがあったんだが・・・・・

 遺体が腐り始めて蛆虫が湧いて・・・さすがの俺も自分の遺体が蛆虫だらけになるのは耐えられず中止したけどな。

 しかも便利な事に身につけている衣服や装備もそのまま残るというオマケつき!

 だが身ぐるみ剥いでも無駄だぜ。装備は役立たずのお飾りだからな」


と言うと赤い縁取りがされたローブの前を広げて見せた。


「不死という噂を聞きましたが本当のことのようですね。 便利で羨ましい」


「そういうお前だって頭が取り外し出来るなんて便利じゃないか!

 なるほど、お前はデュラハンということか。

 デュランダルでデュラハン!? どこから笑えばいいのか教えてくれないか?」


「へらず口も一度死んだだけでは変わりませんか」


「デュランダル! そろそろ死んでもらうけど良いかな?」


「お断りします」


「まぁ~そう言うなよ! お前には死んでもらわないと俺の不愉快な気持ちが治まらないんでな!」


といった瞬間、男は今まで使っていた刀ではなく透き通った紺色の大剣をローブの左袖の中から取り出しデュランダルを斬りつけた。

デュランダルは掴んでいたライザを離し銀色の大剣を背中から抜き受けた。


ガッキン!


という音とともに火花が散った瞬間、デュランダルは地面を転がり弾き飛ばされた。


「何という馬鹿力ですか!」


デュランダルは土埃を払いながらゆっくり立ち上がった。


「馬鹿力だけが取り得なんでね。 技術やセンスは無いが無駄に力だけはあるんでね! おらー行くぞーー!」


と言うと男は一瞬で距離を縮め紺色の大剣を振り下ろした。


ガッキン! 


デュランダルを下になりながら受け止めた。


「骨がきしみますね~」


「お、耐えるね~ なら、コレならどうだ!」


ボックン!


と言うと男はデュランダルの銀色の鎧の腹を蹴飛ばした。

デュランダルは10数m転がった。

鎧の脇腹は陥没しているのがハッキリと分かるくらい凹み、その凹み具合はアバラが確実に数本折れていることが分かるくらいだった。


「うぐ」


ゆっくり立ち上がりながら


「何て下品な戦い方なのですか! 騎士道精神の欠片もありませんね」


「あるわけねーだろ!! 俺は騎士でも勇者でも無いんだよ! desperadoならず者だよ!!

 言い忘れたが力以上に狡すっからい姑息な戦い方が得意なんでね!!」


「そんな恥じも外聞も無いことを平気で言いますか?」


「そう、平気で言っちゃうのが俺なんだよね~~」


と男はニカっと邪悪な顔をして笑った。


「そうですか! そんな極悪人とまともに戦ってはいけませんね!

 それなら、こうしましょう ゲート!」


とデュランダルは叫ぶと巨大なゲートが目の前に出現した。



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