第19話 Take the devil 4


「ライザ! シロの言う事を聞くんだぞ。

 人間だが、こいつ以上に義理堅い男はそう多くは無い。シロ、頼む!」


「パパーーー」

ライザが別れを惜しむように飛びつくとヘルザイムを膝を折り優しく抱きしめる」


「あぁ、分かった。お前の希望通り出来る限り連れ歩くようにする。

 魔界にいるペンゴにお前の言付けを伝えておく」


「シロ!ライザを頼んだぞ!」


「任せろ! 必ずお前の娘は魔界へ連れて行く」


ヘルザイムは少しだけ頭を下げた。


「我も運がいい。最後の最後でお前の欲していた『欠片』が手に入ったのだからな。

 サイサリーがどこからか持ってきてくれてな。良い部下を持った」


「それは良かったな! 先代の四天王も忠実な奴らだったからな・・・・・

 その中に裏切り者がいるかもしれないんだろ。

 気をつけろよ!」


「シロ! もう二度と会うことは無いだろうが、お前と出会え、やりあうことが出来て楽しい人生だったぞ!

 さらばだ!」


とヘルザイムは言うとマントを翻し背を向けて歩いて行った。


「パパ―――」


ライザの悲しみに溢れた声が男の後ろから聞える。

羊の執事がヘルザイムの後を追わないようにライザの両肩を抑えていた。


「行くぞ! ライザ!」


「嫌!! パパと一緒にいる!!」


我がままを言うライザを左肩に荷物を乗せるように乗せると羊の執事が頭を深く下げ一礼をした。


「パパーーー! パパーー! 降ろして! 降ろして!!」


ライザの声を無視してゼンセン城を後にする。


「降ろせ! バカ! 降ろせ!! 人間!!」


ライザが肘で後頭部をガンガンと殴りつけるが、そんな事お構い無しにゼンセン城の裏門に向け歩き続けた。





裏門を出ると荒涼とした大地が永遠に広がる。

男は着ているローブの力を借りて空に舞い上がった。

激しい向かい風が襲う。


「ちょっと風が強いな。 これ以上、強くなると飛ぶのは危険だな」


上空はさらに強風が吹き荒れ、大地に緑は無く枯れた木々がまばらに点在するだけだ。

辺り一面に広がる茶色い世界。


「ゼンセン城を挟んでこうも景色が変わるのか・・・・・・魔族たちが人間界へ侵攻するのも当たり前だな」


200年前に来たときは人間側の依頼をこなしていたので身の置き所も人間界だった。

人間界には山が広がり豊富な緑、川がせせらぎ水に困る事はない。

食料も豊富で大干ばつなどの天災などが無ければ困ることは無かった。


「そりゃ、魔族の奴らが俺を憎むのも当然だな・・・・・

 人間も土地を少しくらい分けてやっても罰は当たらないだろうに・・・・

 奪い合うと足りないが、分かち合えば足りるのにな。

 過去に何があったが知らないが人間も魔族も愚かなことだ」


ピカッ!


後で何かが光った。

空を飛びながら後ろを振り向くと巨大なゼンセン城が遠くでゆっくりと崩れ落ちた。

ゼンセン城が崩れたということ、すなわちヘルザイムが死んだ事を意味する。

ゼンセン城はヘルザイムの巨大な魔力によって築城され、巨大な魔力によって維持されていた。

男は静かに地上に降り肩に乗せているライザを降ろした。


「パパーーーー!!」


ライザは地面に座り嗚咽した。


「おいおい、いくらなんでも早すぎるぞ! あれだけ精強なヘルザイムの軍がこんなに簡単に落ちるか!?

 やはりヘルザイムの言うとおり裏切り者がいたということか・・・・

 あれだけ偉大な魔王も最後はあっけなかったな・・・・いや、偉大すぎる故か」

(嫉妬や妬みもそうとうなものだったのだろう)


「パパーー! パパーーー!!」


「ライザ! 行くぞ!」


と泣きながら座っている少女の手を取り引っ張ると


「離して! パパの元へ行く!! パパーーー!!」


「行ってどうする! お前の親父は死んだんだ!」


「パパは死なない! 私との約束を破ったことは無いの!!」


「我が侭言ってないで行くぞ!」


「いや、いや!! お城へ戻るの! 離して!!」


「もう城は無い! 崩れるのをお前も見ただろ!」


「関係無い! お城へ戻るの!!」


そのとき、城の方から黒い物体が高速で近づいてきた。


バサッ! バサッ!! バサ!!! と翼を羽ばたく音が徐々に大きくなる。

それと同じくその黒い物体が大きくなる。


「ドラゴン!?」


まだ、遠くてはっきりと分からないが、その形、形状からして鳥類ではないこと明かだった。


「チッ! ドラゴンだ、ヤバイ! 行くぞ、ライザ!」


男はヘルザイムの配下にドラゴン種がいない事を知っていた。

人間側にもドラゴン種を使役していた者に心当たりは無かった。

考えられるのは人間側が召喚した勇者!


ドスン!

砂埃が舞う。

ドラゴンは男たちの上を飛び去り、行く手を遮るように着地した。


「ほーーあいつの言ったとおりだな、ヘルザイムの娘か!」


ドラゴンに乗った男はゆっくり話しながら降りてきた。

全身黒い鎧に身を包み、両手持ちの大剣を背中に背負っていた。

男はライザを自分の後ろにやった。


「お前が今回召喚された勇者か?

 ドラゴンを使役しているということは竜騎士か?」


「ふふふ、違うよ! 勇者は他にいる。

 俺は一緒に召喚された仲間の一人。

 俺は竜騎士の」


「お前の名前なんか興味は無い! 失せろ!」


「チッ! 普通、名乗りをあげるのがエチケットだろ!」


「お前の名前なんかに興味は無い!」


「そうか、いけ好かない野郎だぜ!

 早速で悪いがヘルザイムの娘をこっちに渡してもらおうか」


「断る!」

男は冷たい声で即答した。


「お前は人間族に見えるが、悪魔か何かが変化の術でも使っているのか?」


「いや、普通の人間だよ」


「人間なのに何故魔族、しかもヘルザイムの娘を守るのか?」


「ヘルザイムからこの娘の保護を頼まれたからな!」


「魔族を保護だと? お前!気は確かか!?

 この世界で魔族に人間がどれくらい苦しめられたと思っているんだ!」


「フッ! そういう風に聞いているだけで、お前が苦しめられたわけじゃないだろ!

 お前はこの辺り一帯を見て何も感じないのか?」


竜騎士は一旦当たりをグルッと見やった。


「ふん! この荒野がどうした?」


「ガキには分からないか! ならいい! ヘルザイムはどうした?」


「死んだよ! 俺たちが殺した!」


「『俺たち』じゃなくて、『勇者』がだろ! お前たち雑魚ではヘルザイムを殺せない」


「何を偉そうに! そこにいたわけでは無いのに何故分かる!!」


「ヘルザイムが言っていたからだよ! 『年老いた魔王では勇者に勝てない』ってな!

 お前程度のトカゲ使いにヘルザイムはやられはしない!」


「貴様! 竜騎士の俺に対して言ってくれるね~!

 人間だとしても、調子に乗っていると真っ二つにするぜ!

 ヘルザイムの娘を大人しく渡せば見逃してやるよ」


「断る!」


竜騎士は大剣を抜き構えた。


「ヘルザイムの最後はどんな風だった!?」


「あいつか? 惨めったらしく膝をついて俺に命乞いをしたぞ!

 『助けて下さ~~~い! 竜騎士様~~~って!』」


「嘘だな! ヘルザイムがそんな真似をする訳がない! あいつは誇り高い男だ! 

 お前は戦った相手に対し尊敬の念を持てないのか?・・・品格の無い男だな。

 『竜騎士』という職も落ちたものだな!」


「ハハハハ! あいつはみっともない魔王だぜ!

 『娘に合いた~~~い!』とか言っ!」


「デスクリムゾン!!」


男は左手を竜騎士に向け呪文を唱えると竜騎士は最後の言葉を言い終わらないうちに膝から崩れ落ちるように地面に突っ伏し二度と動くことは無かった。


「キエーーーーン!!」


竜騎士の後ろにいたドラゴンが声を上げ攻撃を仕掛けようとしたとき


「デスクリムゾン!!」


と呪文を唱えた瞬間、バタン!と言う音とともにドラゴンも崩れ落ちた。


「お前ごとき雑魚がヘルザイムの名誉を穢すことは許されねぇ~~んだよ! クソが!!」


と怒声とともに竜騎士の亡骸にツバを吐きかけた。


それは一瞬のことだった。

ライザは突然の事に理解が追いつかなかったが竜騎士と巨体なドラゴンが一瞬にして死んだことだけは分かった。


 

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