第18話 Take the devil 3


「パパーー!!」


黒い服を着たヒツジが扉を開けた瞬間、一人の少女がヘルザイムに飛びついた。

少女は人間で言うと12,3歳といったところだろうか?

赤い髪をし頭の横から少し巻かれた角が生えていた。

肌はどこまでも白く、髪と同じ色をしたミニスカートのワンピースを着ていた。


「ライザ! いい子にしていたか?」


「パパの言うとおり良い子にしていたよ」


「この城の周りもきな臭くなってきたから魔界へ戻ろうと思う。

 お前は先に帰っていなさい」


「え、嫌よー! パパと一緒に帰る!!」


少女は子犬のようにヘルザイムに飛びついた。


「パパはこれでも魔王なんで、仕事が沢山残っている。

 部下達を放っていて帰るわけには行かないのでな!

 そこのおじちゃんが魔界まで送ってくれるから、先に帰っていなさい!」


(おいおい、おじさん呼ばわりかよ! 実年齢は確かにおっさんだけど、見てくれはお前より若いだろ!!)


ライザと呼ばれた少女は睨みつけながら俺の目の前まで来る。

ソファーから立ち上がり握手を求めようとしたが、俺を見る瞳は明らかに馬鹿にしていた。


コキーーーーーン!!


「うぐ・・・・・・」

声にならない声を上げ膝から崩れ落ち股間を押さえ地面を転げまわった。

このクソガキ、初対面で躊躇無く蹴り上げやがった!


「えーー人間じゃない!パパ! 弱そーーーー!!

 こんな頼りないヤツなんて役に立たないわよ!」


「ライザ! あぁー見えても、あのおじちゃんはシロ・ブルーノと言ってパパと同じくらい強いんだぞ~~

 だから安心して送ってもらえ!」


「イヤだーーー!! パパと一緒に帰る!!」


ライザはヘルザイムに再度、飛びつき駄々をこねている。


「ダメだ! これは決まったことだ! パパの言うことが聞けないのか?

 パパもすぐに魔界へ戻るよ。

 出発まで自分の部屋で待っていなさい」


とヘルザイムは言うと執事服に身を包んだヒツジの魔物に目配せをした。


「お嬢様、魔王様の命令です。こちらへ」

執事のヒツジがライザを連れ部屋から出て行く。


「シロ! いつまで寝ているのだ!

 さっさと起きろ!」


「ちょっと待て、もう少し待ってくれ」


脂汗をかきながら下腹部を押さえながらゆっくりと立ち上がる。


「ヘルザイム!! お前、どういう教育をしているんだ!!」


「人間に対しては、先手必勝と教えている! それが何か問題か!?」


ヘルザイムは口の両端を上に上げニヤケながら答えた。


「問題に決まっているだろうが! 俺は一応、客だぞ!!」


「シロ!何を言っているんだ! お前の言い分だと我の方が客なのでは無いか?

 雇い主と雇われ人の関係なのだろ!?」


ぐぬぬ!


殴りて~~! 力一杯、殴りて~~~!!


思わず拳を握り締めた。

そんな男の怒りを無視して続けた。


「シロ! 出来る限り早く出発して欲しい」


ヘルザイムは男の怒りが収まらないうちに話しかけてきた。


「あぁ~ん、なぜそんなに急ぐ?」


「勘だ! 長年戦ってきた魔王としての勘だ」


「おいおい、そんなもん当てになるのか?」


「お前とは違って魔王と言えども命は一つしか無いからな。

 その勘のおかげでお前のような危ないヤツと直接対決を避けることが出来たからな」


「なんだよ、それは!」


「我の勘が叫ぶんだよ! 『この男は危険だ! 近寄るな!』と!」


「やけに便利な『勘』だな! 俺にも分けて欲しいぜ!

 分かった、出切る限り早く出立するようにしよう。

 そう言うことなら、お前のじゃじゃ馬娘をしっかり説得しておけよ!

 早く、魔法を寄こせ!

 お前の子分の中で魔法使えるヤツも集めてくれ。

 出来る限り魔法を集めておきたい」


「分かった、手配しよう」


「今の四天王の中にも強力な魔法を撃てる奴はいないのか?

 爆発系魔法や火炎系の強力なものとか使える奴!

 あぁ~それからお前は土魔法系が得意だったよな! 沢山寄こせ!」


「わかった。

 あいにく魔法が得意なサイサリー、ガーベラは出払っておる」


「そうか~ まぁ~なんでもいい。

 多くの魔法を持っていたほうが都合がいい。手配してくれ」


ヘルザイムは黙って頷くのであった。

 




しばらく後にゼンセン城の地下にある闘技場へ多くの魔物が集められた。

多くがローブと杖を装備している人型の魔物だった。

中には背中から羽の生えた漆黒の魔物、見るからに悪魔的な姿をしている者も見受けられる。

が、中には棍棒を装備した場違いな魔物も見受けられる。


ヘルザイムに連れられ闘技場の中心まで歩く


「あいつ!やはりシロ・ブルーノじゃないか!」

「シロだ! 絶対にシロだ!」

「なぜ、ヤツがいる! 奴も人間だろ! とっくに死んでいるはずだ!!」

「一人で乗り込んできたという話は本当だったんだな!」

「やっちまえ!」

「これだけの大人数がいたら、今度こそ殺せるはずだ」


(おいおい、人をシロシロって犬みたいに呼ぶんじゃねー!)

と憤慨しながらヘルザイムの後を歩いた。


「魔法が得意な者! シロに向けて魔法を放て!」


悪魔や魔物たちは分けが分からないと言う顔する者、隣の者と顔を見合わせる者、様々であった。


「俺が行く!」


真っ黒な巨大な牛、棍棒を持ったミノタウロスが名乗りを上げた。


「200年前の恨み!今、晴らす! 死ね! シロ・ブルーノ!!」


と言うと巨大な棍棒を振り上げ全力で襲い掛かってきた!


「バカ野郎! 人の話をちゃんと聞け! ヘルザイムは魔法を撃てと言ったんだぞ!」


振り上げられた棍棒が目の前に迫る。

左手の袖の中から細身の湾曲した片刃の剣を取り出す。


シャキン!

ドゴン!


棍棒は先端の部分が切り落とされミノタウロスは空打った瞬間、男は体を回転させ足払いを決める。


ズデン!


とミノタウロスが派手に地面に仰向けに倒れた音が闘技場に響く。


フンズ!


男は倒れたミノタウロスの胸を片足で踏みつける。


ペチペチ


細身の湾曲した片刃の剣で倒れたミノタウロスの頬を軽く叩く。

その片刃の剣の周りには禍々しいドス黒い靄が纏わり付いている。


「牛! お前は馬鹿なのか!! ヘルザイムは魔法を撃てと言ったろうが!!

 棍棒を振り回して襲えとは言ってないだろ!!

 この日本刀は何でも斬ることが出来るんだよ!

 物質は元より呪いさえもな!

 散々呪いを斬ったせいでこの剣自体も呪われちまってな。一度斬ると相手の体力や能力の1割を削れるんだよ! 

 10回斬れば無力にすることが出来るんだが、今まで10回もった奴は一人もいないんだよ! 牛君、試してみるか?

 それとも刻まれて食用になるかい? 好きな方を選べ!」


そう脅しをかけると又、ペチペチとミノタウロスの頬を刀で軽く叩いた。


何でも斬れる、呪いまで断ち切ることが出来るといったが、それは嘘であった。

自分にかけられた呪いだけは何度試しても断ち切ることはできなかった。


「シロ、許してやれ。牛タロウは200年前、お前にコテンパにやられたのでな。

 これでもコヤツは武人なのでお前に負けたのが悔しくてたまらんのだ」


男は踏みつけていた足を下ろした。


「牛君、俺に三度目は無いからな。

 二度繰り返したら食用にしてやるよ。そうしたら三度目は永遠にこないだろ!

 意味を取り違えるなよ! 二回目まで許されるという意味じゃないからな!」


そう言うと男は日本刀を左の袖に仕舞った。

ザワついていた闘技場内から一切の物音が失われた。

視線だけがそそがれ冷たい時間が流れる。


男は耐えられずに


「おい、お前ら早くしろ! 時間が無いんだ!!」


大声で男が怒鳴ると悪魔やローブを着た人型魔物たちが一斉に呪文を唱え、男目掛け魔法を一斉に正射した。

炎、水、雷、黒く靄が掛かった魔法様々な魔法が男目掛け放たれた。


「バカヤローー!!!」


男は左腕を魔法の方が跳んでくる方向へ向けると左の袖の下にすべて吸い込まれるように消えていった。


「バカ野郎!! お前ら一斉に撃って来るアホがどこにいる!!

 普通こういうのは一人一人撃ってくるもんだろ!!

 ヘルザイム!! お前は部下にどういう教育をしているんだよ!!」


「ブハハハハ! いいぞ,我が兵たちよ! 素晴らしい!!」


「お前!楽しんでいるだろう!!」


「シロよ!仕方ないだろ! 

 200年前の戦いでお前の恐ろしさを皆知っているのでな!

 お前に怒鳴られれば誰でもこういう反応になるだろ。

 我が兵たちはお前の指示に従ったまでだ!

 悪いのはお前だ! ちゃんと『一人ずつ撃て』と指示しなかったお前の落ち度だ」


(ぐぬぬ!!!! 殴りてーーー! ヘルザイムのヤツ、絶対、楽しんでいるよな!!)


男は人知れず拳を握り締めた。

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