第14話 long run 4


目が覚めると太陽は真上近くに上がっていた。

横に焚いといた焚き火はとっくに消え、僅かに煙が上がっていた。


「そりゃ~熱いわけだ」


毛布を袖の中へと仕舞うと、一度伸びをする。


「う~~~~、よく寝た! じゃ、お仕事をするか」


空へ舞い上がり、以前と同じようにあちらこちらへ牛を左袖の中から出す。


ブモ~~~~

ブモ~~~

ブモ=


牛もいきなり牧草地から何もない砂漠に出され動揺しているようだった。

いきなり走り出す牛、

左右をきょろきょろ見回す牛

いきなり大きな鳴き声を発する牛

砂地にも関わらずエサを探そうとする牛


そして、空高く舞い上がった。

後はエサに引っかかってくれるのを待つだけ。


しばらくすると砂が盛り上がりながら、こちらに近づいてくる。


「おお、エサに釣られて来た来た!」


砂から飛び出し口をウニョウニョさせながら牛に喰らいつく。


「うわーーキモーーー! こいつの口は何度見ても見慣れないな。

 久しぶりだな、ワーム君。

 生きていてくれて良かったよ。

 もし死んでいたら探すのが大変だったからな~ 

 長い生きしてくれて、ありがとう」


とは言ったが、ここから100kmほど離れた町で事前に情報は得ていた。

まだ、砂漠を根城にしながら商団や旅人を襲っているという話を。

もしワームが死んでいたら広大な砂漠の中から死骸を探す。

それどころか死んでいたら風化して、辺り一面の砂の中からペンダントだけを探す事になるということだ。

それなら『ありがとう』の一言くらい言いたくもなる。


「さぁ~どうしたものか。いきなり即死魔法のデスクリムゾンを掛けてもいいんだが・・・・

 !!! ヤツを使おう。

 いつまでもマジックバッグに入れっぱなしじゃ、気持ち悪いからな~」


マジックバッグは生き物でも魔法でも何でも収納することができる。

入れた瞬間に時間はほぼ停止し、熱いものは熱いままで、冷たいものは冷たいままで。

そう、切断されたものは切断されたままで。


「ほら、行ってこい!」


左の手の平をワームに向けると、袖の下から30年ほど前にラインハルトが切断したワームの頭部が飛び出した。

ワームの頭部は地面に落ちるとブチョグチョグチャと汚い音を立てながら、もがく様に暴れる。

徐々に頭部から下が生えて来る。

そして、ある程度生えると下半身が、いや、下半身が正しいか分からないが、50mくらいの下半身がドーン!という感じで生えて来る。

しばらくはそのままでウニョウニョ砂の上でもがくのだが、また下半身が生えてくる。

そして、ウニョウニョと・・・・・また、生えて来る。

幾度かそれを繰り返すと、頭部しかなかったのだが、今では完全なワームにと変わった。

が、よく見るとオリジナルと比べ100mほど全長は短いだろうか?


オリジナルのワーム1号がクローンワーム2号君に気がつく。

2号君も気がつくと両者は体を起こしながら見合っている。

しばらく沈黙が続いた。


あーーーーーーーーーーーーーーー!! やばい。やっちまったかもしれない。

いきなり怪獣大戦争が始ると思ったのだが、元は両方とも同じ固体。

お互いが分かり合って二人仲良く俺を襲いに来るのかもしれない。

嫌な汗が流れる。


2匹同時に キシェーーーーン! という叫び声を上げ、体を後ろに反らした。


キェーーン!

ゲンゲン!!


と2匹が叫んだ方ともうと体をぶつけるようにして戦いが始った。

砂が舞い上がり、2匹のワームの叫び声が響く。


「おおお、良かった良かった。予定通り怪獣大戦争になってくれて。

 2匹討伐する事にならなくて良かった。良かった!」


俺は呑気に今よりも高く高度を取り二匹の死闘を眺めていた。

地ベタに這い蹲るように戦うのかと思ったら、コブラのように体を起こし体をぶつけ合う戦い方をしていた。

人間や牛など小さい生物を襲うときと根本的に戦い方が異なっている。

全長が長い分、体をぶつけ合ったときなどは1号の方が押しているように見える。

全長が短い2号の方が小回りが効くためか1号の後ろに回りこみ後方から噛み付き攻撃を仕掛ける。

6・4で1号君の方が有利なように見える。そのとき、ふと思い出した!


「あ!!マズイ! 目印をつけておかないと! 乱戦しているうちに、どっちが1号か分からなくなるかもしれない!

 どうすればいいかな~ ペンキでもぶっ掛けるか・・・・・

 いや逃げられると厄介だ!」


袖の下から透き通った紺色の大剣を取り出し1号の尻尾目掛け突き刺した。

1号は2号に気を取られているのか、尾の方には神経が無いのか気がつくことは無かった。

俺の大剣は着ている白いローブと一緒に遙か昔、俺が初めて異世界へ召喚されたときに手に入れた物だ。

両方とも神が使用していた物だった。

神剣、神の法衣といわれて、その世界では神話になっていた。

神剣の力により砂地だろうが突き刺すと、その地に固定され抜けなくる。

若干の例外はあるが神剣に選ばれた者以外持ち上げることが出来ないのだ。


1号は尾を固定された事により一段と動きが鈍くなり2号は背後から攻めようとする。


「後に回り込もうとするなんて、一応、脳みそはあるようだな」


どれくらい時間が過ぎただろうか?

両者とも一進一退。

決め手に欠ける戦いだった。


「う~~~ん、厭きてきたな・・・・

 決着がついても、解体しなきゃならないんだよな・・・・・面倒だ。

 それに、2号君が勝っても退治しておかないと依頼主から大目玉を食うからな~」


頭を掻きながら魔法を唱えた。


「デスクリムゾン!! デスクリムゾン!!」


ドダン!

ドダン!!


左手から即死魔法が発せられ2匹は体を横たえた。

砂が辺り一面に舞い上がる。


「あ~~きっと、命の軽視とか言って非難されるんだろうな~

 無駄に生物と生物を戦わせ、挙句の果てに2匹とも即死魔法だもんな~

 言い逃れできないよな~」


ブツクサ言いながら砂が舞う地上に降り1号の尾に刺さっている神剣を抜いた。


「回収が大変だな」


ワーム1号の頭部へ向かう。

砂の上を400mほど歩いたろうか。


「この辺から捌くか」


徐に横たわっているワームの脇腹に神剣を突き刺し、頭目掛け斬り裂きながら歩く。


「うげーー気持ち悪~~~!」


先ほど飲み込んだ牛はもっと下のほうへ飲み込まれたようでおぞましい姿対面する事はなかった。


「この辺りだろ」


と適当に目星をつけ細かく切り刻むと30年前にペンダントを巻き付け投げ入れた短剣が出てきた。


「ここにあったという事は、あれから30年の間、こいつを切断したヤツがいなかったということか・・・・・

 さすが極悪勇者・ラインハルトといったところか。

 さすが、魔王をほ葬っただけのことはあるな・・・・・

 何にしろ回収できたことだし、依頼主へ届け行くか」


静かに空へ舞い上がった。

 

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