第12話 long run 2
「ほらーー!行け! お前たち!!」
左手の袖の下から牛100頭を次々に砂漠に放つ。
牛の足は砂にめり込み踏ん張りが利かないために上手く歩けない。
それでも360度、四方へ広がっていく。
「ワームのエサにするには上等な牛だな~
俺が食べたいくらいだ」
ワームは砂の中で生活しているために目は退化しており、砂上を通る生物の足音を頼りに場所を特定し襲い掛かる。
これだけいれば、エサに飛びつくだろう。
ラインハルトが俺に追いつくか、ワームが先にエサに飛びつくかの勝負。
一刻一刻と時間が経過する。
遠くから砂塵が舞い上がる。
「さすが、ラインハルト! 砂の上でも難なく走ってくるか。
何かしらのスキルを使ってるな」
砂漠では馬はほぼ使えない。
高熱、乾燥に弱く水を大量に必要とするため馬の体力が追いつかないのだ。
何より速く走るためには反発力の無い砂は大敵なのだ。
砂塵が近くに迫ったとき
ズボズボズボーーー!
砂が盛り上がりワームが砂の中から飛びあがりエサの牛に食いついた。
勝った!
この勝負は俺の勝ちだ!
ラインハルトが俺に追いつくのとほぼ同時に我らの超巨大ワーム君が砂煙を上げながら地面から俺の後から現れた。
「うげーーーーキモーーーー!! 口がウニョウニョしてるぞ!」
口の周りには小さな触手がウニョウニョと口の中には小さな歯が無数に・・・・と言っても全長500mを超える巨体。
胴体の太さは優に10mは越えていそうだ。
小さな歯や触手と言っても人間よりも大きい。
こりゃ、魔王様もスルーするわな。
俺も依頼がなければ関わりあいたくなかったよ。
ワーム君が巨大な口を開け、牛を喰らう瞬間に50cmほどの短剣に巻き付けておいたラインハルトのペンダントを口に力一杯投げ入れた。
グサッ!
と刺さった音はここまで聞こえる。
ワームは一瞬、クエーという叫んだ。
「貴様!! やってくれたな!」
ブサイクなラインハルトの表情がオークのように醜くなる。
「今、飛び込めば口のどこかに突き刺さっているぞ!
さぁ~どうする? 飛び込むか? 諦めるか?
相手は魔王もびびる巨大ワームだぞ?」
「貴様を殺してからワームを始末する!!」
「俺を殺している暇あるの?
殺しても何度も生き返るよ?
俺に構っている時間、無いんじゃない? この広い砂漠でワームを見失うと探すの大変だよ!?
この砂漠は東西200km、南北300kmあるよ~~
さぁ~どうする?」
ラインハルトをこれでもかと挑発する。
「死ねー!」
ラインハルトが聖剣を俺に投げつけた。
聖剣は見事に俺に突き刺さり絶命するのであった。
「クソめが!!」
ラインハルトは俊足で俺の亡骸に近寄り聖剣を引き抜くと巨大ワームに向かって行った。
砂漠にブモーーという声が響き牛が逃げまわる。
巨大ワームは砂中を移動し捕食する。
その度に砂漠の地形は変わり、少しずつ俺の亡骸は砂に飲み込まれていった。
矢継ぎ早にラインハルトは雷撃の魔法を繰り出すがワームは気にもせず砂漠に撒き散らした牛を一頭一頭、巨大な口で食べる。
ガキガキと骨を一瞬で砕き、口から血しぶきが溢れ出し血が滴り落ちる。
再度、ラインハルトは得意の雷撃魔法を繰り出す。
が、俺の読みどおり、いつもより雷撃の威力が弱くなっている。
砂漠には雲がほとんど無いために自然の力を借りることが出来ないようだ。
この砂漠にいる限りワームを倒すのは困難極まる。
砂漠を住処にしているので炎系の魔法に対して耐性を持ち、苦手としている氷系の魔法は砂漠の熱さのために威力を十分発揮できない。
まぁ、大概の魔法は砂に潜ってしまえば無力化できる。
唯一有効なのは重力を使った魔法か即死魔法だけだろう。
が、残念なことにこの世界の人間には、その二つを使える者はいない。
いや、その概念自体が無いのかもしれない。
残る手は物理攻撃・・・・・・殴る蹴るブった斬る!!
だが、足場が悪い砂地では動きが阻害され、剣に乗せる力も弱まる。
それにワームの再生力はヒドラ並であり、頭を切断してもすぐに頭が生えてくる。
しかもこの巨大ワームは切断した方も下半身が生え2匹になってしまう。
恐ろしい生命力を持っている。
知能もほとんど無い下等生物のクセに生意気なヤツなのである。
キシャーーーーン!
ワームが体を起こしながらラインハルトを威嚇する。
空を飛びながら必死の形相でワームと戦っているラインハルトの下に近寄り声を掛ける。
「精が出ますな~ 勇者ラインハルト様!!」
ラインハルトはキッとした形相で睨む。
「貴様は何故、死なん!! ムカつくぜ!!」
と言い終わらないうちに雷撃魔法を俺に向けて飛ばしてくる。
その雷撃魔法を軽くかわす。
「おっと、危ない! だいぶスピードが遅くなっているな~
雲の無い砂漠では威力半減か」
「チッ! 本当にお前はクソ野郎だ!!」
「危ないぞ! 気をつけないとワーム君にやられるぞ!」
ワームは魔法を使えたり、特別な力を持っているわけでもない。
ただ単純に鋭い牙で獲物を喰らうだけだ。
砂から飛び出すことと潜ることしかできない。
が、あまりにも巨体過ぎる。
ラインハルトは俺に毒づきながらも聖剣で斬りつけるが、あまりにも太すぎるため一撃で切断する事は難しかった。
「おい、ラインハルト! お前、切断を狙っているようだけど、再生するの知らないのか?
しかも下手すると2匹に分裂するぞ!
ペンダント、諦めた方がいいんじゃないか?」
ラインハルトは無視をした。
俺は知っている。ラインハルトが絶対に諦めないことを。
たかがペンダントなのだが家族との思い出の一品だということを。
ペンダントの中には両親と思われる男女両側に間を挟むように妹と思われる少女、それにラインハルトと思われる少年の写真が入っていた。
当時のラインハルトはどこにでもいる少年だった。
けして今のようなオークかゴリラのような醜い大男ではなかった。
・・・・・・いや、あの少年は弟なのかもしれない。
今のラインハルトをみると少年と同一人物には思えなかった。
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