第10話 Take It Easy 9
ゼルダムの城が見える小高い丘に杖をついた白髪に白く長い髭を生やした老人が一人立っていた。
「おお、じいさん、早いな。待たせたか?」
勇者と呼ばれていた男がやって来た。
「今、来たところじゃ。派手にやったの~」
「そうか? 奴隷商人に麻薬の元締め、暗殺依頼人が相手だぜ。
手心加える必要があるとは思わないけどな~ 我ながら良い仕事をしたと思うぞ。
じいさん、金を渡しておくよ」
と言うと袖の下から幾つもの唐草模様の風呂敷を取り出した。
「これが第一王子に依頼料の5億。こっちが違約金の10億。
第二王子の依頼料5億。第四王子からの暗殺料2億に王妃からの依頼の暗殺料5億。
奴隷を解放するときに、いくらか使っているから若干少ないが、渡しておくよ」
と老人の前に唐草模様の風呂敷を積み上げた。
「いや、良い。ボーナスじゃ。取っておけ」
「いや、要らないよ。金や白金の含有量の少ない硬貨はゴミと同じだ。
邪魔になるだけだ。
王家がケチ臭いと硬貨までケチ臭くなるからな!
あんたのことなら、どの道この世界も廃棄するんだろ。
使い道の無い硬貨なんて持っていても仕方ないだろ?
『欠片』だけでいいよ」
老人はどこからとも無く、拳より二周りほど小さいビー玉のような青く輝く石を取り出すと勇者と言われる男に手渡した。
「毎度あり~~!!
これさえあればいつでも依頼は受けるから、次の仕事を待っているぜ!」
「お前もそんな石ころ集めてどうするんだ!」
「な~~に、これを108個集めると願いが叶うんだよ!」
「集めて何を望む? 世界征服か?」
「止めてくれよ~ そんな面倒臭いことは勘弁してくれ。
そこまで暇人じゃないよ。もう一個くれたら話してやってもいいぜ!!
沢山、ガメているんだろ!!」
「止めておこう。お主をこき使ってやるつもりでおるのでな。
お主ほどの力があればワシを殺して奪い取ることも可能なのに何故しない?」
「それは美しくないだろ~ 美学に反する!
奪い取るのはルール違反だ。
契約をして働いた分、報酬を受け取る。
時間は腐るほどあるからな」
「美学じゃと!? あれだけ悪どい事をしていて、どの口が言う?」
「そうか? じいさんの方が悪どいと思うぜ。
この世界も消滅させるんだろ?
一体何回目だ? 4回?5回目くらいか?
あまり人間を舐めない方がいいぜ。
ジーライスト、いくらあんたが神だと言っても限度はあるだろ?
あんたは人間に完璧を求めすぎなんじゃないのか?
人間は失敗を繰り返して成長していく。
最初から完璧では無い。いきなり多くを求めすぎなんじゃないのか?
そのうち人間の方から『あんたを殺してくれ』って依頼が来るかもしれないぜ」
「
「『欠片』さえ貰えれば、神でも悪魔でも喜んで殺すぜ!
契約は絶対なんでね」
と男は肩をすくめながら答えた。
「
そうか、それが正しいのかもしれないな」
「あんたの仲間内で神様ごっこが流行っているのかもしれないが、それに付き合わされる人間の身にもなってみたらどうだ?
少し失敗したくらいで世界ごと消滅させるなんて、うちのデビルロードたちでもやらないぜ」
「理想の世界を作るためなのだ! 他の神に負ける訳には行かないのだ!」
「まぁ、神様ごっこの話は俺の関知する事じゃないから好きにすれば良い。
が、人間の恨みは舐めない方が良い。
俺のいた世界の独裁者が、とある民族の同級生から受けた屈辱が忘れられず、その民族を根絶やしにしたこともあったからな。
もう一度、言っておくが人間を舐めない方が良いぜ。
まぁ
「人間の俺が言うのだから間違いないぜ!
じいさん!
じゃ、俺は行くよ! またのご用命をお待ちしています。
じゃあな!」
と
「『人間の俺か』・・・・・人間だったの間違いじゃろう」
老人は右手の平を下に向け指をゆっくり少しだけ曲げると手の平に大地が吸い込まれていった。
吸い込み終わると老人の周りはカラフルな色が着いた空間がウネリ、時間がネジレ、次元の狭間に立っていた。
そのとき、一つの世界が静かに消え老人は一人暗黒の空間に立っていた。
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